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健康運動実践指導者の試験対策はスキマ時間で基礎学習【重要語句】

本サイトは、健康運動実践指導者の資格取得を目指す方々のための学習支援サイトです。

テキストの重要項目を体系的に整理し、試験対策に役立つ知識を分かりやすく解説しています。

「健康運動実践指導者とは」

健康運動実践指導者は、積極的な健康づくりを目的とした運動を安全かつ効果的に実践指導できる指導者です。

運動指導の現場では、適切な運動プログラムの作成能力、実演能力、そして優れた指導能力が求められます。

健康運動実践指導者は、人々の健康づくりを支援する重要な役割を担う資格であり、その知識と技術を正確に理解することが大切です。

テキストには、実際の運動指導の現場で必要となる実践的な内容が多く含まれています。

生活習慣病やスポーツ障害、栄養はもとより、運動・トレーニングの原理・原則から、具体的なプログラム作成方法、さらには対象者への配慮事項まで、幅広い知識が求められます。

目次

第1章 健康づくり施策概論

健康と健康増進の概念

【WHO憲章における健康の定義】(1946年)

  • 定義:「健康とは、単に病気あるいは虚弱でないというだけではなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である」
  • 特徴:健康に積極的な意味を付与
  • 意義:ヘルスプロモーション(健康増進)の出発点となった

【アルマ・アタ宣言】(1978年) 主な内容:

  • 目標:2000年までに世界中の人々が社会的にも経済的にも生産的な生活を送れる健康水準への到達
  • 特徴:主に発展途上国での保健医療活動として提唱
  • 重要概念:プライマリ・ヘルス・ケア
    • 定義:世界中のあらゆる健康、疾病に対し総合的・継続的・全人的に対応する地域の政策と機能

【オタワ憲章】(1986年) ヘルスプロモーションの定義:

  • 「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」
  • 「健康は生きる目的ではなく生活の資源である」

特徴:

  1. 個人の健康管理・健康教育にとどまらない
  2. 健康な家庭、地域社会、学校、職場づくりを含む
  3. ライフスタイルと政策の両面からのアプローチ
  4. わが国の健康づくり施策の変遷

【第1次国民健康づくり対策】(1978年) 主な内容:

  1. 生涯を通じての健康づくり推進策
  2. 市町村保健センターの設置とマンパワーの確保
  3. 健康づくり啓発普及対策

特徴:

  • 2次予防(早期発見、早期治療)重視
  • 自らの健康は自らが守るという新たな視点導入

【第2次国民健康づくり対策】(1988年 アクティブ80ヘルスプラン) 目標:80歳になっても自立した生活を送れる社会の実現

特徴:

  1. 1次予防重視
  2. 栄養・運動・休養の3要素のバランス
  3. 民間活力の活用による環境整備
  4. 運動指導者の養成開始(健康運動指導士、健康運動実践指導者)

健康づくり施策の展開

【第3次国民健康づくり対策】(2000年~:健康日本21) 目標:

  1. 壮年期死亡の減少
  2. 健康寿命の延伸
  3. 生活の質(QOL)の向上

特徴:

  • 一次予防の重視
  • 9分野での具体的数値目標設定
    • 栄養・食生活
    • 身体活動・運動
    • 休養・こころの健康
    • たばこ
    • アルコール
    • 歯の健康
    • 糖尿病
    • 循環器病
    • がん

【健康増進法】(2002年) 目的:

  • 国民の健康増進の総合的推進
  • 国民保健の向上

重要事項:

  • 国民の健康増進は国民の責務
  • 受動喫煙の防止を法律に明記
  • 国、地方公共団体、企業の支援責務

【第4次国民健康づくり対策】(2013年~:健康日本21(第二次)) 基本方針:

  1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
  2. 生活習慣病の発症予防と重症化予防
  3. 社会生活を営むために必要な機能の維持・向上
  4. 健康を支え、守るための社会環境の整備
  5. 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣と社会環境の改善
  6. 生活習慣病とメタボリックシンドローム

【生活習慣病の定義】 「食事、運動などの生活習慣が発症・進行に関与する疾患群」

主な疾患:

  • 2型糖尿病
  • 肥満症
  • 脂質異常症
  • 高血圧
  • がん
  • 循環器病
  • COPD
  • 歯周病

【メタボリックシンドローム】 定義:内臓肥満に加えて高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさった状態

診断基準: 必須条件

  • 腹囲 男性≧85cm、女性≧90cm

かつ以下の2項目以上:

  1. 高トリグリセライド血症≧150mg/dl かつ/または低HDLコレステロール血症<40mg/dl
  2. 収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHg
  3. 空腹時高血糖≧110mg/dl

介護予防に関する重要事項

【人口の高齢化の現状】

  • 平均寿命:男性81.05年、女性87.09年(令和4年簡易生命表)
  • 高齢者割合の推移:
    • 2000年:約20%(5人に1人)
    • 2020年:約25%(4人に1人)
    • 2036年:33.3%(3人に1人)予測

【介護保険法】(2000年~) 対象:

  • 第1号被保険者:65歳以上
  • 第2号被保険者:40-65歳未満の医療保険加入者

特徴:

  • 強制加入制度
  • 市町村への申請により要支援・要介護認定を受ける
  • 令和3年4月時点で684万人が認定(制度開始から3.1倍に増加)

高齢者の健康課題

【サルコペニア】 定義:

  • 加齢に伴う全身性の筋肉量と筋力・身体機能の低下
  • 2016年に国際疾病分類に登録された疾患

特徴:

  • 筋肉の力、機能、量の3指標で判定
  • 日常生活動作の制限
  • 転倒リスクの増加
  • 運動と栄養で改善可能

【ロコモティブシンドローム(ロコモ)】 定義:

  • 運動器の障害により移動機能が低下した状態
  • 2007年に日本整形外科学会が提唱

評価方法:

  1. 立ち上がりテスト(下肢筋力)
  2. 2ステップテスト(歩幅)
  3. ロコモ25(運動器の不調に関する質問票)

【フレイル】 定義:

  • 高齢者の生理的予備能が低下し、要介護の前段階に至った状態

3つの側面:

  1. 身体的フレイル
  2. 社会的フレイル
  3. 精神・心理的フレイル

評価基準(日本版フレイル基準): 以下の5項目のうち3項目以上で該当:

  1. 体重減少(6ヶ月で2kg以上の意図しない減少)
  2. 筋力低下(握力:男性<28kg、女性<18kg)
  3. 疲労感
  4. 歩行速度の低下(<1.0m/秒)
  5. 身体活動の低下

第2章 運動生理学

運動の発現メカニズム

【神経系の分類】

  1. 解剖学的分類
  • 中枢神経系:脳、脊髄
  • 末梢神経系:脳神経(12対)、脊髄神経(31対)
  1. 機能的分類
  • 体性神経:運動神経、感覚神経
  • 自律神経:交感神経、副交感神経

【運動の種類】

  1. 不随意運動 a) 反射:
  • 定義:無意識下で行われる単純な運動
  • 例:膝蓋腱反射、熱いものに触れた時の反応
  • 特徴:「感覚器→反射中枢→効果器(筋)」という単純な経路

b) 定型運動(自動運動):

  • 定義:複雑だが反復性をもつ運動
  • 例:歩行運動、呼吸運動
  • 特徴:いったん開始されると無意識に行える
  1. 随意運動 発現過程:
  2. 運動の発動欲求(大脳辺縁系)
  3. 運動プランの作成(皮質連合野)
  4. 運動プログラム・戦略の選択と形成
  5. 運動の実行

【運動単位】 定義:1つのα運動ニューロンとそれに支配される筋線維群 特徴:

  • 細かい動きの筋:数本~数十本の支配
  • 大きな力を出す筋:数千本の支配
  • 力の発揮には運動単位の数と放電頻度が重要

骨格筋収縮のメカニズムとエネルギー供給

【骨格筋の構造】

  • 主成分:水とたんぱく質
  • 筋線維(筋細胞)の構成:
    • 直径:20-100μm
    • 長さ:数mmから10cm以上
    • 筋原線維(直径約1μm)を含む

【筋原線維の構成要素】

  1. ミオシンフィラメント(太いフィラメント)
  2. アクチンフィラメント(細いフィラメント)
  3. トロポミオシン
  4. トロポニン

【筋収縮のメカニズム】 過程:

  1. 運動ニューロンから筋線維への指令伝達
  2. 神経筋接合部でのアセチルコリン放出
  3. T管を通じた活動電位の伝播
  4. 筋小胞体からのCa²⁺放出
  5. Ca²⁺とトロポニンCの結合
  6. ミオシンとアクチンの相互作用による収縮

【エネルギー供給機構】

  1. 無酸素性エネルギー供給機構 a) ATP-CP系:
  • 即時的エネルギー供給
  • 運動継続時間:約8秒
  • クレアチンリン酸の分解でATP再合成

b) 解糖系:

  • グリコーゲンからピルビン酸への変化
  • 1モルのグリコーゲンから3モルのATP産生
  • 運動継続時間:約33秒
  • 重量挙げや短距離走などの高強度運動で主に使用
  1. 有酸素性エネルギー供給機構(クエン酸回路と電子伝達系)
  • 酸素を必要とする
  • グルコース1モルから38モルのATP産生
  • 長距離走や低強度活動で主に使用
  • 酸素供給が続く限り継続可能

筋線維タイプと収縮特性

【筋線維の分類】

  1. 見かけの色による分類
  • 赤筋:ミオグロビン含有量が多い、持久的
  • 白筋:ミオグロビン含有量が少ない、瞬発的
  1. 収縮速度による分類
  • タイプI線維(遅筋線維):収縮速度遅い、疲労しにくい
  • タイプⅡ線維(速筋線維):収縮速度速い、疲労しやすい
    • タイプⅡA線維
    • タイプⅡB線維
  1. 代謝特性による分類
  • SO(slow-twitch oxidative)線維:収縮遅く、有酸素的
  • FOG(fast-twitch oxidative glycolytic)線維:収縮速く、両方の代謝
  • FG(fast-twitch glycolytic)線維:収縮速く、無酸素的

【筋線維タイプと競技特性】

  • スプリンター:速筋線維80%以上
  • マラソンランナー:遅筋線維80%以上
  • 一般人:速筋:遅筋 = 約50:50

【筋線維タイプの決定要因】

  1. 遺伝(最も大きな要因)
  2. 運動神経の働き
  3. ホルモンの影響
  4. トレーニング(わずかな変化の可能性)
  5. 筋収縮の様式と筋力

【筋収縮の3様式】

  1. 短縮性収縮:
  • 筋が短くなりながら力を発揮
  • 例:腕相撲で勝っている状態
  1. 等尺性収縮:
  • 筋の長さが変わらず力を発揮
  • 例:腕相撲で拮抗している状態
  1. 伸張性収縮:
  • 筋が伸びながら力を発揮
  • 例:腕相撲で負けている状態

【筋力を決める要因】

  1. 関節角度
  • 肘や膝では100°付近で最大筋力発揮
  • テコの原理に従う
  1. 骨格筋量
  • 筋の横断面積と比例
  • 固有筋力は性別や人種差が少ない
  1. 神経系の調節
  • 運動単位の動員
  • 発射頻度の調節

運動時の呼吸循環系の機能

【呼吸系の構造と機能】 構成要素:

  • 気道(口、鼻を含む)
  • 肺(肺胞でガス交換)
  • 呼吸筋(肋間筋、横隔膜)

機能:

  1. 酸素の取り込み
  2. 二酸化炭素の排出
  3. 運動に必要な有酸素代謝の維持

【循環系の構造と機能】

  1. 心臓の構造:
  • 右心房、右心室
  • 左心房、左心室
  • 4つの部屋による二重ポンプ構造
  1. 循環経路: a) 体循環:
  • 左心室→大動脈→全身→大静脈→右心房
  • 酸素と栄養の供給、老廃物の回収

b) 肺循環:

  • 右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房
  • 血液の酸素化と二酸化炭素の排出

【血管の役割】

  1. 動脈:
  • 血液を末梢へ運ぶ
  • 血管壁は3層構造(内膜、中膜、外膜)
  • 弾性により血流を維持
  1. 毛細血管:
  • 物質交換の場
  • 薄い血管壁で拡散が容易
  1. 静脈:
  • 血液を心臓へ戻す
  • 逆流防止弁あり
  • 筋ポンプ作用で還流を促進

【血液の役割】 構成:

  • 血漿成分(約60%)
  • 血球成分(約40%)

