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健康運動指導士の試験対策はスマホでスキマ時間学習(基礎的な用語や図表)【2023年版】

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目次

第1章 健康管理概論

〚1.健康の概念と制度〛

【健康の定義とヘルスプロモーション】
WHOは1946年に発布した憲章の中で「健康とは単に病気や虚弱でないというだけでなく、肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態(well being)」である」と定義している。

「プライマリー・ヘルスケア」
すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念。

「ヘルスプロモーション」
1986年オタワ憲章によって「人々が自らの健康をコントロールし改善することができるようにするプロセスである」と定義され、「健康は生きる目的ではなく生活の資源である」と強調されている。個人の努力と社会環境の整備の両方が必要。

【公衆衛生と健康管理】

[公衆衛生とは]
WHOは「公衆衛生とは組織された地域社会の努力を通して、疾病の予防、生命の延長、身体的・精神的健康と効率の向上を図る科学であり技術である」と定義している。

[予防医学]
「一次予防」

・生活習慣の改善、健康教育、予防接種などの病にかからないように施す処置や指導のこと。
・非特異的一次予防と特異的一次予防に分けられる。

 

・非特異的予防:健康増進。
・特異的予防:感染症に対する予防接種や予防内服など。
・2000年にスタートした「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」は一次予防に重点を置いた政策。

 

「二次予防」
・疾病発症前期におけるアプローチ。
・疾病を早期発見、早期治療を促して病が重症化しないように行われる処置や指導である。
・健康診断などは二次予防。

「三次予防」
臨床的疾病期に治療を受けた人を対象とする。
機能障害や能力低下を防止し、治療過程において保健指導やリハビリテーションなどにより社会復帰を目指す。
・再発を防止しの取り組みなどこと。

【保健統計の推移】

[集団の健康指標とは]
死亡率、年齢調整死亡率、乳児死亡率、生命表、健康寿命がある。

「死亡率」
・一定期間の死亡者数を単位人口に対する割合で示した指標。
・通常期間は1年。
・高齢死者が多い集団では死亡数も増加するので異なった年齢層間での死亡率の比較は意味を持たない。

「年齢調整死亡率」
・地域間の比較や同一集団の経年変化。
・特定の年齢層に遍在する死因別死亡率を観察する際に基準集団を設けて年齢という交絡因子を排除した指標を求める。

「乳児死亡率」
・生後1年未満の死亡率。
・地域別比較のための健康水準を示す指標。

「生命表」
死亡率、生存数、定常人口などの生命関数によって集団の死亡リスクの時間経過を示すもの。
・平均寿命は0歳の平均余命を表す。

「健康寿命」
・WHOが2000年に世界各国の健康度を表す指標として発表した。
・わが国では「活動制限なし」、「自覚的健康」、「介護の必要なし」という指標を用いて健康寿命を算出している。

【保健医療制度】

日本国憲法第25条で規定されている社会保険制度は 社会保険、社会福祉、公的扶助、公衆衛生・医療の4本柱で構成されている。

「国民皆保険制度」
医療保険制度は国民のすべてが本人または家族としてなんらかの医療保険に加入している。

「社会保険方式」
医療給付は医療機関にかかった費用を保険者が支払う現物給付、保険料に財源を求める方式のこと。

【医療関係法規】

[医療資源の確保]
「身分法

医療に従事する人々の任務、免許、試験、業務、義務などについて定める法律で「医師法」、「保健師助産師看護師法」、「理学療法士及び作業療法士法」などがある。

「業務独占」
・特定の業務に際して特定の資格を有している人のみが従事可能。
・資格を有しない場合はその業務を行うことを禁止されている。
・医師や歯科医師は業務独占資格、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師も業務独占資格。

「名称独占」
・保健師は名称独占資格。
・保健師の資格を持っていない人が保健師の業務を行うことは違法ではないが、保健師の名称を名乗ることは違法である。
・介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、管理栄養士、栄養士は名称独占資格。

「医療施設」
・病院とは医師または歯科医師が医業をなす場所で患者20人以上の収容施設。
・診療所は19人以下の収容施設を有するもの。

「病院の開設と管理」
・病院の開設には都道府県知事の認可が必要。
・病院の管理者である病院長や診療所長は医師でなければならない。

【インフォームドコンセント、守秘義務、個人情報保護法】

[インフォームドコンセント]
「医師と患者との十分な情報を得た上での合意」を意味する概念。
・医療行為の対象者が治療の内容についてよく説明を受け十分理解した上で、対象者が自らの自由意志に基づいて医療従事者と方針において合意することである。

[守秘義務]
刑法により「医師、薬剤師、助産師等又はこれらの職にあった者が正当な理由がないのにその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」と定められている。

[個人情報保護法]
個人情報は「生存する個人の情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と定義されている。
・この法はあくまでも「個人情報の有効利用」と「個人情報の保護」にあり、有効に利用するためには、適切な個人情報の取り扱いが不可欠である。

〖2.生活習慣病(NCD)概論と特定保健・保健指導〗

【生活習慣病の定義】
「食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症や進行の関与する疾患の総称」と定義されている。

【生活習慣病と生活習慣について】

[栄養・食生活]
わが国では、栄養摂取量「たんぱく質、脂肪エネルギー比率、ミネラル、ビタミンなど」が適正となるよう、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事パターンが推奨されている。
・減塩により血圧が低下し結果的に循環器疾患が減少すること。
・食塩や円蔵魚や漬け物などの高塩分食品摂取が胃がんのリスクを上げること。
・野菜・果物摂取量の増加は体重コントロールにおいて重要であり、循環器疾患、2型糖尿病の一次予防に有効であることが報告されている。

「国立がん研究センターの推奨」
科学的根拠に基づき、日本人のがん予防のなかで以下を推奨している。
・食事はバランスよくとる。
・塩蔵食品、食塩の摂取を最小限にする。
・野菜や果物不足にならない。
・飲食物を熱い状態でとらない。

[身体活動・運動]
・身体活動が多い人や運動をよく行っている人は不活発な人と比較して循環器疾患やがんなどの発症リスクが低いことが明らかになっている。
・WHOではこれまでの知見を踏まえ、高血圧、喫煙、高血糖に次いで身体活動の不足を全世界の死亡に対する第4番目の危険因子として認識し対策を進めている。

[休養]
・心の健康を保ち、心身の疲労の回復と充実した人生を目指すために重要。
・睡眠は神経系、免疫系、内分泌系などの機能と深く関係。
・睡眠不足や睡眠障害が肥満、高血圧、糖尿病の発症や悪化要因。
・無呼吸を伴う睡眠の問題は高血圧、心臓病、脳卒中の悪化要因。