機能:

  1. 酸素・栄養素の運搬
  2. 二酸化炭素・代謝産物の除去
  3. 体温調節
  4. 免疫機能
  5. ホルモン輸送

運動時の呼吸循環応答

【運動時の呼吸の変化】 安静時と比較した変化:

  • 呼吸数:10-20回/分 → 40-80回/分
  • 1回換気量:0.5L → 2.0L
  • 分時換気量:5-10L/分 → 80-150L/分

【運動時の心臓の応答】

  1. 心拍数の変化:
  • 運動強度に比例して直線的に増加
  • 最高心拍数 = 220 – 年齢(推定式)
  • 青年期で190-200拍/分程度
  1. 1回拍出量の変化:
  • 最大酸素摂取量の約50%まで漸増
  • その後はほぼ一定
  • 安静時の1.5-2.0倍に増加
  1. 心拍出量の変化:
  • 運動強度に比例して増加
  • 安静時の4-6倍(15-20L/分)に増加
  • 持久的スポーツ選手では25-35L/分も可能

【血圧の変化】

  • 収縮期血圧:運動強度とともに直線的に上昇
  • 拡張期血圧:あまり変化せず、場合により低下
  • 運動後低血圧:運動終了後、一時的な血圧低下
  1. 酸素摂取量と運動

【最大酸素摂取量(VO2max)】 定義:

  • 単位時間当たりに摂取できる最大の酸素量
  • 全身持久力の指標として使用

一般的な値(青年期): 男性:

  • 2.5-3.5L/分
  • 35-55mL/kg/分

女性:

  • 1.5-3.0L/分
  • 30-50mL/kg/分

【無酸素性閾値(AT)】 特徴:

  • 有酸素性から無酸素性代謝への移行点
  • 換気量増加の屈曲点
  • 高齢者や有病者の運動強度設定の指標
  • 血中乳酸蓄積の開始点

発育・発達と加齢

【身長の発育】 発育急進期:

  1. 第一発育急進期:誕生から幼児期前半
  2. 第二発育急進期(思春期発育スパート期):
  • 女子:9.5歳頃
  • 男子:11.5歳頃
  • 性差:女子が約2年早い

【体重・体組成の発育】

  • 最大発育年齢:男子11.5歳、女子10.5歳
  • 体脂肪率:11歳頃から女子で増加が著しい
  • 筋断面積:男子は12歳以降の増加が顕著

【体力・運動能力の発達】 神経系の発達:

  • 全身反応時間:10歳代半ばに最短値
  • その後加齢とともに延長

有酸素性能力:

  • 男子:19歳頃まで増加
  • 女子:15歳頃でほぼ最大値に到達

筋力:

  • 男子:13-16歳で著しい増加
  • 女子:14-15歳で増加が緩やか

【加齢に伴う変化】 筋量:

  • 40歳代前半までは維持
  • 45歳以降から低下
  • 下半身の低下が顕著

骨量:

  • 20-30歳代がピーク
  • その後徐々に減少
  • 女性は50歳以降急激に減少

体力・運動能力:

  • 20歳から50歳まで大きな変化なし
  • 50歳以降から低下
  • 70歳時の最大酸素摂取量:20歳時の 男性58%、女性46%まで低下

体力に及ぼす要因

【先天的要因(遺伝)の影響】 遺伝率:

  • 持久力:44-68%
  • 筋力:48-56%

【後天的要因(運動実践)の効果】

  • 最大酸素摂取量の向上
  • 生活習慣病の予防・改善
  • 動脈硬化度の低下
  • 骨密度の上昇
  • 筋量の増加
  • 認知機能の改善

第3章 機能解剖とバイオメカニクス

1. 骨の構造と機能

骨の基本構造

皮質骨(緻密骨):

  • 定義:骨の外周を取り囲む殻状の部分
  • 特徴:層状構造で密度が高い
  • 位置:両端の骨端部では薄く、骨幹部で厚くなる

海綿質(海綿骨):

  • 定義:骨の内部にある網目状の構造
  • 特徴:スポンジ様の構造(英語ではspongy bone)
  • 機能:荷重方向に配列し、柱のような骨梁を形成

骨髄:

  • 定義:海綿質の内部の隙間を埋める軟部組織
  • 機能:造血作用を担う

骨の主要機能

  1. 運動機能:骨格の構成
  2. 支持機能:身体全体の支持
  3. 保護機能:内部臓器の保護(肋骨・骨盤・頭蓋骨など)
  4. 代謝機能:ミネラルの貯蔵
  5. 造血機能:骨髄での血液生成

骨の分類

長管骨(長骨):

  • 定義:長く中空の骨幹と端部を持つ骨
  • 例:上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨、鎖骨
  • 特徴:大きな運動を可能にする設計

短骨:

  • 定義:小さく硬いブロック状の骨
  • 例:手根骨、足根骨
  • 特徴:力の伝達や衝撃の吸収に適する

扁平骨:

  • 定義:表面が平たく薄い骨
  • 例:肋骨、頭蓋骨、肩甲骨、胸骨、寛骨
  • 機能:主に保護の役割を担う

2. 関節の構造と機能

関節の基本構造

関節の構成要素:

  • 関節頭:一方の凸面
  • 関節窩:他方の凹面
  • 関節軟骨:関節面を覆い、運動の滑らかさとクッション性を提供
  • 関節包:関節を包む靱帯様の組織
  • 滑膜:関節包の内面を被覆し、滑液を分泌

関節の分類

蝶番関節:

  • 定義:関節頭が円柱状で、関節窩がその形状に合わせた関節
  • 例:肘、膝の関節の一部、指節間関節
  • 運動:ちょうつがいのような屈伸運動

球関節:

  • 定義:関節頭が半球状で、関節窩も半球状のくぼみを持つ関節
  • 例:肩関節、股関節
  • 特徴:あらゆる方向の運動が可能

車軸関節:

  • 定義:関節頭が円柱状で、関節窩が半円形にくぼんだ関節
  • 例:橈骨と尺骨の間の関節、頸椎
  • 機能:回転運動が可能

鞍関節:

  • 定義:関節頭も関節窩も馬の鞍状の形状を持つ関節
  • 例:母指の手根骨と中手骨の間
  • 特徴:複雑な運動が可能

3. 筋の構造と機能

骨格筋の基本構造

筋線維(筋細胞):

  • 定義:骨格筋を構成する基本単位
  • 特徴:直径20-100μm、長さ数mmから10cm以上
  • 構造:筋原線維を含む

筋原線維:

  • 定義:筋線維内の収縮要素
  • 直径:約1μm
  • 構成:ミオシンフィラメントとアクチンフィラメント

筋の分類

紡錘状筋:

  • 定義:筋線維が腱等の付着部にまっすぐに走行している筋
  • 特徴:単純な収縮方向

羽状筋:

  • 定義:筋線維走行が斜めの筋
  • 特徴:複雑な力の伝達が可能

筋の主要機能

  1. 運動の発生
  2. 姿勢保持
  3. 関節の安定
  4. 熱の発生
  5. 血液循環の補助(ポンプ作用)

4. 筋腱複合体の特性

弾性要素

直列弾性要素:

  • 定義:主として腱とミオシン分子の弾性
  • 特徴:腱が長いほど大きい

並列弾性要素:

  • 定義:筋線維周囲の結合組織と細胞膜などの弾性
  • 構成要素:
    • 結合組織
    • 筋線維細胞膜
    • コネクチンフィラメント

運動量とカ積

運動量:

  • 定義:運動している物体の勢い
  • 計算:質量×速度
  • 単位:kgm/s

力積:

  • 定義:力の大きさと働いた時間の積
  • 特徴:運動量の変化に等しい

着地衝撃の緩和法

衝撃吸収方法:

  1. 外的方法:
    • プロテクター装着
    • 適切なシューズの使用
  2. 内的方法:
    • 下肢の屈曲による衝撃吸収
    • 適切な受け身の使用

5. 水中運動の特性

浮力

定義:

  • 水中で物体が受ける上向きの力

特徴:

  • アルキメデスの原理に基づく
  • 水深により変化(深いほど大きい)
  • 自重負荷の軽減効果
    • 臍レベル:自重の約5割軽減
    • 腋窩レベル:自重の約8割軽減

浮心と重心

浮心:

  • 定義:浮力の合力が働く点
  • 特徴:水中部分の形状により決定

重心:

  • 定義:重力が一点に働いているとみなせる点
  • 特徴:身体各部の質量分布により決定

抗力

定義:

  • 水中での移動を妨げる力

特徴:

  • 速度の2乗に比例
  • 運動負荷として利用可能
  • 転倒リスクの低減効果

水中歩行の特徴

陸上歩行との違い:

  1. 運動学的特徴:
    • 歩幅の増大
    • ケイデンスの低下
    • 速度の低下
  2. 力学的特徴:
    • 床反力の減少
    • 抗力による後方への力
    • 関節負荷の軽減
  3. 筋活動の特徴:
    • 足関節トルクの減少
    • 膝関節トルクパターンの変化
    • 股関節伸展トルクの持続的発揮

 

第4章 栄養摂取と運動

栄養素の基礎知識

【五大栄養素の役割】

  1. 主な役割は3つ:
  • エネルギーの産生
  • 身体の構成成分
  • 身体機能の調節
  1. エネルギー産生栄養素:
  • 炭水化物(4kcal/g)
  • 脂質(9kcal/g)
  • たんぱく質(4kcal/g)

【各栄養素の詳細】

  1. 炭水化物: a) 糖質:
  • 多糖類(でんぷん、グリコーゲン)
  • 二糖類(麦芽糖、ショ糖、乳糖)
  • 単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース)

b) 食物繊維:

  • ヒトの消化酵素で消化されない/されにくい成分
  • 整腸作用
  • コレステロール吸収抑制作用
  • 腸内有用細菌の増殖補助
  1. 脂質: 主な種類:
  • 中性脂肪(トリグリセリド)
  • コレステロール
  • リン脂質

役割:

  • 主なエネルギー源
  • 細胞膜の構成成分
  • ホルモン生成
  1. たんぱく質: 特徴:
  • 20種類のアミノ酸から構成
  • からだの構成成分の15%強
  • 必須アミノ酸は9種類

役割:

  • からだの構成
  • 化学反応の触媒
  • 物質の輸送
  • 病原菌からの感染防止

無機質(ミネラル)とビタミン、水

【無機質(ミネラル)】

  • 体内の元素の約4%を占める
  • 体内では合成不可能

分類:

  1. 多量ミネラル:
  • ナトリウム
  • カリウム
  • カルシウム
  • マグネシウム
  • リン
  1. 微量ミネラル:
  • 亜鉛
  • マンガン
  • ヨウ素
  • セレン
  • クロム
  • モリブデン

【不足しがちな無機質】

  1. カルシウム:
  • 体内の99%は骨や歯に存在
  • 役割:血液凝固、筋収縮、神経の興奮抑制
  1. 鉄:
  • 血色素(ヘモグロビン)の構成成分
  • 酸素の運搬や利用に関与
  • 不足すると鉄欠乏性貧血

【ビタミン】 分類:

  1. 脂溶性ビタミン:
  • ビタミンA
  • ビタミンD
  • ビタミンE
  • ビタミンK
  1. 水溶性ビタミン:
  • ビタミンB₁
  • ビタミンB₂
  • ナイアシン
  • ビタミンB₆
  • ビタミンB₁₂
  • 葉酸
  • パントテン酸
  • ビオチン
  • ビタミンC

【水の重要性】

  • からだの構成成分の55-65%を占める
  • 栄養素、酸素、二酸化炭素、老廃物の運搬
  • 体温調節に重要
  • 1日2-3リットルの出納
  • 特に乳幼児や高齢者は脱水に注意

食物の消化・吸収

【消化の定義】

  • 食物の大きな分子を小さな分子に分解すること
  • 物理的消化:噛むこと
  • 化学的消化:消化酵素による分解

【消化の過程】 消化に関わる酵素の所在と作用:

  1. 口腔(唾液):
  • アミラーゼによる炭水化物の分解開始
  1. 胃(胃液):
  • ペプシンによるたんぱく質の分解
  • 塩酸による殺菌作用
  1. 十二指腸・小腸(胆汁・膵液):
  • 膵リパーゼによる脂質の分解
  • トリプシン、キモトリプシンによるたんぱく質の分解
  • アミラーゼによる炭水化物の分解
  1. 小腸上皮細胞:
  • 二糖類分解酵素
  • ペプチダーゼ
  • 腸リパーゼ

【最終的な消化・吸収形態】

  1. 炭水化物:
  • 単糖類として吸収
  1. たんぱく質:
  • アミノ酸として吸収
  1. 脂質:
  • グリセロールと脂肪酸として吸収

【食品群について】 主な分類:

  1. 三色食品群:
  • 赤群:血や肉をつくる(たんぱく質主体)
  • 黄群:エネルギーとなる(炭水化物、脂質主体)
  • 緑群:体の調子を整える(ビタミン、ミネラル主体)
  1. 六つの基礎食品群:
  • 1群:魚、肉、卵、大豆
  • 2群:牛乳、乳製品、小魚
  • 3群:緑黄色野菜
  • 4群:その他の野菜、果物
  • 5群:米、パン、めん類
  • 6群:油脂

運動時のエネルギー源と消費量

【エネルギー源の種類】 主なエネルギー源:

  1. 糖質:
  • 筋内や肝臓にグリコーゲンとして貯蔵
  • 貯蔵量は約480g程度
  • 血糖として運搬
  1. 脂肪:
  • 多量に貯蔵(体重60kgで体脂肪率20%の場合、12kg)
  • 筋間・筋内および皮下脂肪として貯蔵
  • 遊離脂肪酸の形で血液中に放出
  1. たんぱく質:
  • 主に筋に貯蔵
  • エネルギー源としては補助的

【運動時のエネルギー利用】 影響を与える要因:

  1. 運動強度
  2. 運動継続時間
  3. 食事内容と食後経過時間

特徴:

  • 運動開始直後は糖質の利用が多い
  • 時間経過とともに脂肪利用の割合が増加
  • 強度が強いと糖質利用が増加
  • 中強度で脂肪利用が最も多い

【エネルギー消費量の推定法】

  1. メッツ(METs)を用いた方法:
  • 1メッツ = 安静時酸素摂取量(3.5ml/kg/分)
  • エネルギー消費量(kcal) = メッツ×時間×体重(kg)
  1. 心拍数を用いた方法:
  • 運動強度と心拍数の関係から推定
  1. 代表的な運動のエネルギー消費量表の利用:
  • 運動強度と時間から推定
  • 体重による補正が必要

エネルギーバランスと体重調整

【エネルギーバランスの評価】 評価方法:

  1. 体重の変化
  2. BMI(Body Mass Index)
  • 体重(kg)÷身長(m)²
  • 標準:18.5-24.9
  • 年齢による基準値の違いあり

【体重調整の基本原則】 減量の場合:

  1. 適切な減量速度:月1kg程度
  2. 1日あたりのエネルギーバランス:-240kcal程度
  3. 食事制限と運動の併用が望ましい

注意点:

  • 急激な減量は避ける
  • 除脂肪量の維持に配慮
  • 体重1kgの減量は約7,000kcalに相当

【運動と食事の組み合わせ】 例:

  • 茶碗1杯のごはんの制限
  • 週6回、40分のジョギング →ほぼ同程度の負のエネルギーバランス
  1. 日本人の食事摂取基準と食生活指針

【食事摂取基準2020年版の特徴】 目的:

  1. 健康の保持・増進
  2. 生活習慣病の発症予防
  3. 重症化予防
  4. 高齢者の低栄養予防
  5. フレイル予防

【食生活指針の10項目】

  1. 食事を楽しみましょう
  2. 1日の食事のリズムから健やかな生活リズムを
  3. 適度な運動とバランスのよい食事で適正体重の維持を
  4. 主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを
  5. ごはんなどの穀類をしっかりと
  6. 野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて
  7. 食塩は控えめに、脂肪は質と量を考えて
  8. 日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を
  9. 食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を
  10. 「食」に関する理解を深め、食生活を見直してみましょう

 

第5章 運動指導の心理学的基礎

1. 運動実践に影響を与える要因

運動実践の決定要因

社会的要因:

  • 定義:家族、友人、運動教室の指導者からの運動に対するサポート
  • 具体例:
    • 一緒に運動を行う
    • 運動について話し合う
    • 励ましや理解を示す
    • よいモデルとなること

心理的要因:

  • セルフェフィカシー:
    • 定義:「運動を妨げる要因を克服する見込み感(自信)」
    • 特徴:運動の最も強力な決定要因の1つ
    • 向上方法:
      1. 成功体験を積む
      2. 代理的経験をする
      3. 言語的説得を受ける
      4. 生理・情動的に喚起される

環境的要因:

  • 定義:運動実施に影響を与える物理的・社会的環境
  • 具体例:
    • 運動施設へのアクセス
    • 自宅周辺の安全性
    • 運動器具の有無
    • 天候・気候条件

2. 運動実践の心理的効果

メンタルヘルスへの効果

不安・抑うつの低減:

  • 一過性の効果
  • 定期的実施による長期的効果
  • 有酸素運動、ストレングス運動、柔軟性運動いずれも効果あり

感情への効果:

  • 肯定的気分の増加
  • 肯定的感情の向上
  • 自尊感情の向上
  • 身体的自己知覚の改善

認知的方略

連合的方略(アソシエーション):

  • 定義:身体内部の感覚に注意を向ける方略
  • 使用場面:高強度運動時など

分離的方略(ディソシエーション):

  • 定義:身体徴候から注意をそらす方略
  • 効果:運動後の感情が好ましくなる
  • 具体例:
    • 一緒に運動する人に注目
    • まわりの景色に注目

3. 行動変容の理論とモデル

トランスセオレティカル・モデル(TTM)

定義: 行動に対する個人の準備性に合わせた介入を行うためのモデル

構成要素:

  1. 変容ステージ
  2. セルフェフィカシー
  3. 意思決定のバランス
  4. 変容プロセス

変容ステージの5段階:

  1. 前熟考ステージ:
    • 現在行っていない
    • 今後行うつもりもない
  2. 熟考ステージ:
    • 現在行っていない
    • 今後行うつもりはある
  3. 準備ステージ:
    • 不定期に行っている
    • 今後すぐに行うつもり
  4. 実行ステージ:
    • 定期的に行っている
    • 始めたばかり
  5. 維持ステージ:
    • 定期的に継続している
    • 6カ月以上の継続

HAPA(Health Action Process Approach)

定義: 意図-行動間のギャップを説明する理論

2つの局面:

  1. 動機づけの局面:
    • 行動セルフェフィカシー
    • 結果予期
    • リスク知覚
  2. 意志の局面:
    • 行動計画づくり
    • 対処計画づくり
    • 行動の開始・維持

4. 運動指導の実践的手法

動機づけ面接

定義: 「患者の中のアンビバレンス(両面感情)を探り、解消することにより、患者の動機づけを高める患者中心の指導法」

重要な要素:

  1. 重要性と自信の評価
    • 0から10点での評価
    • 行動変容への準備性の把握
  2. OARS(基本的戦略):
    • O: 開かれた質問(Open Ended Question)
    • A: 是認(Affirming)
    • R: 聞き返し(Reflective Listening)
    • S: 要約(Summarizing)
  3. チェンジトーク:
    • 準備段階(DARN):
      • Desire(願望)
      • Ability(能力)
      • Reason(理由)
      • Need(必要性)
    • 実行段階(CATS):
      • Commitment(宣言)
      • Activation(活性化)
      • Taking steps(段階を踏む)

指導と受講のミスマッチ

3つの種類:

  1. 運動内容のミスマッチ:
    • 参加者の能力と運動強度の不一致
    • 運動経験の違いへの配慮不足
  2. 参加者の準備性のミスマッチ:
    • 運動に対する準備性の個人差
    • 介入方法の画一化
  3. 運動指導にかかわる効率と効果のミスマッチ:
    • 個別指導と集団指導の特性の違い
    • 「効果」と「普及」のバランス

 

第6章 体力測定と評価

体力の概念と分類

【体力の定義と構成要素】 広義の体力の構成:

  1. 身体的要素
    • 行動体力:形態と機能
    • 防衛体力:抵抗力、適応力、回復力
  2. 精神的要素
    • 意志
    • 意欲
    • 態度

【行動体力の構成要素】

  1. 体格(形態):
    • 身長、体重
    • 胸囲、座高など
  2. 機能: a) 筋力、筋パワー、筋持久力 b) 敏捷性 c) 平衡性 d) 協応性 e) 全身持久力 f) 柔軟性
  3. 新体力テストの概要

【目的と対象】

  • 高齢化の進展に伴う国民の体力把握
  • 対象年齢:6-79歳
  • 年齢区分:
    • 6-11歳(小学生)
    • 12-19歳(中学・高校生)
    • 20-64歳(成人)
    • 65-79歳(高齢者)

【測定項目】 全年齢共通項目:

  1. 握力
  2. 上体起こし
  3. 長座体前屈

年齢別項目:

  • 20-64歳:
    • 反復横とび
    • 20mシャトルランまたは急歩
    • 立ち幅とび

新体力テストの測定項目と実施方法

【握力】(筋力の測定) 準備物品:

  • スメドレー式握力計

測定方法:

  1. 直立姿勢で両足を自然に開く
  2. 握力計の指針を外側にして握る
  3. 腕を自然に下げ、体に触れないようにする
  4. 左右交互に2回ずつ測定
  5. 左右それぞれの良い方の記録を平均

【上体起こし】(筋持久力の測定) 準備物品:

  • ストップウォッチ
  • マット

測定方法:

  1. 仰臥姿勢で膝関節約90度に曲げる
  2. 両腕を胸の前で組む
  3. 30秒間で上体を起こす回数を測定
  4. 両肘が両大腿部に触れるまで起こす
  5. 背中がマットに触れるまで戻す

【長座体前屈】(柔軟性の測定) 準備物品:

  • 長座体前屈測定器
  • スケール

測定方法:

  1. 壁に背・臀部をつけ両脚を伸ばして座る
  2. 両手を前方に伸ばし測定器に軽く触れる
  3. 膝を曲げないよう徐々に前屈
  4. 2回測定し良い方の記録を採用

【反復横とび】(敏捷性の測定) 準備物品:

  • ストップウォッチ
  • ラインテープ

測定方法:

  1. 3本のライン(100cm間隔)
  2. 中央ラインをまたいで立つ
  3. 20秒間でできるだけ多く横移動
  4. 2回測定し良い方の記録を採用

新体力テストの測定項目(続き)

【20mシャトルラン】(全身持久力の測定) 準備物品:

  • CDまたは録音テープ
  • 再生用プレーヤー
  • 20m間隔のライン

測定方法:

  1. 電子音に合わせて20m間を往復
  2. 段階的に速度が上がる
  3. ラインに到達できなくなるまで継続
  4. 最後まで完了した折り返し回数を記録

注意点:

  • 2回続けてラインに到達できない場合は終了
  • CDプレーヤーは走行場所から離して設置
  • 健康状態のチェックが重要

【立ち幅とび】(筋パワーの測定) 準備物品:

  • 砂場または測定用マット
  • 巻き尺
  • ラインテープ

測定方法:

  1. 両足を軽く開いて踏み切り線の前に立つ
  2. 両足同時に前方へ跳躍
  3. 着地点と踏み切り線前端との距離を計測
  4. 2回測定し良い方の記録を採用

【急歩テスト】(全身持久力の測定:20mシャトルランの代替)

  • 女性:1000m
  • 男性:1500m
  • いずれかの足が常に地面についた状態で歩く
  • 時間を計測

特徴:

  • 高齢者や体力に自信のない人向け
  • 走らないよう注意が必要
  • 健康状態の事前チェックが重要

高齢者(65-79歳)の体力測定項目

【開眼片足立ち】(平衡性・バランスの測定) 準備物品:

  • ストップウォッチ

測定方法:

  1. 裸足で平らな床に立つ
  2. 両手を腰にあてる
  3. 片方の膝を軽く曲げて床から離す
  4. 最大120秒まで測定
  5. 2回測定し良い方の記録を採用

中止基準:

  • 支持脚が動いた場合
  • 腰から手が離れた場合
  • 上げた足が床に触れた場合

【10m障害物歩行】(歩行能力・動的平衡性の測定) 準備物品:

  • 障害物(高さ20cm)
  • ビニールテープ
  • ストップウォッチ

測定方法:

  1. 10mの直線に2m間隔で障害物を設置
  2. スタートラインで両足をそろえて立つ
  3. 障害物をまたぎ越しながら歩く
  4. 最後の障害物を越えて片足が接地した時点でゴール
  5. 2回測定し良い方の記録を採用

注意点:

  • 走ったり跳び越したりしない
  • 障害物を倒しても継続可能

【6分間歩行】(全身持久力の測定) 準備物品:

  • ストップウォッチ
  • 距離表示の目印
  • スタート合図用の旗や笛

測定方法:

  1. 30m以上の周回路または50m以上の往復路を使用
  2. 6分間できるだけ多く歩く
  3. 普段の速さで歩くよう指示
  4. 5mごとに距離を計測(5m未満は切り捨て)

注意点:

  • 走らないよう指導
  • 複数人で測定する場合は出発位置をずらす
  • 1分ごとに経過時間を知らせる

ロコモ度テスト

【立ち上がりテスト】 目的:下肢筋力の評価

測定方法:

  1. 40cm, 30cm, 20cm, 10cmの台を用意
  2. 両腕を胸の前で組む
  3. 反動をつけずに立ち上がり、3秒間保持
  4. 両脚および片脚で実施

判定:

  • ロコモ度1:片脚で40cm台から立ち上がれない
  • ロコモ度2:両脚で20cm台から立ち上がれない
  • ロコモ度3:両脚で30cm台から立ち上がれない

【2ステップテスト】 目的:歩幅から移動能力を評価

測定方法:

  1. スタートラインで両足をそろえる
  2. できるだけ大股で2歩歩く
  3. 2歩分の最大歩幅を測定
  4. 2ステップ値 = 2歩幅÷身長

判定:

  • ロコモ度1:2ステップ値 1.1~1.3未満
  • ロコモ度2:2ステップ値 0.9~1.1未満
  • ロコモ度3:2ステップ値 0.9未満

【ロコモ25】 目的:運動器の状態・生活状況の評価

内容:

  • 25項目の質問票
  • 痛みや日常生活動作の困難さを評価
  • 5段階で回答

判定:

  • ロコモ度1:7点以上16点未満
  • ロコモ度2:16点以上24点未満
  • ロコモ度3:24点以上

体力測定結果の分析・評価

【評価の視点】 分析の2つの側面:

  1. 集団の体力評価
  2. 個人の体力評価

【結果のフィードバック方法】

  1. 絶対値の返却:
  • 各計測値をそのまま示す
  1. 相対的評価:
  • 同年代の平均値との差を示す
  • 標準得点の算出
  • 体力要素ごとの相対評価
  1. クモの巣グラフなどの活用:
  • 視覚的に体力の特徴を表現
  • バランスの把握が容易

【標準得点の算出】 Zスコア(標準得点)の算出方法:

  • Z = (測定値 – 集団の平均値) ÷ 集団の標準偏差
  • 平均0、標準偏差1の分布に変換

Tスコアへの変換:

  • T = 10 × Zスコア + 50
  • 平均50、標準偏差10の分布に変換

【体力年齢による評価】 特徴:

  • 暦年齢とは別の体力の若さや充実度を表す尺度
  • 体力の水準を年齢という分かりやすい指標で表現
  • 運動習慣のある人は暦年齢より若い傾向
  • 座位中心の生活者は暦年齢より高い傾向

測定結果の活用法

【活用の目的】

  1. 指導者側の活用:
  • 劣っている体力要素の把握
  • 指導計画への反映
  • 運動プログラムの立案
  • 効果の確認
  1. 参加者側の活用:
  • 現状把握
  • 目標設定
  • 運動継続への動機づけ
  • 経時的変化の確認

【測定会の意義】

  • 社会参加の機会提供
  • 参加者同士の交流促進
  • 閉じこもり予防
  • うつの予防
  • コミュニケーションの場

第7章 健康づくりと運動プログラム

運動・トレーニングの原理・原則

【過負荷の原理】

  • 定義:運動・トレーニングによる身体機能向上のために、より高い負荷で運動・トレーニングする必要があること
  • 生活習慣病予防の場合、安全性を考慮し、運動強度を上げるのではなく運動時間や頻度を増やして負荷を高める

【可逆性の原理】

  • 定義:運動・トレーニングで機能が向上するが、中止すると向上した機能が元に戻ってしまうこと
  • 獲得した能力維持のため、継続的な運動・トレーニングが必要

【特異性の原理】 以下の3つの特異性がある:

  1. 部位特異性
  • 運動・トレーニングした器官(筋や骨など)のみに効果が現れる
  1. 速度特異性
  • 実施した筋の収縮速度においてのみ効果が得られる
  1. エネルギー代謝特異性
  • 有酸素性トレーニング→有酸素性能力が増加
  • 無酸素性トレーニング→無酸素性能力が増加

【全面性の原則】

  • 定義:身体全体(器官および機能)を対象とすべきという原則
  • 目的:バランスのとれた身体づくり
  • 特定の活動のみでは偏った発達となるため、満遍なく向上を目指す

【個別性の原則】 考慮すべき個人の特質:

  • 性、年齢、体力レベル
  • 生活環境、性格
  • 運動の嗜好
  • 健康状態
  • 体力特性

【意識性の原則】

  • 実践者(および指導者)が、どの機能・器官を対象としているかを常に意識すること
  • 運動・トレーニングの目的を明確にし、自覚をもって実施する必要性

【反復性の原則】

  • 一定の効果を得るには、規則的に一定期間繰り返し行う必要があること

【漸進性の原則】

  • 安全性や効果を高めるため、運動・トレーニング負荷(強度、時間、頻度)を徐々に高めていく
  • 体力評価に基づいて適正に負荷を設定する
  1. 運動プログラム作成上のポイント

【運動様式】 主な分類:

  1. 有酸素性運動
  2. レジスタンス運動
  3. 柔軟性運動
  4. バランス運動

【有酸素性運動】 定義:酸素を大量に取り入れ、大筋群を使ってリズミカルで活発に長時間行うことのできる運動

効果:

  1. 死因や早期死亡リスクの減少
  2. メタボリックシンドロームや生活習慣病の予防・改善
  3. あらゆる死亡率の減少
  4. 呼吸循環機能の改善
  5. 最大酸素摂取量や無酸素性閾値の向上

具体的な運動種目:

  • ウォーキング
  • 自転車
  • 水泳
  • ハイキング
  • エアロビックダンス
  • アクアビクス

【レジスタンス運動】 定義:筋力や筋持久力を高める運動

効果:

  1. 筋力・筋持久力・パワーの向上
  2. 日常生活活動能力、QOLの維持・向上
  3. 姿勢、バランス、協調性の改善
  4. 2型糖尿病の予防
  5. 除脂肪組織、安静時代謝量の維持・増加
  6. 骨量の維持・増加
  7. 腰痛予防

具体的な運動種目:

  • ウェイトトレーニング(フリーウェイト、マシン、自重負荷)
  • バンドやチューブ
  • 水中レジスタンス運動

【柔軟性運動】 定義:筋や腱を伸張させ関節の可動域を維持・向上させる運動

効果:

  1. 筋の緊張低下
  2. 傷害リスクの低下
  3. パフォーマンス向上
  4. 疲労回復

具体的な運動種目:

  • ストレッチング
  • ROM運動
  • ヨガ

【バランス運動】 定義:バランス能力を維持・向上させる運動

効果:

  • 転倒予防
  • 傷害リスクの減少

具体的な運動種目:

  • 太極拳
  • ヨガ
  • 体重移動(片脚立ち、ツーベントウォーク、継ぎ足歩行)
  • 筋力トレーニングで代用可能な運動

運動強度の設定と指標

【運動強度の主な指標】

  1. %VO2max(最大酸素摂取量に対する割合)
  • 健康な人の場合:55-85%HRmax または 40-85%HRreserve
  • 約50%以上の強度が必要
  1. メッツ(METs:安静時酸素摂取量に対する割合)
  • 1メッツ = 安静時の酸素摂取量(体重1kgあたり3.5ml/分)
  • エネルギー消費量の計算:メッツ × 体重 × 時間 ≒ 消費カロリー
  1. 心拍数による方法 a) %HRmax(最高心拍数に対する割合)
  • 推定最高心拍数 = 220 – 年齢

b) %HRreserve(心拍予備の相対値:カルボーネン法)

  • 心拍予備 = 最高心拍数 – 安静時心拍数
  • 目標心拍数 = (心拍予備 × 運動強度%) + 安静時心拍数
  1. RPE(主観的運動強度)
  • 6から20の数値で表す
  • 中等度の運動強度は11-13(やや楽~ややきつい)
  • 20歳の場合、数値×10で運動時心拍数が算出可能

【運動時間】

  • 有酸素性能力向上には20分以上必要
  • ACSMは1日最低20分(20-60分)を推奨
  • 低強度の場合は、より長い時間が必要
  • 1日の運動時間を分割しても効果あり

【運動頻度】

  • ACSMは週3-5回を推奨
  • 維持には週3回で十分
  • 体重減量や更なる向上目標の場合:
    • 低体力者(運動耐容能3メッツ以下):週2-3回
    • 運動耐容能3-5メッツの人:週4-5回
  • 週6日以上は効果増大せず、傷害リスク増加の可能性

【プログラムの進行段階】

  1. 初期段階(約4週間)
  • 目標:新しい身体活動への慣れ、運動ストレスへの耐容能向上
  • 運動強度:40-50%HRreserve
  • 時間:15-25分
  • 頻度:週3回
  1. 向上期段階(24週)
  • 目標:全身的な刺激を徐々に増やし、心肺系体力を向上
  • 運動強度:50-85%HRreserve
  • 時間:25-40分
  • 頻度:週3-5回
  1. 維持期段階(24週以降)
  • 目標:向上期に得た心肺系体力の長期間維持
  • 運動強度:70-85%HRreserve
  • 時間:20-60分
  • 頻度:週3-5回

ウォームアップとクールダウン

【ウォームアップの目的】

  1. 運動中の事故・障害の予防
  2. 主運動のパフォーマンス向上
  3. 主運動に向けての心身の準備
  4. 体調の把握

【ウォームアップの効果】

  • 神経からの信号伝達速度を速める
  • 反応時間を短縮
  • 血液の温度上昇と血流量増加による酸素摂取効率の向上
  • 心拍数、換気量、酸素摂取量の上昇
  • 乳酸蓄積の軽減

【クールダウンの目的】

  1. 疲労回復を早める
  2. 運動直後の静脈還流量の確保

【クールダウンの効果】

  • 血中乳酸濃度の速やかな低下
  • 急激な血圧低下やめまいの予防
  • 体温低下
  • 過換気の緩和

【ウォームアップとクールダウンのプログラミング】

ウォームアップの構成:

  1. 軽い有酸素運動で体温を上げる
  2. 主運動で使用する部位の軽い体操やストレッチング
  3. 主運動に関連した専門的な運動

クールダウンの構成:

  1. 中等度から低強度の有酸素運動
  2. ROM運動
  3. ストレッチング
  4. リラクセーション
  5. 有酸素性運動とその効果

【有酸素性運動の定義】

  • 軽度~中等度の強度(AT以下)で実施
  • 心拍数や酸素摂取量を一定レベルに保つ
  • 大筋群を反復してリズミカルに長時間使用

【無酸素性運動との違い】

  • 同じ運動でも強度により有酸素性か無酸素性かが決まる
  • 短時間で激しい運動は無酸素性運動となる

【有酸素性運動のプログラミング】 運動様式の選択基準:

  1. 運動強度のコントロールしやすさによる分類
  • グループ1:一定の運動強度維持可能(ウォーキング、サイクリングなど)
  • グループ2:個人のスキルに影響(水泳、クロスカントリースキーなど)
  • グループ3:強度が大きく異なる(ラケットスポーツ、バスケットボールなど)
  1. 関節への負担度による分類
  • 負荷が小さい:水泳、アクアビクス、自転車など
  • 負荷が中等度:ウォーキング、ステアステッパーなど
  • 負荷が大きい:縄跳び、ランニング、球技など

有酸素性運動機器の特徴と指導上の留意点

【トレッドミル】 特徴:

  • 有酸素能力と下肢筋力強化に有効
  • 速度、消費カロリー、心拍数などの表示が可能
  • 最大15度までの傾斜調整可能

留意点:

  • 乗る前の操作法指導が重要
  • 緊急時の退避方法の習得
  • 衝撃が大きいため関節炎がある場合は注意
  • 正しい姿勢とペースの指導
  • 降りる際の平衡感覚調整に注意

【固定型自転車エルゴメータ】 種類:

  • 直立型(アップライト型)
  • 背もたれつき(リカンベント型)
  • 上肢も動かせるタイプ

特徴:

  • 低衝撃で高負荷まで可能
  • 有酸素能力と下肢筋力強化に有効
  • リカンベント型は平衡性や関節に問題がある人に適している

設定のポイント:

  • 膝が10-15度屈曲する座面の高さ
  • 快適な前傾姿勢が取れるハンドル位置

【ステアステッパー】 特徴:

  • 有酸素能力のほか、腰部、殿部、下肢筋力強化に有効
  • 衝撃が小さい

留意点:

  • 膝や股関節に問題がある場合は主治医に確認
  • 適切な高さでの階段昇り動作
  • 頸部のストレス緩和に注意

【ローイングマシン】 特徴:

  • 有酸素能力と全身の筋力強化が可能
  • 腕は手綱のように使用
  • 体幹部保持が重要

【エリプティカルトレーナー】 特徴:

  • クロスカントリースキーと階段昇降を組み合わせた動き
  • 関節への衝撃が少ない
  • 上肢・下肢を使用するため高いエネルギー消費

留意点:

  • ペダルへの足部密着
  • 体幹部を真っすぐに保つ
  • バーに頼らず下半身に体重をかける
  1. レジスタンス運動の安全性と効果

【安全性への配慮】 血圧上昇に注意が必要な場合:

  1. 安静時血圧が高い
  2. 大きな負荷のかかる運動
  3. 等尺性筋活動
  4. 上肢の挙上を繰り返す
  5. 頭を心臓位置より下げる運動

レジスタンス運動の詳細

【レジスタンス運動の効果】 主な効果:

  1. 筋力、筋持久力、結合組織の強化
  2. 身体組成への影響(除脂肪体重の増加や維持)
  3. 関節の安定性向上
  4. 骨粗鬆症、腰痛、高血圧、糖尿病のリスク低減
  5. 基礎代謝の増加
  6. インスリン抵抗性の改善
  7. ストレス管理の改善
  8. 競技能力の向上

【レジスタンス運動の負荷設定】 RM(repetition maximum)の活用:

  • 1RMとは1回のみ行える最大挙上重量
  • 一般的な筋力・筋持久力のガイドライン:
    • 最大筋力の70-80%(8-12RM、平均10RM)
    • 初期プログラム:60-70%(14-16RM)
    • 上級者向け:80-90%

【レジスタンス運動の種類】

  1. マシントレーニング 特徴:
  • 特定の筋肉を標的に鍛えられる
  • 動作軌道が一定で使いやすい
  • けがが少ない
  • 技術的に習得が容易

留意点:

  • 椅子の背もたれ位置の調整
  • 関節の中心とマシンの回転中心の一致
  1. フリーウェイトトレーニング(ダンベル、バーベル) 特徴:
  • 補助筋群、体幹の筋も同時に鍛えられる
  • 自由度が高い
  • 重量変更にはプレート交換が必要
  • スポッターが必要な場合がある
  1. 弾性器具トレーニング(チューブ、ゴムバンド) 特徴:
  • あらゆる方向へのトレーニングが可能
  • 負荷は比較的小さい
  • リハビリテーション、高齢者の健康運動に適している
  • 色により強度が異なる

留意点:

  • 引き始めから徐々に強度が強くなる
  • エキセントリック収縮に注意
  • 長さによる強度調整が可能
  • 2重、3重にすることで強度を上げられる
  1. 加圧トレーニング 特徴:
  • 活動筋への血流を制限して負荷をかける
  • ホルモンの影響で筋肥大を促進
  • 専門知識のある指導者の下で実施が必要
  • 循環器系のリスクがある人は要注意
  1. 自体重トレーニング 特徴:
  • 安全で容易なトレーニング
  • 日常生活に取り入れやすい
  • 特別な器具が不要
  • 体重が負荷となる

プログラム作成時の重要な配慮事項

【運動プログラムの提供基盤】

  1. 対象者への適合 考慮すべき要素:
  • 身体状況(疾病等の有無、体力状況)
  • 目的・目標
  • ニーズ(興味・嗜好、運動に対する価値観・理解度)
  • 生活・労働環境
  1. 運動様式ごとのガイドラインへの適合
  • 安全性の確保
  • 効果的な運動強度の設定
  • 衝撃の程度への配慮
  1. 目標設定
  • 具体的で実践可能
  • 到達可能な目標設定
  • 状況に応じた目標の見直し
  1. 場の設定(コスト・費用対効果)
  • 人的資源やトレーニング機材の充実度
  • 経済的負担の考慮
  • 家庭での実践を意図したプログラムの工夫

【対象者の運動目的による分類】

  1. 疾病改善を目的とする場合:
  • 内科的疾患の改善
  • 整形外科的疾患の改善
  • 体型、体力の改善
  1. 予防・維持管理を目的とする場合:
  • 良好な健康度や体力の維持
  • 生活習慣病の予防
  • 介護予防
  • 適切な体型・体重の維持
  1. 精神面の向上を目的とする場合:
  • 気力の充実・生きがい
  • ストレス解消
  • 運動自体を楽しむこと
  1. コミュニティの構築:
  • 人との交流を楽しむ
  • 身体活動量の増加につながる社会的活動
  1. 特定の目的がない場合:
  • 特定保健指導
  • 教育入院をベースにした教室など

【プログラム実施上の注意点】

  • 個人差への配慮
  • 継続性・持続性の確保
  • スポーツライフの構築
  • 安全性の確保
  • 効果の定期的な確認
  • モチベーションの維持

第8章 健康づくりと運動の実際

ウォームアップの目的と効果

【ウォームアップの目的】

  1. 運動中の事故・障害の予防
  2. 主運動のパフォーマンス向上
  3. 主運動に向けての心身の準備
  4. 体調の把握

【ウォームアップの効果】 生理学的効果:

  • 体温上昇による酸素摂取効率の向上
  • 血流量の増加
  • 神経伝達速度の向上
  • 反応時間の短縮
  • 乳酸蓄積の軽減

【ウォームアップの方法】 基本的な構成:

  1. 低強度から中等度の有酸素性運動
  • ウォーキング
  • ジョギング
  • 自転車こぎ等
  1. 関節運動
  • 四肢の関節をゆるやかに動かす
  • 軽い体操
  1. ストレッチング
  • 主運動で使用する部位の柔軟性向上
  • 保持時間は10秒程度の短時間

【時間配分】

  • 運動時間全体の約10%程度
  • 1時間のプログラムで5-10分程度
  • 気温が低い時は長めに実施

ウォームアップ実施上の注意点

【環境条件への配慮】 気温による調整:

  1. 夏季:
  • 体温上昇が容易なため時間短縮可能
  • 水分補給の徹底
  • 直射日光を避ける
  1. 冬季:
  • より長い時間をかける
  • 保温に注意
  • 屋内でのウォームアップが望ましい

【ウェアの選択】

  1. 夏季:
  • 通気性の良い素材
  • 汗の蒸発を促す衣類
  • 帽子の着用
  1. 冬季:
  • 防寒具の着用
  • ウインドブレーカー
  • 帽子、手袋等の活用

クールダウンの実際

【クールダウンの目的】

  1. 疲労回復を早める
  2. 運動直後の静脈還流量の確保

【クールダウンの効果】

  • 血中乳酸濃度の速やかな低下
  • 血圧低下やめまいの予防
  • 体温の緩やかな低下
  • 過換気の予防

【クールダウンの方法】 基本的な構成:

  1. 低強度の有酸素運動
  2. 柔軟体操
  3. ストレッチング(15-30秒程度の保持)
  4. マッサージ(必要に応じて)

【時間配分】

  • 運動時間全体の約10%程度
  • 1時間のプログラムで5-10分程度

ストレッチングの定義と種類

【ストレッチングの定義】

  • 「伸ばす、引っ張る」を意味するstretchの動名詞
  • 関節を屈曲・伸展させて筋や腱を意識的に伸ばす運動
  • 1975年のボブ・アンダーソンの著書により広く普及

【ストレッチングの種類】

  1. 伸張刺激の違いによる分類

a) 静的ストレッチング:

  • 反動をつけずにゆっくり伸張
  • 伸張位を一定時間保持
  • 伸張反射を起こしにくい
  • 初心者に適している

b) 動的ストレッチング:

  • 動きながら筋や腱を伸張
  • 相反性神経支配を利用
  • 主運動の動作に関連した柔軟性向上
  • ウォームアップに適している
  1. パートナーの有無による分類

a) セルフストレッチング:

  • 拮抗筋の力を使う方法
  • 上肢の力を使う方法
  • 体重を使う方法
  • 道具を利用する方法

b) パートナーストレッチング:

  • パッシブストレッチングとも呼ばれる
  • 補助者の力を借りて行う
  • より大きな可動域が得られる
  • 適切な技術を持つ補助者が必要

【PNFストレッチング】

  • 固有受容性神経筋促通法を利用
  • レジスタンスとストレッチングの組み合わせ
  • 関節可動域の拡大効果が大きい
  • 専門的な知識が必要

ストレッチングの目的と効果

【ストレッチングの主な目的】

  1. 柔軟性の向上(関節可動域の拡大)
  2. 運動器の傷害予防
  3. ウォームアップ・クールダウンの一環
  4. 疲労回復
  5. リラクセーション

【ストレッチングの効果】

  1. 身体的効果:
  • 筋緊張の緩和
  • 関節可動域の拡大
  • 血液循環の促進
  • 疲労回復の促進
  • 筋と神経の協調性向上
  1. 精神的効果:
  • リラクセーション効果
  • 交感神経活動の抑制
  • 副交感神経活動の亢進
  • 大脳のα波の増加

【運動時期による効果の違い】

  1. ウォームアップ時:
  • 主運動に向けた準備
  • 神経と筋の供応能向上
  • 血液循環の促進
  • 心身の準備
  1. クールダウン時:
  • 使用した筋のほぐし
  • 疲労回復の促進
  • リラクセーション効果
  • 関節可動域の拡大

【日常生活での効果】

  • 局所の筋緊張緩和
  • 肩こり・腰痛の軽減
  • 関節拘縮の予防
  • ADLの維持・向上(高齢者)

ストレッチングの実施上のポイントと注意点

【実施上の重要ポイント】

  1. 心身のリラックス:
  • 伸ばしたい筋の脱力
  • リラックスした状態での実施
  • 自然な呼吸の維持
  1. 筋温の上昇:
  • 冷えた状態での実施を避ける
  • 事前の軽い運動による体温上昇
  • 寒冷環境での特別な注意
  1. 実施方法:
  • 反動をつけない
  • ゆっくりと伸ばす
  • 10-30秒間の保持
  • 痛みを感じない範囲で実施
  1. 安定した姿勢:
  • 立位より座位・臥位が安定
  • 必要に応じて壁や支えの使用
  • 転倒防止への配慮

【ACSMのガイドライン】

推奨事項:

  1. 強度:
  • わずかに不快、または心地よい張りを感じる範囲
  1. 時間:
  • 10-30秒の保持
  • 高齢者は30-60秒
  • 2-4回の反復
  1. 頻度:
  • 最低週2-3回
  • 毎日が最も効果的

【実施時の注意点】

  1. 他人と比較しない
  2. バランスよく全身を実施
  3. 段階的な実施
  4. 個人差への配慮
  5. 高齢者への特別な配慮

ウォーキングの基礎知識編

■ウォーキングの定義

  • 欧米:エクササイズ・ウォーキング(健康保持・増進を目的とした歩行)
  • 日本:日常生活での歩行と区別して「ウォーキング」と呼称
  • 中高年者の健康保持・増進のための人気運動種目

■ウォーキングの特徴

  1. メリット
  • 上手下手がない
  • 相手がいなくても実施可能
  • 場所を選ばない
  • 手軽に行える
  • 継続しやすい
  1. 注意点
  • 誰でもできる運動のため、効果的な運動内容設定が重要
  • 強度、時間、頻度の適切な設定が必要

■ウォーキングの力学的特性

  1. 床反力(地面反力)
  • 鉛直方向:体重の1.2から1.5倍程度
  • ピーク値出現時期: a) 立脚相初期(かかと着地後、身体重心上方加速時) b) もう片方のかかと着地時(身体重心下方減速時)
  1. 関節の動き 特徴的な動き:
  • 股関節:着地時は屈曲位から伸展運動
  • 膝関節:着地時はほぼ完全伸展位
  • 足関節:かかと着地で小さく背屈、その後底屈運動
  1. 筋活動 主な活動筋:
  • 大殿筋
  • 大腿四頭筋
  • 大腿二頭筋
  • 腓腹筋
  • ヒラメ筋
  • 前脛骨筋