[飲酒]
・肝障害、血圧上昇の危険因子。
・大量飲酒によりアルコール性心筋症、心筋障害、不整脈の誘因。
・口腔、咽頭、食道、大腸、乳房のがんの危険因子。
・他者への暴力、飲酒運転事故、欠勤などのさまざまな社会問題と関連。

[喫煙]
・がん、循環器疾患、COPDなどの呼吸器疾患、糖尿病、周産期の異常などの原因。
・受動喫煙であっても虚血性心疾患、肺がん、乳幼児の喘息や呼吸器感染症、乳幼児突然死症候群などの原因。

【生活習慣病対策の重要性について】

[医療費]
平成26年の疾病分類別医科診療医療費の順番は以下の通り。
1.循環器系疾患
2.新生物
3.筋骨格系および結合組織の疾患
4.呼吸器疾患
5.腎尿路生殖器系の疾患

【生活習慣病予防と身体活動・運動の疫学】

[疫学の基礎知識]

<疫学の定義>
「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える因子を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義。

<疫学で用いられる指標>
「有病率」

ある一時点において疾病を有している人の割合。
「罹患率」
ある一定期間に新たにどれだけの疾病者が発生したかを示す指標、発生率の一種。
「相対危険」
ある危険因子に暴露した場合、それに暴露しなかった場合に比べて何倍病気にかかりやすくなるかの指標。
「寄与危険」
ある危険因子への暴露によって罹患率がどれだけ増えたか、逆に言えば危険因子に暴露しなければ罹患率がどれだけ減少するかの指標。
「集団寄与危険」
一般集団がすべて非暴露群であれば、どの程度疾病頻度を減少させることが出来るかの指標。
「オッズ比」
・オッズとは「見込み」のこと。
・ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1-p)に対する比を意味する。
・オッズ比(※)は主に症例・対照研究において算出される。

 

※「オッズ比」の(例)
例えば、高血圧である確率を脳卒中疾患の有無で調べる場合、高血圧が脳卒中患者疾患群では100名中で60名、非脳卒中患者では100名中で30名で認められた場合、このオッズ比は(60/40)÷(30/70)≒3.5となり、脳卒中患者疾患群の方が非脳卒中患者よりも高血圧の確率が3.5倍高いことになる.

<交絡因子、偏り(バイアス)>
「交絡因子」

要因と結果の関連の強さをゆがめる因子。
「偏り」
真の値より大きいまたは小さいといった特定の傾向をもつ誤差を系統誤差であり偏り(バイアス)という。

【生活習慣病予防における特定健診と保健指導】
・2008年4月から医療保険者に対して糖尿病などの生活習慣病に関する健康診断(特定健診)および特定健診の結果により健康の保持に努める必要がある人に対する保健指導(特定保健指導)の実施が義務付けられた。
・これまでの健診・保健指導と比較し、重要視されたのは「内臓脂肪型肥満」に着目した早期介入と行動変容を目的とした点である。

【ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチ】
「ハイリスクアプローチ」
健康障害を引き起こす危険因子をもつ集団のうち、危険度がより高い人に対して、その危険度を下げるように働きかけをして病気を予防する方法。
・方法論が明確で対象も明確にしやすいが対象者の数が少ない。
「ポピュレーションアプローチ」
・集団全体に対して働きかける方法や環境整備。
・全体に働きかけるものであり影響の量は大きいと考えられるが効果を計測しにくい。

〖3.介護予防概論〗

「要介護状態になることをできるだけ防ぐ(遅らせる)こと、さらに、すでに要介護状態になってもその悪化をできるだけ防ぐこと」と定義。

【介護予防の考え方】

[予防重視型への転換]
2000(平成12年)年度からスタート、制度が発足した当初から「介護予防」の重要性が強調されていた。
・2005年に行われた最初の見直しでは、要介護・要介護1の軽度者が急増している。
・軽度者では生活不活発が背景となる場合が多いことなどがあり「予防重視型」へと転換する改革が行われた。
・今後は「活動的な85歳」をめざす。
・現在は3年ごとに見直しがおこなわれている。

[介護予防と健康寿命]
「日常生活動作(ADL)に支障がなく健康で自立した生活を続ける」期間が健康寿命であるといわれており、「あと何年、自立して健康で暮らせるか」を計るものである。
・介護予防は健康寿命を延ばすための総合戦略である。
・「介護予防のポピュレーションアプローチ」とは、高齢者が生きがいをもって活動的に暮らすことを地域社会全体で支えていくこと。

第2章 健康づくり施策概論

〖1.健康づくり施策と健康運動指導士の社会的役割〗

【わが国における健康づくりの沿革】

[第一次国民健康づくり対策] ・1978年から開始された。
・一次予防(健康増進、発病予防)よりも、より二次予防(早期発見、早期治療)に重点をおいた施策であった。

[第二次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)]
・1988年「アクティブ80ヘルスプラン」と称された。
・一人ひとりが80歳になっても身の回りのことができ、社会参加もできるような生き生きとした生活を送ることにより、明るく生き生きとした社会を形成しようとするものである。

 

※この時期に「健康運動指導士の養成」、「健康増進施設の認定」が開始され、これまでの栄養中心の政策から運動による生活習慣病の予防・改善へと重点が置かれるようになった。

 

[第三次国民健康づくり対策「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)
・2000年からスタート。
従来にも増して、健康増進を推進し、発病を予防する「一次予防」に重点をおいた対策を強力に推進すること。
・壮年期死亡の減少、認知症や寝たきりにならない状態で生活できる期間(健康寿命)の延伸を図っていくために生活習慣病や生活習慣など、人々の保健医療対策上においてきわめて重要な課題について、2010年を目途として具体的目標を設定した。
・2011年の最終評価では設定した目標値の59項目中で目標達成は10項目であった。

【第四次国民健康づくり対策「21世紀における第二次国民健康づくり運動」健康日本21(第二次)】
2013年からスタートした「健康日本21(第二次)期間:2013年~2022年の10年間」の内容は以下の通り。
①健康寿命の延伸と健康較差の縮小。
②主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防。
③社会生活を営むために必要な機能の維持および向上。
④健康を支え、守るための社会環境の整備。
⑤栄養・食生活・身体活動・運動・休養・飲酒・喫煙および歯・口腔の健康に関する生活習慣および社会環境の改善。

 

「健康日本21(第二次)の大きな特徴は?」
・健康寿命の延伸やNCD(非感染症疾患)である、がん・心血管系疾患・糖尿病・COPD・などの発症・重症化予防、ロコモティブシンドローム予防を取り上げたこと。
・生活習慣改善のための個人の努力目標だけでなく社会環境の改善が強調されたこと。

〖2.健康日本21(第二次)における社会環境の整備〗

【地域社会環境と身体活動・運動の関係】

[社会生態学モデル]
人の行動に影響する要因は多階層的。
・個人レベル(性、年齢、遺伝的要因、生理的要因、心理的要因)。
・個人間レベル(家族、友人、社会的ネットワーク、社会的要因)、組織レベル(学校、職場)。
・地域レベル(建造環境、自然環境)、政策レベル(法律、政策)など。

[ソーャルキャピタルと身体活動・運動]

「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」
・ソフト面での地域環境という意味での概念。
・さまざまな定義があるが、公衆衛生領域でよく用いられる定義はPutnamの「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる、『信頼』、『規範』、『ネットワーク』といった社会組織の特徴」という定義である。

[座位行動と環境]
・スタンディングデスクを導入する
・一定の時間ごとにコンピューター画面上に座位行動の中断を促すメッセージを表示する
・立ち会議の導入
・プリンターなどの共有で使う機器の設置場所を工夫
・休憩時間を利用して座位行動を減少できるような休憩場所の設置
・職場のコミュニケーションはメールでなく、対面式で行う

【環境整備対策と健康運動指導士の役割】

[健康に配慮した地域環境の整備]
「身体活動推進の七つの方策(トロント憲章)」
1.学校ぐるみのプログラム
2.歩行、自転車、公共交通の利用を優先する交通政策、システム
3.身体活動を促進する都市計画規制、インフラ整備
4.プライマリヘルスケアシステムへの身体活動の統合
5.マスメディア活用を含む一般社会に向けた教育
6.多数のセッティング、機関を巻き込んだ地域社会全体でのプログラム
7.生涯にわたる、全てのひとのためのスポーツの症例

第3章 生活習慣病予防(NCD)

〖1.メタボリックシンドローム〗

【メタボリックシンドローム(MetS)の概念】
・内臓脂肪蓄積状態に高血糖、脂質代謝異常(高トリグリセリド(TG) 血症、低HDLコレステロール[HDL-C] 血症)、高血圧などの心血管疾患危険因子が重積した病態である。
・これらは単なる合併ではなく、肥満や運動不足、加齢などの共通の基盤として重積する。
・肥満(特に内臓脂肪の蓄積)や活動量不足を改善することで全般的な改善が期待できる。

「シンドロームX」
耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧症が合併する機序をインスリン抵抗性とし、こうした動脈硬化のリスクの高い病態のことをいう(1988年Reavenが命名)

「メタボリックシンドローム診断基準」

「出典:e-ヘルスネット」
  • *CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい。

  • *ウエスト径は立位・軽呼気時・臍レベルで測定する。脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合は肋骨弓下縁と前腸骨稜上線の中点の高さで測定する。

  • *メタボリックシンドロームと診断された場合、糖負荷試験がすすめられるが診断には必須ではない。

  • *高トリグリセライド血症・低HDLコレステロール血症・高血圧・糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合は、それぞれの項目に含める。

 

「出典:豊橋ハートセンター」

・伊藤裕のメタボリックドミノは複数の因子を並列的ではなく時系列で捉えたもの。
・生活習慣の乱れに始まり、肥満→インスリン抵抗性と進み、最終的に心血管疾患や糖尿病の細小血管障害を発症する一連の流れを示している。
・予防を考えるうえで重要な示唆を与えるもの。

・生活習慣の乱れ→肥満→インスリン抵抗性→「高血圧・脂質異常症・高血圧」→「心臓病・脳卒中・糖尿病など」

【メタボリックシンドロームの予防・改善における運動の意義】
メタボリックシンドロームを対象とした介入研究では、運動療法、食事療法単独よりも、食事と運動を併用したほうが、メタボリックシンドロームの各構成要素の改善が大きい。

【メタボリックシンドロームの予防・治療における食事療法の内容】
地中海食、DASH食などメタボリックシンドロームの構成要因をターゲットにした食事療法は、体重減少を伴ってメタボリックシンドロームの改善を認めている。

「地中海食」
地中海沿岸地域は、伝統的にはオリーブ油、魚介類、野菜、果物、赤ワインなどの摂取が多く、糖尿病に合併する高TG血症、低HDL-C血症に対する低脂肪食に替わる食事療法として推奨されてきた。
「DASH食」
・生野菜、果物、低脂肪の乳製品の摂取を強調した高血圧のための食事療法。
・他に全粒粉、赤身肉、魚介類、豆、種実類なども推奨されている。
「PFCバランス※」
・低脂肪食(脂肪のエネルギー比率<30%)は、高脂肪低糖質食(脂肪のエネルギー比率≧40%)に比べ、LDLコレステロールの低下が大きく、トリグリセリド(TG)の低下、HDLコレステロール(HDL-C)の増加が小さい。

 

※「PFCバランス」
エネルギー産生栄養素であるタンパク質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)の頭文字、その摂取比率をPFCバランスという。

 

【メタボリックシンドローム改善プログラム作成】
・メタボリックシンドローム改善には5~10%の減量とその維持が重要。
・体重1kgの差に相当するエネルギー消費量の差が50 kcalと計算される。
・例えば腹囲5㎝(≒体重5kg)を減らし、維持するには、1日当たり50×5=kcalの負のエネルギー出納を食事制限と活動量増加で作ればよい。
・高いフィットネスレベルは、メタボリックシンドローム患者において死亡率の低下に関与。
・したがって、可能な対象では、高強度の運動により体力レベルを図ることも考慮する。

〖2.肥満、肥満症〗

【肥満・肥満症の定義・診断基準】
・肥満は体脂肪が異常に蓄積した状態と定義される。
・肥満は「原発性肥満」と「二次性肥満」に分けられる。
「原発性肥満」
・栄養の過多と運動不足によるエネルギーの過剰が脂肪として体内に蓄積されて生じた肥満。
・単純性肥満とも。
・病気が原因で生じた二次性肥満と区別される。
「二次性肥満」
内分泌性肥満、先天性異常症候群に伴うもの、視床下部性肥満、薬物による肥満が含まれ、主に原因疾患の治療が主体となる。

・肥満の程度を表す指標には、体格指数であるBMIを用いることが多い。

「BMI=体重(kg)/[身長(m)]2」

「肥満症」
・日本肥満学会は2004年に、BMI25以上を「肥満」と定義している。
・肥満の判定とは別に、健康障害を有する人、または健康障害を伴いやすいハイリスク肥満を肥満症として別に定義した。