■ウォーキング中の関節可動域の個人差 変動係数の大きさ順:

  1. 足関節(最も個人差が大きい)
  2. 股関節
  3. 膝関節(最も個人差が小さい)

■ロールの重要性 特徴:

  • かかとからの着地
  • 足底全面の接地
  • かかとの離地
  • 前脛骨筋の活動増加

ウォーキングの運動効果と実施方法編

■ウォーキングの運動効果

  1. 有酸素性能力に関する効果
  • 心筋の収縮力向上
  • 1回拍出量の増加
  • 安静時および同じ強度運動時の心拍数減少
  • 心筋の毛細血管増加
  • 骨格筋の毛細血管増加
  • ミオグロビン量の増加
  1. 筋力に関する効果
  • 脚筋群の筋断面積増加
  • 速筋線維の断面積増加
  • 中枢神経系からの入力量増加
  1. 生活習慣病等に関する効果
  • 血液性状の改善:
    • 総コレステロール・中性脂肪の減少
    • HDLコレステロールの増加
  • メタボリックシンドロームの改善
  • 自覚症状の改善(肩こり、めまい等)
  • 更年期障害による不定愁訴の改善
  • 骨粗鬆症の予防効果

■ウォーキングの時間と頻度

  1. 基本的な推奨
  • 最低1回30分間の継続歩行
  • 週2~3回の実施
  1. 中高年者の場合
  • はじめは短時間から開始
  • 徐々に時間を増加
  • 週1回30分間から開始も効果あり
  1. 減量目的の場合
  • より長時間の実施
  • より高頻度の実施を推奨
  1. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023の推奨
  • 現在の身体活動量から毎日10分ずつ増加
  • 30分以上の運動を週2日以上実施

■ウォーキングの速度とエネルギー消費量

  1. 自然歩行の特徴
  • 20歳代をピークに年齢とともに低下
  • 女性:毎分70m前後
  • 男性:毎分80m前後
  1. エネルギー消費の特徴
  • 最小エネルギー消費速度:毎分70~80m
  • 走行への切り替わり速度:毎分120~140m
  1. 生理的応答
  • 下腿血流量:毎分100mで最高値
  • それ以上の速度では血流量減少

ウォーキングの実践方法と安全管理編

■基本的なフォーム

  1. 重要ポイント
  • ふだんよりも歩幅を広げる
  • 背筋を伸ばす
  • 足はかかとから着く
  • 足を着くときは膝をしっかり伸ばす
  • あごを引く
  • まっすぐ前をみる
  • 肘を曲げ、腕を軽く振る
  • 股関節は過度な内外旋を避ける

■安全管理と注意点

  1. 体調チェック 事前メディカルチェックが望ましい場合:
  • これまで定期的な運動習慣がない人

運動中止が望ましい状態:

  • 食欲不振、睡眠不足、疲労感
  • 胸がしめつけられる感じ、動悸
  • 体温が37℃以上
  • 安静時心拍数が100拍/分以上
  1. 適切な時間帯
  • 日常生活で最も無理のない時間
  • 空腹時や食事直後は避ける
  • 夏季の日中、炎天下は避ける
  1. 水分摂取
  • 運動中は積極的な水分補給
  • 一度に大量摂取は避ける
  • 喉が渇く前に頻繁な補給
  • 運動前の水分摂取も重要
  1. 服装 夏季:
  • 通気性の良い服装
  • 通気性の良い帽子着用必須

冬季:

  • 保温性の高い服装
  • ウインドブレーカー等
  • 手袋や耳あての準備
  • 吸湿性の優れた下着、靴下

夜間:

  • 白など明るい色の服装
  • 反射材やライトの着用
  1. シューズ 選択のポイント:
  • 両足とも履いて歩いて確認
  • 足の形にあっているか確認
  • 底に適度な厚さがあるか確認
  • 衝撃緩和機能の確認

避けるべき特徴:

  • 底が薄いもの
  • 底が硬いもの

ジョギングの基礎知識編

■ジョギングの定義と特徴

  1. 定義
  • 走運動の中でも比較的ゆっくりとした速度での走運動
  • 歩行から走行へと自然に切り替わった速度での走運動
  1. ジョギングの速度設定
  • 上限:30分以上走り続けられる速度
  • 主観的特徴:
    • リラックスできる
    • 周囲の景観が楽しめる
    • 仲間と会話しながら走れる
  1. ラニングとの違い
  • ジョギング:健康保持・増進が目的
  • ランニング:競技志向が強い

■ジョギングの運動特性

  1. 走行の特徴
  • 両脚支持期が存在しない
  • 両脚が同時に離地する瞬間がある
  • 着地時の衝撃は体重の2から3倍
  1. 期待される効果 身体的効果:
  • 健康保持・増進
  • エネルギー消費量が大きい

精神的・社会的効果:

  • 楽しみ
  • ストレス解消
  • 気分転換
  • 仲間づくり

■ジョギングの時間と頻度

  1. 基本設定
  • 最低1回20分以上
  • 週2~3回の実施
  1. 初心者の場合
  • ウォーキングから開始
  • その後ジョギングへ移行
  • 時間と頻度は少なめから開始
  • 徐々に増加させる
  1. 減量目的の場合
  • より長時間の実施
  • より高頻度(週5回程度まで)
  • 食事指導との組み合わせが重要

ジョギングの実施方法と安全管理編

■基本的なフォーム

  1. かかとからの着地
  • リアフットストライカー推奨
  • 衝撃を軽減するため大きな音を立てない
  • 着地時の衝撃に注意
  1. 上半身の姿勢
  • 大地に対して垂直に保つ
  • 前傾姿勢は着地の衝撃を増大させる
  • まっすぐ前を見る
  1. 上半身のリラックス
  • 肩や腕の力を抜く
  • 自然な姿勢を維持
  • 余計なエネルギー消費を避ける
  1. 足幅
  • 自然な幅を維持
  • 広がりすぎない
  • 動きの効率を考慮
  1. 呼吸法
  • 自然な呼吸を心がける
  • 過度な緊張による呼吸の乱れを防ぐ
  • 必要に応じて意識的な呼吸法の活用 (例:「スー、スーハーハー」などのリズム)
  1. 足の向き
  • まっすぐ前を向けて走る
  • 内向き外向きを避ける
  • 下肢関節の捻りを予防

■安全管理のポイント

  1. メディカルチェック 実施が望ましい対象:
  • 定期的な運動習慣のない人
  • 長期間運動をしていない人
  1. 運動中止の判断基準 以下の症状がある場合は中止:
  • 食欲不振、睡眠不足、疲労感
  • 胸部違和感、動悸
  • 体温37℃以上
  • 安静時心拍数100拍/分以上
  • 痛みの強い関節疾患
  1. シューズの選択 重要な機能:
  • 衝撃緩衝性
  • 安定性
  • 適度な柔軟性
  • 適度な滑り具合
  • 足に合ったサイズ
  1. 服装の選択 夏季:
  • 放熱や発汗を考慮した素材
  • 帽子の着用
  • 紫外線対策

冬季:

  • 手袋、耳あての着用
  • 保温性の高い素材
  • 防寒対策の工夫

ウォーキング・ジョギングの傷害予防編

■ジョギングによる主な傷害

  1. 膝関節の傷害 (1) 腸脛靱帯炎(ランナー膝) 原因:
  • 走り過ぎ・歩き過ぎ
  • アライメント異常(O脚など)
  • 悪い姿勢

(2) 変形性膝関節症 原因:

  • 加齢に伴う筋力低下
  • 関節軟骨の摩耗
  • 膝の屈伸の繰り返し負担

予防法:

  • 走り過ぎを控える
  • 足に合ったシューズ選択
  • 大腿部の筋力強化
  • ストレッチング
  1. 下腿部の傷害 (1) 下腿三頭筋の肉離れ 原因:
  • 準備運動不足
  • 低温環境での運動
  • 急激な筋収縮

(2) 脛骨過労性骨膜炎(シンスプリント) 特徴:

  • 下腿部中部から下部の痛み
  • 特に下1/3内側のすねの部分

予防法:

  • 十分なストレッチング
  • 筋力強化
  • シューズの中敷使用(必要に応じて)
  1. 足関節・足部の傷害 (1) アキレス腱炎・アキレス腱付着部炎 原因:
  • 過度な負荷
  • 長期間の小さな負荷の蓄積
  • 足の回内傾向
  • O脚

予防法:

  • 下腿筋群の柔軟性向上
  • アキレス腱の硬さ改善
  • 適切なシューズ選択

(2) 足底筋膜炎 原因:

  • 繰り返しの負荷
  • 衝撃吸収機能の低下
  • 不適切なフォーム

■傷害予防の基本原則

  1. 準備
  • 適切なウォームアップ
  • 十分なストレッチング
  • 正しいフォームの習得
  1. 環境への配慮
  • 適切な路面選択
  • 気象条件への配慮
  • 適切な服装とシューズ
  1. 運動強度の管理
  • 段階的な強度上昇
  • 適切な休息
  • 過度な負荷を避ける
  1. コンディショニング
  • 筋力トレーニング
  • 柔軟性の維持・向上
  • 適切な休養

エアロビックダンスの基礎知識編

■エアロビックダンスの定義と歴史 定義:

  • ダンスの要素を取り入れたリズミカルな有酸素性運動
  • 音楽に合わせて多種多様な動きを行う運動

歴史:

  • 1969年:アメリカ空軍基地でのテレビフィットネスプログラムとして考案
  • 考案者:ジャッキー・ソレンセン
  • 1981年:日本への紹介
  • 最盛期:愛好者数600万人

普及状況:

  • 大学の体育授業で採用
  • 地域の健康教室で実施
  • 幅広い年齢層の健康・体力づくりに活用

■エアロビックダンスの特性

  1. 健康・体力づくりが目的
  • 各自の技術・体力レベルに応じたプログラム選択
  • 目標強度の範囲内での運動実施
  1. 指導者によるプログラム作成
  • 対象者の性、年齢、身体特性に応じた構成
  • 体力、技術、目的に応じた動きや音楽の選択
  1. 対象者が指導者の動きを模倣
  • 指導者の動きは明確でわかりやすく
  • 連続運動中での新しい動きの習得
  • 適切な指示の重要性
  1. 下肢と上肢の組み合わせ運動
  • 多種多様な全身運動の連続
  • フレーズの繰り返し
  • 持続的な運動実施
  1. 音楽の活用
  • プログラムの流れに合わせた選曲
  • メロディとテンポの考慮
  • 心理的効果の活用
  1. 幅広い年齢層対象
  • 男女一緒に実施可能
  • 運動強度の自己調節可能
  • 勝敗を競わない

エアロビックダンスの運動効果と運動強度編

■運動効果

  1. 体力向上効果
  • 最大酸素摂取量の向上
  • 運動遂行能力の向上
  • 安静時心拍数の改善
  1. 生理学的効果
  • 骨密度の向上(骨粗鬆症予防効果)
  • エネルギー消費量増大
  • 呼吸数・毎分換気量の増加
  • 収縮期血圧の上昇
  • 心拍数・心拍出量の増加
  • 酸素摂取量の増加
  1. 精神的効果
  • 爽快感の獲得
  • ストレス解消
  • 気分転換
  • 認知機能障害の予防・改善

■運動強度の特徴

  1. 運動強度の指標
  • メッツ値:5~10メッツ(平均7メッツ程度)
  • 推定最高心拍数(220-年齢)の50~75%
  1. 運動強度に影響を与える要因 (1) からだの移動(身体重心の上下・水平移動)
  • 移動距離が大きいほど強度が高い
  • 位置移動が少ないほど強度は低い

(2) 運動に参加する筋の量

  • 参加する筋量が多いほど強度が高い
  • 動かす部位が少ないほど強度は低い

(3) 各筋の活動水準

  • 発揮する力が大きいほど強度が高い
  • 力を抜けば強度は低くなる

(4) 動きの速さや反復回数

  • テンポによる強度変化
  • 全ての動作で速さが増すと強度が高くなるわけではない
  1. インパクトによる分類 (1) ローインパクト
  • ジャンプをしないステップ
  • 衝撃が少ない

(2) ハイインパクト

  • ジャンプを伴うステップ
  • 衝撃が大きい

エアロビックダンスのプログラム構成と安全管理編

■プログラムの基本構成

  1. ウォームアップ(10分前後) 目的:
  • 心とからだの準備
  • 筋温・心拍数の上昇
  • 酸素摂取効率の向上

実施内容:

  • 130bpm前後の比較的遅めのテンポ
  • 下肢の大筋群を使った簡単な動き
  • からだが暖まってからのストレッチング
  1. 主運動(20~30分) 段階構成: (1) アップ
  • 運動強度を徐々に上昇
  • 呼吸循環器系の働きを高める

(2) キープ

  • 目標心拍数の維持
  • 前後左右への移動
  • ホップ、ジャンプなどの実施

(3) ダウン

  • 心拍数を徐々に下降
  • クールダウンへの移行をスムーズに

テンポ設定:

  • ジャンプを伴う場合:140~160bpm
  • ジャンプしない場合:130~150bpm
  • 中高年者:20~30bpm遅く設定
  1. クールダウン(5~10分) 目的:
  • からだをほぐす
  • 呼吸を整える
  • 静的ストレッチングの実施

■安全管理と注意点

  1. 体調チェック 運動を控えるべき状態:
  • 食欲不振、睡眠不足、疲労感
  • 胸部違和感、動悸
  • 体温37℃以上
  • 安静時心拍数100拍/分以上
  1. プログラム選択の配慮
  • 体力レベルに応じた選択
  • 年齢に適した内容
  • 個人の目的に合わせた内容
  1. 運動環境への配慮
  • 適切な床材の選択
  • 十分なスペースの確保
  • 適切な室温・湿度管理

エアロビックダンスの指導上の留意点と傷害予防編

■指導者の役割と留意点

  1. 運動プログラムの作成 安全性への配慮:
  • 運動強度の急激な変化を避ける
  • 上肢挙上運動の頻度制限
  • 高強度運動の時間制限
  • 同じ動作の過度な反復を避ける

対象者への配慮:

  • 年齢、性別の考慮
  • 体力レベルの把握
  • 運動目的の理解
  • 個別の身体状況への配慮
  1. 運動指導時の注意点 動きの説明:
  • はじめての参加者への丁寧な説明
  • 正しい姿勢や呼吸法の指導
  • 運動強度の自己調節方法の説明

観察とフィードバック:

  • 参加者の様子の継続的な観察
  • 適切な声かけとアドバイス
  • 必要に応じた個別指導

■傷害の特徴と予防

  1. 傷害の特徴
  • 急性の外傷より慢性的障害が多い
  • ハイインパクトでは下腿部の傷害が多い
  • 足部、膝、腰部の順で傷害が多い
  1. 主な傷害と予防 (1) 脛骨過労性骨膜炎 予防法:
  • 下腿の筋力強化
  • ふくらはぎの柔軟性向上
  • 適切な床材とシューズの使用

(2) 疲労骨折 予防法:

  • 適切な強度設定
  • 段階的な運動強度の増加
  • 十分な休息の確保

(3) アキレス腱炎 予防法:

  • ふくらはぎの柔軟性向上
  • 足関節の可動域維持
  • つま先立ちの状態を長く続けない

(4) 膝蓋軟骨軟化症 予防法:

  • 大腿四頭筋の筋力強化
  • 膝関節屈筋群の柔軟性向上
  • 適切なアライメントの維持
  1. 一般的な予防策 環境面:
  • 適切な床材の選択
  • 十分なスペースの確保
  • 適切な室温管理

用具面:

  • 適切なシューズの選択
  • 衝撃吸収性の考慮
  • 足に合ったサイズ選び

運動面:

  • 適切なウォームアップ
  • 段階的な強度増加
  • 十分なクールダウン

水泳・水中運動の基礎知識と力学的特性編

■定義と分類

  1. 水泳の定義
  • 水面に水平移動姿勢をとる
  • 抵抗の少ないストリームラインを形成
  • 左右対称の手・足の動作を繰り返す
  • 息つぎをしながら水中を移動
  1. 水中運動の定義
  • 頭部を浸水させない
  • ほぼ立位姿勢
  • 手足やからだを積極的に動かす
  • 健康・体力づくりを目指す運動

種類:

  • 水中ウォーキング
  • 水中ジョギング
  • アクアビクス

■水中での力学的特性

  1. 浮力 定義:
  • からだの水中にある部分の体積と等しい水の重さ分
  • 重力と反対方向に働く力

水深による浮力の違い:

  • 首の付け根:体重の約90%の浮力
  • みぞおち:約70%の浮力
  • 骨盤上部:約50%の浮力

体の部位による比重:

  • 骨:2.01g/cm³
  • 筋肉:1.0g/cm³
  • 脂肪:0.9g/cm³
  1. 抵抗 特徴:
  • 水は空気の約800倍の抵抗
  • 進行方向に対する投影面積に比例
  • 動く速度の2乗に比例

抵抗の影響要因:

  • 水面に対するからだの傾き
  • 進行方向の投影面積
  • 移動速度
  1. 水圧 特徴:
  • 水深10cm増すごとに約0.01気圧増加
  • あらゆる方向に等しくかかる
  • 水深が深いほど圧力が高い

効果:

  • 静脈還流量の増加
  • 心拍数の減少
  • 同じ運動でも陸上より低い心拍数で実施可能

水泳・水中運動の運動効果編

■運動効果の概要

  1. 有酸素性運動としての効果
  • 心拍数があがって息が切れることが減少
  • 有酸素性能力の向上
  • 余裕をもって移動可能
  1. 年齢層と適応
  • 0歳児から高齢者まで実施可能
  • 肥満気味の人に適している
  • 高齢者に適している
  • 脚の力が弱っている人に適している
  • 膝痛や腰痛のある人に適している

■具体的な運動効果

  1. 有酸素性能力に関する効果
  • 心筋の収縮力が向上
  • 1回拍出量が増加
  • 安静時および同強度運動時の心拍数が減少
  • 心筋の毛細血管が増加
  • 骨格筋の毛細血管が増加
  • ミオグロビンの量が増加
  1. 筋力に関する効果
  • 脚筋群の筋断面積が増加
  • 速筋線維の断面積が増加
  • 中枢神経系からの入力量が増加
  1. 生活習慣病等に関する効果
  • エネルギー消費量の増大
  • 血液性状の改善
  • メタボリックシンドロームの改善
  • 自覚症状の改善(肩こり、めまいなど)
  • 更年期障害による不定愁訴の改善
  • 骨粗鬆症の予防効果
  1. 特殊な効果
  • 水圧による呼吸筋の強化
  • 水平姿勢による下肢血液循環の改善
  • 腰痛・脚の疲れの改善
  • 下肢のむくみ改善
  • 関節可動域の改善
  • 関節の痛みの軽減

水中運動の実施方法編

■基本的なプログラム構成

  1. ウォームアップ(準備運動) 時間:約10分 内容:
  • これから使用する筋肉のストレッチング
  • 体操などでのほぐし
  • 肩や上腕、ふくらはぎ、アキレス腱を重点的に
  1. 主運動 水泳の場合:
  • はじめは5~10分
  • 週3日程度から開始
  • 慣れてきたら30分程度を目標
  • インターバル形式も可能

水中運動の場合:

  • 心拍数を目標範囲に維持
  • 陸上より10拍/分程度低い目標心拍数を設定
  1. クールダウン(整理運動) 時間:5~10分程度 内容:
  • ストレッチングや体操
  • 使った筋肉をほぐす
  • 呼吸を整える

■目標心拍数の設定

  1. 基本的な設定方法
  • 推定最高心拍数(220-年齢)の50~75%
  • 水中では陸上より10拍/分程度低く設定
  1. 補正方法
  • 陸上での立位安静時心拍数を測定
  • 水中での立位安静時心拍数を測定
  • その差を陸上での目標心拍数から引く
  1. 注意点
  • 服薬による影響を考慮
  • 体調による変動を考慮
  • 水温による影響を考慮

水泳・水中運動の安全管理編

■入水前の準備と注意点

  1. 衛生管理 実施事項:
  • シャワーを十分に浴びる
  • からだの汚れを落とす
  • コンタクトレンズを外す
  • 化粧を落とす

装飾品の扱い:

  • 指輪やネックレスなどは外す
  • 爪は短く切る
  1. 体調チェック 運動を中止すべき状態:
  • 食欲不振、睡眠不足、疲労感
  • 動悸、胸部違和感
  • 体温37℃以上
  • 安静時心拍数100拍/分以上
  • 眼や耳の病気(結膜炎、中耳炎など)
  • 皮膚の病気(水虫、水いぼ、アトピー性皮膚炎、湿疹など)

■服装と用具

  1. 水着
  • 自分のからだにあったもの
  • 競泳用またはレジャー用
  • 競泳用やフィットネス用が水の抵抗が小さい
  1. 帽子 種類:
  • ゴム製
  • メッシュ製
  • シリコン製

目的:

  • 髪が邪魔にならない
  • 水を清潔に保つ
  1. ゴーグル 使用目的:
  • 塩素や雑菌から目を保護
  • 水中での視界確保
  • 度付きゴーグルの使用も可能

救急処置と事故対策編

■主な傷害と対策

  1. 水泳肩 原因:
  • クロールやバタフライでの肩の回旋動作
  • 肩峰靱帯の炎症

対策:

  • 練習量の調整
  • 肩のストレッチング
  • 筋力強化運動
  1. 平泳ぎ膝 原因:
  • ウィップキックによる膝関節の外旋・外反
  • 膝内側側副靱帯への負担

対策:

  • 大腿部の筋強化
  • ストレッチング
  • 痛みが生じた場合の練習内容変更
  1. 腰痛症 原因:
  • 背筋の疲労
  • 腹筋の相対的筋力低下
  • 泳ぎ姿勢での腰の過伸展

対策:

  • ストレッチング
  • 体幹の筋肉強化
  1. 筋痙攣 発生要因:
  • 水温が低い
  • やせ型の人
  • ミネラル不足

対策:

  • 十分な栄養摂取
  • 適切な休養
  • 十分なウォームアップ

■救急処置

  1. 溺水への対応 注意点:
  • 救助者の安全確保
  • 救助者の能力考慮
  • 速やかな救出と心肺蘇生
  1. 頸椎損傷への対応 処置:
  • 頸部をできる限り動かさない
  • 頸椎の保護
  • 気道確保は頭部後屈あご先挙上法
  • 救急車の要請

 

第9章 運動障害と予防・救急処置

1. 運動前の内科的メディカルチェック

メディカルチェックの目的と重要性

  • 身体活動・運動が効果的に行われるように、運動参加前に実施者の健康状態を把握
  • 運動が禁忌でないことを確認
  • 既往歴や現病歴があれば、主治医と十分に相談し安全に運動が可能かどうかを確認

メディカルチェックの構成

  1. 問診
  • 運動を行ってもよいのか、事故や障害が生じる可能性がないかを判断
  • 既往歴、現病歴、家族歴、運動歴、生活習慣などを確認
  1. 医学的検査
  • 身体計測や血圧測定
  • 尿検査
  • 血液検査
  • 胸部X線
  • 安静時心電図
  • 必要に応じて運動負荷試験やホルター心電図、心エコーなど

問診での確認事項

  1. 既往歴
  • 先天性心疾患や川崎病などの確認
  • 失神(意識消失発作)の既往は特に重要
  1. 現病歴
  • 現在治療中または経過観察中の疾患
  • 内服薬
  • 高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、脂質異常症などの危険因子
  1. 自覚症状の確認
  2. 家族歴
  • 突然死
  • 虚血性心疾患
  • 脳卒中などの家族歴
  1. 運動歴・運動習慣
  • 現在および過去の運動歴
  • 喫煙歴
  • 飲酒量
  • 食習慣などの生活習慣

医学的検査の意義

  1. 身体計測・血圧測定
  • 肥満が内臓脂肪型か皮下脂肪型かの確認
  • 高血圧の有無判定(特に自覚のない高血圧に注意)
  1. 尿検査
  • たんぱく、潜血、糖について確認
  1. 血液検査
  • 貧血
  • 腎機能障害
  • 糖尿病
  • 脂質異常症などの確認
  1. 胸部X線
  • 心拡大や呼吸器疾患の確認
  1. 安静時心電図
  • 虚血性心疾患や心筋梗塞
  • 突然死の原因となる遺伝性不整脈(QT延長症候群・WPW症候群)などの確認

2. 運動中止の判定

セルフチェック

  • 参加当日のセルフチェックを行い、体調が優れないときは運動を中止するか、体調に合わせた無理のない運動に変更
  • 血圧測定に加え、心原性脳梗塞の原因となる心房細動が増加傾向にあるため、脈拍(脈拍触診)を行い不整の有無を確認