・日本肥満学会は肥満に起因・関連し「減量を要する健康障害」として次を上げている。
①耐糖能障害(2型糖尿病、耐糖能異常)
②脂質異常症
③高血圧
④高尿酸血症、痛風
⑤冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
⑥脳梗塞(脳血栓症、一過性脳虚血発作)
⑦脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患)
⑧月経異常・妊娠合併症(妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、難産)
⑨睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群
⑩整形外科的疾患(変形性関節症[膝・股関節])
⑪肥満関連腎臓病

「肥満症診断のフローチャート」

      出典:一般社団法人 日本肥満症予防協会

・上のフローチャートで「内臓脂肪型肥満」に判定されるウエスト周囲長は男性≧85㎝、女性≧90㎝が用いられる。
・これは歴史的には、CTスキャンで測定した内臓脂肪面積≧100㎠に対応する値として定められた。

【内臓脂肪蓄積と肥満症の関連】
BMIと別に、体脂肪分布が高血圧、糖尿病、脂質異常症などの合併症に影響する。

[脂肪細胞の肥大化と脂肪組織のリモデリング]
「アディポサイトカイン」

・脂肪細胞から分泌される生理活性たんぱく質(サイトカイン)。
・アディポサイトカインには動脈硬化に促進的にはたらきインスリン抵抗性をきたすTNF-α、PAI-1、HB-EGFなど。
・動脈硬化に抑制的にはたらくレプチンやアディポネクチンなどがある。

「アディポネクチン」
骨格筋や肝細胞で糖の取り込みや脂肪酸の酸化に関与する。

 

アディポは「脂肪」、ネクチンは「結合する」という意味。血管の壁などにくっつ いて修復する優れた性質があることから名付 けられた。

 

「レプチン」
視床下部を介して食欲の抑制、エネルギーの増加をもたらし体脂肪量の調整に関与する。

[異所性の脂肪蓄積]
・内臓脂肪細胞が容量不足になると肥大だけでなく、内臓脂肪細胞に入りきれない脂肪が肝臓、骨格筋、膵島、血管周囲などの脂肪細胞とは別の組織に蓄積する。
・肝臓、骨格筋に蓄積すると種々の代謝異常を起こす可能性。
・膵島ではβ細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)によるインスリン分泌不全を起こす可能性。
・血管周囲では、炎症による動脈硬化や大動脈壁の変性による動脈瘤を招く可能性。

[DOHaD「仮説(生活習慣病胎児期発症説)」]
・胎生期(母親が摂取した食事)~生後初期の栄養状態が、DNAを修飾して遺伝子の発現を変化させ、その後の生活習慣病の発症に影響するとする仮説。

【減量目標の考え方】
日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2016」では、以下を目標にしている。
・BMI25~34.9の肥満症では現体重の3%以上の減量を目標。
・BMI35以上の高度肥満症では現体重の5~10%の減量を目標。

【肥満のその他の治療法】
「代謝手術」

胃バイパス術(胃の入り口を20~30mlの小袋を残して切り離し、その小袋に小腸をつなぐ手術)では体重減少とは別の機序で耐糖能の改善が認められ注目されている。

【運動療法の減量効果】
肥満の運動療法は、一般的な健康目的の運動が指示するより活動量が多いのが特徴で以下の活動量を本人が長続き、継続できる内容で指導する。
「体重コントロールと身体活動」
・「体重増加の予防」:週150~250分(週1200~2000 kcal)
・「減量」 週150分以下では体重減少はわずか
週>150分で2~3kg
週225~420分で5~7.5kg
活動量が多ければそれだけ減る
・「減量後の体重維持」:週200~300分

・「サルコペニア肥満」とは、骨格筋量の減少に肥満が合併した状態。

[肥満の運動療法の適応と禁忌]
中高年の肥満者の運動でもっとも問題となるのは、心血管疾患のリスクであり、その原因は虚血性心疾患とそれによる突然死である。
・定期的な運動習慣はこれらのリスクを減少させるので、メディカルチェックを行ったうえで、中等度強度~低強度の運動から開始する。

「中等度の運動から始める場合に注意すべき3点」
①心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を疑わせる自覚症状・徴候がある場合は医学的な確認が必要。
②自覚症状・徴候がなくても運動習慣がなく、心血管病・糖尿病・腎疾患を合併している場合は医学的な確認が必要。
③血圧は運動中に増悪する危険因子であるので180/110㎜Hg以上の高血圧は、服薬でコントロールしてから運動を開始させる。また、糖尿病の合併症として顕性腎症や自律神経障害があれば多段階運動負荷試験を施行。

〖3.高血圧〗

【高血圧の定義、診断、分類、有病割合】

[高血圧の定義]
「血圧が高い」という一つの症候を表すもの。
・健康に問題となるのは血圧が高いことで起こる血管障害により、脳、心、腎などの重要な臓器に病変を起こすこと。
・わが国の高血圧治療ガイドライン(2019年)では収縮期血圧≧140㎜Hgかつ/または拡張期血圧≧90㎜Hgを高血圧と定義している。

「本態性高血圧症」
臨床的にみられる高血圧の90~95%はその原因となる疾患がつかめない高血圧。
「二次性高血圧」
残りの5%あまりが、腎、副腎、その他に高血圧を起こす病変がある高血圧。

[高血圧の診断]
<a.血圧測定>
家庭血圧値が135/85㎜Hg以上であれば高血圧と診断する。
「白衣高血圧」
外来診察室などの医療環境下で測定した血圧は高血圧を示し、医療施設を離れた日常生活時の血圧は正常であるという状態。
「仮面高血圧」
外来診療室などの医療環境下では正常で、日常生活では高血圧となるもの。

[高血圧の分類]
<a.血圧レベルによる高血圧の分類>

<b.臓器障害の程度による分類>

「診察室血圧に基づいた脳血管疾患リスクの層別化」

【高血圧の治療】

[生活習慣病の修正]

「初診時の血圧管理計画」

「生活習慣の修正項目」

[運動療法]
軽症高血圧では有酸素性運動により降圧効果があることが示されている。
・中等度の運動(心拍数110/分程度)を1日60分、週4~5日あるいは1日30分、週6日行うことが推奨されている。
・運動療法を始める前にはメディカルチェックを受けて虚血性心疾患や心筋症などの心血管合併症がないことを確認する。
<運動の種類と強度>
運動としては、動的な等張性運動である歩行、ジョギング、水泳、サイクリングなど有酸素運動を行うことが推奨されている。
・等尺性運動は筋肉が収縮して太くなることで血管を圧迫し収縮期血圧および拡張期血圧の上昇を招くため、高血圧、動脈硬化、糖尿病、高脂血症などをを有する人には危険が伴う。

[7.薬物療法]
生活習慣の改善は血圧を低下させるために非常に有効であるが十分な降圧が得られない例が多い。
・低リスク群では3ヵ月、中等リスク群では1ヶ月、生活習慣を改善しても目標降圧に達しない場合には薬物療法が必要。

〖4.脂質異常症〗

【脂質異常症の定義】
血液中の総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、TG(トリグリセリド)の異常値を示す病態であり動脈硬化の発生に寄与し、心血管疾患の危険因子となる。

【脂質異常症の分類】
<原因による分類>
脂質異常症は、基礎疾患とは無関係な「原発性脂質異常症」と、基礎疾患が原因となって生じる「続発性脂質異常症」に分けられる。
「原発性脂質異常症」
遺伝的素因を基に家族性に発症する。
「続発性脂質異常症」
・高コレステロール血症と高トリグリセライド血症に分類される。
・原因を治療もしくは取り除くことにより多くが改善する。

【脂質異常症の疫学】
・TC(総コレステロール)、LDL-C(LDLコレステロール)は40歳代までは男性が高値であるが、50歳代以降は閉経の影響で女性の方が高くなる。

 

女性ホルモン(エストロゲン)の低下と脂質異常症との密接な関連が報告されている。

・HDL-C(HDLコレステロール)は全年齢層で女性が男性より高値。

【脂質異常症の発症機序と動脈硬化性疾患の危険因子】
「脂質異常症の発症機序」

・生体内コレステロールは、約3分の1が外因性(食事、腸管由来)であり、約3分の2が内因性(肝臓由来)である。
・腸管から吸収されたコレステロールやTG → カイロミクロンを形成 → リポ蛋白リパーゼによってTGが分解され → カイロミクロンレムナントになって肝臓に取り込まれる。
・肝臓由来のリポ蛋白であるVLDLは、IDLをへて、コレステロールに富むLDLとなり、肝臓を主とした全身の組織に取り込まれる。

以上の代謝の中でのリポ蛋白の産生亢進や分解・取り込みの低下によって脂質異常症が生じる。

 

・カイロミクロン → CM
・超低比重リポ蛋白 → VLDL(very-low density lipoproteins)
・中間比重リポ蛋白 → IDL(low-density lipoproteins)
・低比重リポ蛋白 → LDL(low density lipoproteins)
・高比重リポ蛋白 → HDL(high-density lipoproteins)

【脂質異常症の予防・治療における生活習慣の修正項目】
①適正体重の維持と栄養素配分
・標準体重:身長(m)×身長(m)×22
・1日のエネルギー摂取量は標準体重×25~30に設定する。
・まずは現状から1日に250kcalほど減らすことから開始。
・エネルギー配分は脂肪20~25%、炭水化物を50~60%とする。
②適切な脂質の摂取
・飽和脂肪酸の多い食品を避け、n-3系多価不飽和脂肪酸を含む魚類の摂取を増やす。
・トランス脂肪酸を含む菓子類ゃ加工食品を減らす。
③炭水化物の選択
・グリセミックインデックス(GI:食事として摂取された炭水化物が糖に変化して血糖値を上昇させる能力の指数)の低い食事が望ましい。
・食物繊維は1日25g以上を目安に摂取と、ショ糖、単糖類、果糖の摂りすぎに注意。
④大豆・大豆製品、野菜、果物を十分に摂る。
⑤食塩を6g未満に制限する。
⑥アルコール摂取を25g/日以下に制限する。
⑦食生活・食習慣の改善
規則的な食事、腹八分目、よく嚙んで食べる、うす味を心がける、外食を控える。

運動療法は、心肺機能の向上、循環血液量の増大、筋・骨格系の肥大を認め、インスリン抵抗性の改善につながる。

 「運動療法指針」

・動脈硬化疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版では、運動は有酸素運動を主体とし、1日30分以上(できれば毎日)、少なくとも週に3日は実施することを目標としている。
・運動の強さは、中等度以上の有酸素運動をメインに行う。
・中等度以上は3メッツ以上を意味し、歩行、あるいはそれ以上の運動が推奨されるが、体力や動脈硬化性疾患にも配慮する。

〖5.耐糖能異常・糖尿病〗

【糖尿病の概念・分類・診断】

[糖尿病の概念]
・糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である。
・糖尿病に特有な細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)、および動脈硬化を主体とする大血管症などの合併症を引き起こす。
・インスリン作用の不足は、膵臓のランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌の低下、または末梢組織(筋肉、肝臓、脂肪組織など)におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)によって生じ、血糖値の上昇をもたらす。
・中等度以上の高血糖により口渇、多飲、多尿などの症状を呈することもある。
・多くの場合において自覚症状に乏しいため、病状が進行して診断される場合がある。

[糖尿病・代謝異常の分類]

<糖尿病の診断>

「糖尿病診断フローチャート」

【2型糖尿病発症の病態】
・日本人は欧米人と比較して糖負荷に対するインスリン分泌能が低いという遺伝子因子を背景としている。
・脂肪摂取量の増加や自動車保有率に代表される運動習慣の減少などの生活習慣の変化が主因と考えられる肥満の増加が環境因子としてインスリン抵抗性を増大させ、高血糖状態をきたし、2型糖尿病を増加させている。
・高血糖状態が持続すると、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性がさらに増悪し、悪循環を形成する(糖毒性)

【糖尿病発症の有病率】
「2016年国民健康・栄養調査」

・20歳以上で糖尿病が強く疑われる者は約1,000万人(男性16.3%、女性9.3%)、
・可能性を否定できない者は約1,000万人(男性12.2%、女性12.1%)、
・両者を合わせて約2,000万人と推計されている。

【E.糖尿病の発症率・自然歴】
「糖尿病の合併症」

・高度のインスリン作用不足によって起こる急性合併症(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群)と、
・長年の高血糖によって起こる慢性合併症がある。
・「慢性合併症」は糖尿病特有の細小血管症(三大合併症:神経障害、網膜症、腎症)と、
・動脈硬化を主体とする大血管症(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)に大別される。

【糖尿病治療の基本】

[治療の目的]
「糖尿病治療の目標」
・体重管理、禁煙に加えて、血糖・血圧・血清脂質などの良好なコントロール状態の維持を通じ細小血管症と大血管症の発症・進展を阻止し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し健康寿命を確保することにある。

[血糖コントロール目標]
・HbA1cの値は、過去1、2ヵ月間の平均血糖値を反映する指標として糖尿病の診断に用いられるだけでなく、血糖コントロール指標としても汎用されている。
・その反面でHbA1cのみでは血糖値の日内変動などの細かい変化が把握できない、溶血性疾患や肝硬変などでは平均血糖値を正しく反映しないことを留意する必要がある。
・血糖コントロール目標は、年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する必要がある。