運動中止が必要な自覚症状と他覚徴候

自覚症状
  1. 発熱
  • 感染や炎症に対する生体反応
  • 防衛体力低下の証であり運動は禁忌
  1. 胸痛および胸部不快感
  • 虚血性心疾患を疑う症状
  • 部位:胸骨裏面(最多)、左前胸部、下顎、咽頭、歯、心窩部など
  • 背中や肩、両腕への放散痛
  • 持続時間:狭心症は数分〜15分、心筋梗塞は30分以上
  • ニトログリセリンの効果:狭心症では有効、心筋梗塞では無効
  1. 動悸
  • 通常自覚されない心臓の鼓動を自覚したときの不快感
  • 安静にしても持続する動悸は異常
  1. 息切れ
  • 意識的に努力して呼吸を行う状態
  • 自覚的に息苦しいと感じる不快感
  • 安静時や日常軽労作で生じるのは異常
  1. めまい
  • 経過観察で十分なものから生命にかかわるものまで原因は多岐
  1. 吐き気・嘔吐
  • 消化器系疾患のみならず脳血管疾患、虚血性心疾患(特に心筋梗塞)、耳鼻科疾患(メニエール症候群など)を考慮
  1. 頭痛
  • 突然の激しい頭痛はくも膜下出血を疑う
  • 脳卒中は脳梗塞が3/4、出血性が1/4
  1. けいれん
  • 約2分以内に自然におさまる
  • 5分以上持続する全身けいれんではただちに119番
他覚徴候
  1. 失神
  • 一過性の脳血流低下による意識消失発作
  • 原因:心疾患(不整脈など)、情動や痛みなどの強い刺激、脳動脈硬化症、起立性低血圧、低血糖発作、過換気症候群、てんかん、ヒステリーなど
  1. 下腿浮腫
  • 母指で圧迫して圧痕が認められる浮腫
  • 下肢静脈瘤などの血行障害、全身性浮腫(心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変など)
  1. 間欠性跛行
  • 一定の距離を歩くと下肢に脱力やしびれ、痛みが出現
  • 休むと症状が改善する歩行障害
  • 原因:下肢動脈の狭窄による末梢動脈疾患、脊柱管狭窄症

3. 内科的急性障害

突然死

  1. 特徴と発生頻度
  • 年齢を問わず、見かけ上健康な人に突然発生
  • 年齢別では10歳代が最多、次いで50歳代、60歳代
  • 男性に多い
  1. 年齢層別の主な原因

小児

  • 先天性心疾患(術後および未手術)
  • 心筋症
  • 不整脈
  • 心臓震盪

若年者

  • 先天性心疾患(術後および未手術)
  • 心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症)
  • 不整脈(Brugada症候群など)
  • 川崎病
  • 冠動脈起始異常

中高年者

  • 虚血性心疾患、特に急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死)が主な原因
  1. 特徴的な所見
  • 小児では生前に無症状で心電図も異常なく心疾患を指摘されていない例が多い
  • 学校管理下より非学校管理下の突然死が多い
  • 若年者の約半数は急性心機能不全
  • スポーツ種目ではランニング関連が多く、運動中・直後に多い
  • 突然死の80〜90%は心疾患(主に急性心筋梗塞)

熱中症

  1. 定義と特徴
  • 暑熱環境下で体内の熱を適切に放散できなくなって発生する障害の総称
  • 「無知と無理」から健常人に起こる
  • 適切な予防策で未然に防げる
  1. 発生パターン
  • 労作性熱中症:若年男性のスポーツ中や中壮年男性の労働中
  • 非労作性熱中症:男女ともに高齢者の日常生活中
  1. 発生要因
  • 環境要因:気温、湿度、風速、放射(輻射)熱
  • 個人要因:健康状態、体力・馴化の状態、水分補給
  • 運動要因:運動の質・量、休息のとり方
  1. 重症度分類(日本救急医学会熱中症分類)
Ⅰ度(軽症)
  • めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛
  • 症状が徐々に改善している場合のみ、現場での応急処置と見守りで対応可能
Ⅱ度(中等症)
  • 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感
  • 医療機関での診察が必要
Ⅲ度(重症)
  • 意識障害、肝・腎機能障害、血液凝固異常
  • 入院加療(場合により集中治療)が必要

過換気症候群

  1. 病態
  • 体内の二酸化炭素(CO2)が過剰に排泄
  • 血中の二酸化炭素分圧が低下し呼吸性アルカローシス
  • 全身のさまざまな臓器に多彩な症状を呈する
  1. 原因
  • 過労
  • 精神的ストレス
  • 睡眠不足などによる心理的、情緒的不安定性
  • 若い女性に多い
  1. 症状
  • 「息が吸えない感じ」の呼吸困難感
  • 動悸
  • 吐き気・嘔吐
  • 胸痛、腹痛
  • 振戦
  • テタニーけいれん
  • 口周囲や手足のしびれ
  • めまい、頭痛、耳鳴り
  • ときに失神
  1. 対応
  • 発作時:
    • 落ち着いて腹式呼吸
    • 「大きく、ゆっくり」とした呼吸を指示
    • 改善しなければペーパーバック法を試みる
    • ビニール袋使用時は低酸素に注意
  • 非発作時:
    • 精神的、肉体的過労を避ける
    • 原因となる精神的不安感解決のためのカウンセリング
    • 症候群の十分な理解
    • 発作時の対応方法の習得

運動誘発性喘息(EIA: exercise-induced asthma)

  1. 特徴
  • 運動による咳、喘鳴、呼吸困難などの症状や喘息発作
  • 気管支喘息患者全体の40-90%にみられる
  1. 成因
  • 運動負荷後の過換気による気道からの水分喪失
  • 気道からの熱喪失などが重要因子
  • 完全な解明はされていない
  1. 誘発条件
  • 運動の種類:冬場の長距離競技で起こりやすい
  • 水泳は起こしにくい
  • 激しい運動や3-8分程度持続する運動
  • 気管支喘息の発作が頻発しているとき
  1. 予防
  • 通常の気管支喘息に対する予防的治療
  • マスクの着用
  • 運動前のウォームアップ
  • 低強度運動や穏やかな運動から開始
  • アレルギー物質の多い時期や場所を避ける
  • 大気汚染の影響の少ない場所での運動

運動時側腹部痛(Side stitch)

  1. 特徴
  • 右側もしくは左側の側腹部の痛み
  • 食後まもなくの激しい運動で多い
  • マラソン、トライアスロンなどランニングで高率に発生
  1. 原因
  • 腸管内ガスの大腸彎曲部への移動による横隔膜の挙上
  • 横隔膜、腸管の血流減少
  • 胆道ジスキネジアなどの関与
  1. 対応
  • ランニング中なら歩行にする
  • 必要なら楽な姿勢で安静
  • 運動開始2-3時間前には食事を済ませる
  • ガスの発生しやすい繊維質や脂肪を多く含む食物は避ける
  • 消化のよい食物を摂取
  • 便秘に注意
  • 運動直前の糖酸飲料摂取は控える
  • 食直後の運動は避ける
  • ウォームアップを十分に行う

貧血

  1. 定義
  • 血液中のヘモグロビン(Hb)濃度が減少した状態
  • 成人男性:13g/dl未満
  • 成人女性:12g/dl未満
  1. 運動性貧血(スポーツ貧血)の特徴
  • 一般人より明らかに高頻度
  • 女性は男性の約2-3倍
  • トップアスリートから中学や高校の運動クラブ生徒、スポーツ愛好家まで幅広く認められる
  1. 原因
  • 主に鉄欠乏性貧血
  • 潜在性鉄欠乏状態も多い
  1. 症状
  • めまいや立ちくらみ
  • 全身倦怠感
  • 頭痛、耳鳴り
  • 頻脈や動悸
  • 息切れ
  1. 予防と治療
  • 食事が最も重要
  • 偏食を避け、鉄分やたんぱく質を十分含むバランスのとれた食事
  • 必要に応じて鉄剤の内服(2カ月程度で正常化)
  • 貯蔵鉄が十分回復するには4-6カ月程度の継続投与が必要

オーバートレーニング症候群

  1. 定義
  • 高強度のトレーニングを長期間続けた場合に起こる
  • 競技力の低下や精神的な意欲の低下、抑うつ、睡眠障害などを主徴とする症候群
  1. 原因
  • 身体機能に対してトレーニング負荷が相対的に過剰
  • 負荷と回復のアンバランス
  1. 誘因
  • トレーニング強度の急激な増加
  • 試合やトレーニングの過密スケジュール
  • 休養・睡眠不足
  • 栄養不十分と不規則な摂取
  • 精神的な過剰ストレス
  • 感冒などの罹患時や罹患直後の不適切なトレーニング
  1. 症状
  • 「練習についていけない」「記録が落ちてきた」などの競技力低下
  • 疲労感
  • 不眠
  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 頭痛
  • めまい
  • 抑うつ感などうつ病と同様の精神症状
  1. 治療
  • 休息と一定期間のトレーニング調整(軽減から完全休息まで)
  • 誘因の除去(カウンセリングなど)
  • 十分な睡眠
  • 薬物療法
  1. 予防対策
  • すべてにおいて、急激な変化は避ける
  • 休養は、日、週、月、シーズンの各単位で十分にとる
  • 小さな故障をオーバートレーニングの危険信号と認識
  • 精神的に、常に安定した状態を保てるように努力
  • 練習日誌と日々のコンディションチェックを実行

4. 救急処置(救急蘇生法)

一次救命処置(BLS: basic life support)の内容

  1. 胸骨圧迫や人工呼吸による心肺蘇生
  2. AED(自動体外式除細動器)を用いた電気ショック
  3. 異物で窒息した傷病者への気道異物除去

「救命の連鎖」の4つの輪

  1. 心停止の予防
  2. 心停止の早期認識と通報
  3. 一次救命処置(心肺蘇生とAED)
  4. 二次救命処置と心肺再開後の集中治療

心肺蘇生の手順

  1. 安全の確認
  2. 反応の確認
  • 肩をやさしく叩きながら大声で呼びかけ
  • 目を開けるなどの応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」
  1. 119番通報とAED
  • 周りの人に具体的に依頼
  • 誰も来なければ自身で通報
  1. 呼吸の確認(心停止の判断)
  • 胸と腹の動きを10秒以内で観察
  • 死戦期呼吸は「普段どおりの呼吸」ではない
  • 判断に迷う場合も「心停止」と判断
  1. 胸骨圧迫の実施
  • 圧迫部位:胸骨の下半分
  • 強さ:約5cm沈み込む
  • 速さ:100-120回/分
  • 絶え間なく実施
  • 圧迫を解除するときは胸郭が元の位置に戻るように

AED使用の手順

  1. 電源を入れる
  2. 電極パッドを貼り付ける
  3. 心電図の解析
  4. 電気ショックと心肺蘇生の再開

気道異物

  1. 対応の手順
  • 「喉が詰まったの?」と確認
  • 大声で助けを呼ぶ
  • できるだけ強く咳をするよう促す
  • 119番通報とAEDを依頼
  • 背部叩打法を試みる
  • 効果がなければ腹部突き上げ法を試みる

5. 新型コロナウイルス感染症流行期への対応

基本的な考え方

  1. 感染経路
  • 飛沫(しぶき)
  • エアロゾル(ウイルスなどを含む微粒子が浮遊した空気)
  • 接触
  1. 基本方針
  • すべての心停止傷病者に感染の疑いがあるものとして救急処置を実施
  • 救助者はマスクを着用
  • 傷病者の鼻と口をマスクなどで覆う

感染症流行期の一次救命処置(BLS)の手順

  1. 安全の確認
  • 自分のマスクの正しい着用確認
  1. 反応の確認
  • 傷病者の顔にあまり近づきすぎない
  1. 呼吸の確認
  • 傷病者の顔にあまり近づきすぎない
  1. 胸骨圧迫
  • マスク着用時:そのまま開始
  • マスク未着用時:マスクやハンカチ、タオル、衣服などで鼻と口を覆ってから開始
  1. 人工呼吸
  • 成人:実施しない
  • 小児:技術と意思があれば実施(感染防護具があれば使用)
  1. AED
  • 使用方法は非流行期と同じ
  1. 救急隊員への引き継ぎ後の対応
  • すみやかに石けんと流水で手と顔を十分に洗うか、アルコールで手を消毒
  • 使用したマスクやハンカチなどは直接触れないように廃棄
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