 【食事療法】

[食事療法のポイント]
①腹八分目
②食品の種類はできるだけ多くする
③脂肪は控えめに
④食物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、きのこなど)を摂る
⑤三食規則正しく
⑥ゆっくりとよく噛んで食べる
⑦単純糖質を多く含む食品の間食を避ける

[2.エネルギーの摂取量]
・BMIと肥満の有無:肥満の基準 BMI≧25を確認する。
・性別・年齢・身体活動量・血糖コントロール状況、合併症の有無などを考慮してエネルギー摂取量を設定する。
・軽労作(デスクワークが多い職業など):20~30kcal/kg標準体重
・普通の労作(立ち仕事が多い職業など):30~35kcal/kg標準体重
・重い労作(力仕事が多い職業など):35~kcal/kg標準体重

ただし、肥満者の場合には、20~25kcal/kg標準体重として、体重減少をめざす。

【運動療法】

[運動療法と効果]
運動療法の効果は、急性効果と慢性効果に大別される。
「急性効果」
・骨格筋におけるグルコースと遊離脂肪酸の利用が促進され、糖尿病患者においては短期的に血糖値が低下する。
「慢性効果
・骨格筋をはじめとする末梢組織のインスリン抵抗性改善を介して長期的な血糖コントロールが改善する。
・エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果が期待できる。

 [運動療法の適応とメディカルチェック]

「運動療法を禁止あるいは制限したほうが良い場合」

[4.運動の種類と強度]

[運動療法実施上の注意点]
①運動開始前には必ず準備運動を行い、けがの予防に努める。
②運動療法の実施は、食後1時間が望ましいが、実生活の中で実施可能な時間のいつでもよい。
③足に病変がないことを確認の上、足のサイズに合った歩行用・運動用の靴を使用する。
④インスリン療法やインスリン分泌促進薬で治療中の場合は、低血糖になりやすいことに注意する。グルコースや補食を持参する。
⑤強度の強い運動は、グルカゴン、カテコールアミンなどインスリン拮抗ホルモンの分泌が増加し、むしろ血糖値を上昇させることがある。
⑥インスリン療法で治療中の場合、運動前の大腿部へのインスリン注射は避ける。
⑦インスリン療法で治療中の場合、運動量が大きいと運動中だけでなく運動後にも低血糖が発現する場合があるため補食を摂るなどの注意が必要である。また、あらかじめインスリン注射量の減量を考慮する場合もある。
⑧運動療法で消費したエネルギー分だけ食事量を増やせると考えるのは短絡的、運動療法を継続することによるインスリン抵抗性の改善が、中長期的な血糖コントロールにおいて重要である点を十分に理解する。

【薬物療法】
・糖尿病治療薬は、注射薬(インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬)と経口血糖降下薬(OHA)とに大別される。
・インスリン療法では、「超速効型」、「速効型」、「中間型」、これらの混合型および持効型に分類できる。
・インクレチン関連薬には、GLP-1受容体作動薬(注射薬)とDDP-4阻害薬(OHA)がある。
・GLP-1はグルカゴン様ペプチドで小腸下部から分泌される。
・GDP-1はDDP-4によってすぐに体内で失活するため、その阻害薬が開発された。
・わが国では、糖尿病治療薬のなかでDDP-4阻害薬が最も多く使用されている。

〖6.虚血性疾患とリハビリテーション〗

【わが国の心血管疾患の動向】
・2018年度の死亡数は約136万人。
・死因別順位の状況
悪性新生物が約37.3万人(27.4%)
心疾患が約20.8万人(15.3%)
老衰が約11.0万人(8.0%)
脳血管疾患が10.8万人(7.9%)
肺炎が9.4万人(6.9%)
・心疾患と脳血管疾患は依然として成人の主要な死因である。
・欧米諸国では死因の1位を占める国が多い虚血性心疾患は、わが国においては北米・西欧の1/2~2/3程度。
・一方で脳血管疾患による粗死亡率は北米の2倍以上で先進国の中では脳血管疾患による死亡率が依然高いままである。

【虚血性心疾患】

[位置づけ]
心筋の酸素需要が心筋酸素供給を上回るため心筋が酸素欠乏に陥り、心筋虚血を生じ心機能が障害されるさまざまな疾患を包括している。
・多くは冠動脈の粥状硬化(アテローム性動脈硬化)に伴う器質的狭窄を基盤とするが、冠攣縮、冠塞栓、微小循環障害なども原因となる。
・虚血性心疾患と冠動脈疾患は同義語として使われている。
・突然死のうち約3/4が心血管疾患によるものとされ、うち心筋梗塞などの虚血性心疾患がもっとも多く、約6割以上を占める。

[心筋虚血]
正常な冠動脈では心筋酸素の需要と供給のバランスは保たれているが、冠動脈に有意な器質的狭窄(冠動脈硬化)があると心筋酸素の需要と供給の均等が破れて、一過性の酸素欠乏状態、すなわち心筋虚血が発生する。

[原因・病態]
虚血性心疾患の原因になる動脈硬化は粥状硬化(アテローム性動脈硬化)で、内膜、中膜、外膜の三層のうち、主に内膜におこる。

「虚血性心疾患の病因と病態」
・過食や運動不足、身体活動低下、喫煙などの生活習慣に加え、冠危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の合併状態によって、内皮細胞がより高度に傷害され、さまざまなタイプのプラーク形成による狭窄や閉塞をきたす。
・脂質や炎症性細胞などが少なく、繊維性被膜が厚い場合は安定プラークとなり、有意な狭窄となると労作狭心症の原因となる。
・一方、脂質や炎症性細胞に富み、薄い線維性被膜を有する不安定(易破裂性)プラークが急性冠症候群の原因となる。

【冠危険因子】

[年齢と性差、家族歴]
男性は45歳から、女性は55歳から死亡率や発症率が上昇し、とくに70歳以上でリスクが高い。
・女性の虚血性心疾患の発症や死亡率は男性よりも低い。
・若年発症の虚血性心疾患の家族歴も本疾患の危険因子で、年齢や性差、家族歴は改善が困難な因子である。

[喫煙習慣]
禁煙後2~4年で虚血性心疾患や脳卒中のリスクが1/3に減少する。

[高血圧]
・虚血性心疾患の関連性は高い。
・降圧療法により脳卒中発症リスクは4割強、心筋梗塞発症リスクは約3割低減する。

[糖尿病]
糖尿病患者は非糖尿病患者に比較して虚血性心疾患の頻度が2~3倍に増加することが明らかでとくに女性でリスクが高い。

[脂質異常症]
・LDLコレステロール、総コレステロール、nonHDLコレステロール、中性脂肪が高いほど発症率が高い。
・HDLコレステロールが低いほど虚血性心疾患の発症率が上昇する。
・LDLコレステロールは最大の危険因子。

[肥満]
・肥満は虚血性心疾患の独立した危険因子である。
・耐糖能異常をきたし、血圧、TC値、TG値、尿酸などを上昇させて逆にHDL-Cを低下させる。

[精神保健]
・ストレスは虚血性心疾患の危険因子である。
・タイプA行動パターン(短気で野心に燃え、競争心が強く協調性が乏しい行動特性)が急性心筋梗塞の危険因子となる。

[メタボリックシンドローム]
メタボリックシンドロームを構成する個々の危険因子は軽度であっても、その重複により動脈硬化性疾患のリスクが増大する。

[慢性腎臓病]
腎障害(微量アルブミン尿・たんぱく尿など)、かつ/あるいは、腎機能低下(推算糸球体濾過量[eGFR]<60ml/分/1.73㎡)が3ヵ月以上続く状態と定義され、動脈硬化性患者の重要なリスク病態である。

「心筋梗塞二次予防のための一般療法(テキストp115表2)」
「食餌療法」
①血圧管理:減塩1日6g未満、1日純アルコール摂取量を30ml未満とする。毎日30分以上の定期的な中等度の運動が高血圧の治療と予防に有用。
②脂質管理:「標準体重:身長(m)×身長(m)×22」に保つ、脂肪の摂取量を総エネルギーの25%以下に制限。
③体重管理:BMIを18.3~24.9kg/㎡の範囲に保つようにカロリー摂取とエネルギー消費のバランスを考慮して指導。
④糖尿病管理:糖尿病を合併する患者では、HbA1c7.0%未満を目標に体格や身体活動量などを考慮して適切なエネルギー摂取量を決定し、管理する。
「運動療法」
①運動負荷試験に基づき、1回最低30分、週3~4回(出来れば毎日)歩行・走行・サイクリングなどの有酸素運動を行う。
②日常生活の身体活動(通勤時の歩行、家庭内外の仕事など)を増やす。
③10~15RM程度のリズミカルな抵抗運動と有酸素運動をほぼ同頻度で行う。
④中等度ないし高リスク患者は施設における運動療法が推奨される。
「禁煙指導」
①喫煙歴を把握する。
②喫煙歴があれば、弊害を説明し禁煙指導、支援を図る。受動喫煙の弊害も説明し、生活、行動療法も説明する。
「陽圧呼吸療法」
心筋梗塞後の睡眠時無呼吸症候群に持続陽圧呼吸療法(CPAP)が有効である。
「飲酒」
多量飲酒を控える。
「うつ、不安症、不眠症」
心筋梗塞の患者のうつ、不安症、不眠症へのカウンセリング、社会、家庭環境の評価を行う。
「患者教育」
①心筋梗塞患者は、退院までに生活習慣の修正、服薬方法、などの再発予防のための知識についての教育をしっかりと受け止める必要がある。
②患者本人およびその家族は、心筋梗塞・狭心症などの急性症状について理解し、それに対する適切な対処がとれるように教育を受ける必要がある。

【心血管リハビリテーション】

[運動処方の内容]
・心リハの運動処方の内容 安全で有効な運動を行うためには強度設定が最も重要で決して過剰な運動量にならないようにする。
・運動の強度設定で心拍数を用いる処方は、運動負荷試験による最大運動時の心拍数や心肺運動負荷試験の無酸素性作業閾値を用いて運動強度を設定する。
・自覚症状での処方は、主観的運動強度(ボルグ指数)の11(楽である)~13(ややきつい)相当が推奨され、14を超えないようにする。

・RPEによる処方は本人の主観に左右されるため、適切な運動強度の判定にトークテスト(運動中の患者と会話して少し息が切れる程度を確認)を利用する。
・レジスタンストレーニングでは10~15回繰り返せる程度の強さのリズミカルな抵抗運動を週3回歩測定に行うことが推奨されている。

[心血管心リハビリテーションプログラム]
急性心筋梗塞の心リハは、以下からなる。
①急性期(第Ⅰ相:発症後約4~7日):発症から離床まで行われる。食事・排泄・入浴などの身の回りのことが安全にできるようにすること。二次予防教育の開始。
②回復期(第Ⅱ相)
・前期回復期(発症後1週間から約3ヶ月:入院中):身体活動範囲を拡大し良好な身体的、精神的状態をもって職場や社会に復帰することを目標とする。
・後期回復期(約3~6ヶ月程度まで:外来):1~2週間に1回程度の外来運動療法に加え、冠危険因子の是正や生活習慣の改善などの教育が重要になる。
③維持期(第Ⅲ相:~生涯:外来):社会復帰後生涯にわたり継続され、運動耐容能の維持や再発防止のための自己管理が重要になる。

〖7.ロコモティブシンドローム〗

【ロコモティブシンドロームの定義の変更】
ロコモティブシンドロームとは 日本整形外科学会は2013年から「ロコモティブシンドロームとは運動器の障害のため、移動機能の低下をきたした状態で、進行すると介護が必要となるリスクが高まるもの」と定義している。

【ロコモティブシンドロームの概念】

「ロコモティブシンドロームの構成概念」

出典:日本整形外科学会

【ロコモティブシンドロームの原因となる主な原因疾患】

「common disease」

【ロコモティブシンドロームの判定法】

「ロコモ度テスト」
<1.立ち上がりテスト>
片足または両脚で10、20、30、40㎝の高さの台から立ち上がれるかを調べる。
<2.2ステップテスト>
バランスを崩さない範囲でできるだけ大股で2歩歩き、その距離を身長で割って算出。
<3.コロモ25>
25項目からなる質問票に答え、その当てはまる程度によって1項目につき0点から4点のどれかを選び、25項目の総和を算出する。
<6.ロコモ度>
ロコモ度1とロコモ度2の二段階がある。
「ロコモ度1」
立ち上がりテストで片脚40㎝ができない、2ステップテストが1.3未満、ロコモ25が7点以上、のどれか一つ当てはまるものがある。
「ロコモ度2」
立ち上がりテストで両脚20㎝ができない、2ステップテストが1.1未満、ロコモ25が16点以上、のどれか一つ当てはまるものがある。

・ロコモ度1なら自らの努力を、ロコモ度2なら整形外科専門医の受診を推奨している

【ロコモティブシンドロームの対処法】
バランス機能の低下にはその訓練として開眼片足立ち、筋力低下の筋力訓練としてスクワットが推奨され、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)と命名されている。

〖8.運動器退行性疾患〗

【運動器退行性疾患について】
変形性膝関節症、変形性脊椎症、骨粗鬆症などの運動器退行性疾患がADL(日常生活動作)やQOLの低下に与える影響が大きく、要介護の原因疾患となるリスクがある。

[変形性関節症・変形性脊椎症の疾患概念]
変形性関節症(OA)、変形性脊椎症(脊椎OA)は、老化性退行変化を基盤とした軟骨の変性および骨性増殖を本態とし、これらの変化に伴い関節痛、運動障害をきたす疾患である。

 [骨粗鬆症の疾患概要]
・骨粗鬆症の疾患概念 「骨の量や質の低下により骨強度が低下し脆弱性骨折を生じた、あるいは生じる可能性が高くなった状態」と定義される。
・高齢者にみられる骨折は、そのほとんどが骨粗鬆症による脆弱性骨折により、頻度は椎体骨折、大腿骨頸部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折の順に高い、診断は基本的にX線画像によるが、椎体骨折では無症候性に発症している例も少なくない。

【運動器退行性疾患の有病率と危険因子】

[変形性関節症・変形性脊椎症の有病率]
「OAと「脊椎OA」の有病率と危険因子」

・「膝OAは男性42.0%、女性61.5%」
・「脊椎OAは男性80.6%、女性64.6%」。

[変形性関節症・変形性脊椎症の危険因子]
・年齢は有病、進展の危険因子
・肥満はOAの危険因子
・半月板切除、外傷後は膝OAの危険因子
・起居動作、立ち仕事、重量物を運ぶ仕事は膝OAの危険因子

[骨粗鬆症の有病率]
・腰椎の有病率は男性3.4%、女性19.2%
・大腿骨頸部の有病率は男性12.4%、女性26.5%

骨粗鬆症の有病率は70歳代女性で30%、80歳代では40%を超え、男性はその1/3以下と考えられる。

[骨粗鬆症の危険因子]
・低骨密度(BMDが1SD下がること)により、骨折の相対危険度は1.5倍増加する
・既存椎体骨折の存在により、新規椎体骨折の相対危険度は4倍増加する
・喫煙は骨折の相対危険度が1.25倍増加する
・飲酒(1日2単位:日本酒2合に相当し約40gのアルコール量)は骨粗鬆症骨折の相対危険度が1.38倍増加する
・ステロイドの使用は骨粗鬆症の相対危険度が1.71~2.63倍増加する
・親が大腿骨頸部骨折の場合、大腿骨頸部骨折の相対危険度が2.3倍増加する
・運動習慣は大腿骨頸部骨折の危険度が20~40%低下する
・BMIの増加は大腿骨頸部骨折の危険度が0.93に減少する
・カルシウム補助薬の摂取は椎体骨折の相対危険度が0.77に減少し骨粗鬆症に防御的にはたらく

「骨粗鬆症の食事指導」
エネルギーおよび各栄養素がバランスよく摂取できたうえで、さらにカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの栄養素を積極的に摂取する。

【C.運動器退行性疾患の運動処方】

「人工関節が入っている高齢者の運動指導上の注意点」
(人口膝関節の注意点)
・膝の過屈曲を避ける(座面の高さの調節)
・直接ひざを床などについての動作を避ける(おしり歩きやいざり動作を取り入れる)
・膝関節の負担を軽減する(杖の使用や適正体重を保つように指導)
(人工股関節の注意点)
・股関節の内転、内旋動作を避ける(日常生活指導における動作確認を心がける)
・股関節の負担を軽減する(杖の使用や適正体重を保つように指導)

〖9.呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患、運動誘発性喘息)〗

【COPDの成因と病態】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸引暴露することによって生じた肺の炎症性疾患。
・疫学調査NICE studyでは40歳以上の日本人の8.6%(約530万人)がCOPDに罹患していると推測されている。

【COPDの症状と診断】

[COPDの診断]

・COPDの最も特徴的な症状は労作時の呼吸困難である。
・慢性に咳、喀痰、体動時呼吸困難などがみられる患者はCOPDを疑う。
・気管支拡張薬投与後の1秒率が70%未満であればCOPDと診断する。

 【COPDの治療】
[COPDの運動療法]

<運動療法の適応と禁忌>
「COPD患者に対する運動療法実施のための評価項目」

【必須の評価】
・フィジカルアセスメント(身体所見)
・スパイロメトリー
・胸部単純X線写真
・心電図
・呼吸困難(安静時、労作時)
・経皮的酸素飽和度(Sp)・フィールド歩行試験(6分間歩行試験、シャトル・ウオーキング試験)
・握力

<COPDにおける運動療法の適用と禁忌>
①呼吸器症状があり、スパイロメトリーなどの標準な検査で診断されている。
②標準的な治療により病態が安定している。
③COPDにより機能的な制限がある。
④運動療法を妨げる因子や合併症や併存症がない。
⑤患者に積極的に実施したい意欲がある。
⑥十分なインフォームドコンセントが得られている。
⑦年齢制限や、呼吸機能、動脈血ガス分析値による基準は定めない。

運動療法は症状のあるほとんどのCOPD症例で早期適用となるが、禁忌となる病態は一般の運動療法の禁忌と同様である。

<運動処方の内容>
COPDにおける運動療法の内容 運動療法は、コンディショニング、ADLトレーニング、全身持久力、筋力トレーニングからなる。

1)コンディショニング
・呼吸トレーニング、呼吸介助、リラクゼーション、胸郭可動域トレーニング、排痰手技など。
・「呼吸トレーニング」は、口すぼめ呼吸と腹式呼吸を基本として呼吸パターンの調節と呼吸困難の緩和を図る。
・「呼吸介助」は、術者が換気の改善や排痰を目的として行う。
・「胸郭可動域トレーニング」は、胸郭周辺の筋・関節の柔軟性と筋力の改善と呼吸仕事量を減少させる。
2)ADLトレーニング
日常生活における呼吸困難の軽減と動作遂行能力の向上、最終的にはQOLの向上を目指す。
3)全身持久力・筋力トレーニング
・全身の大きな筋群を使用して一定のリズムを保った動的運動を一定時間以上行う。
・筋力トレーニングは下肢の筋力トレーニングが強く勧められるが、上肢の筋力トレーニングを加えると体動に伴う呼吸困難が軽減することが報告されている。

<d.COPDにおける運動実施上の注意点>
・運動療法中のモニタリングの方法はボルグCR-10スケールによる自覚症状や(呼吸困難や下肢の疲労感)、パルスオキシメーターによる経皮的酸素飽和度(Spo2)などが一般的である。

・運動時の心拍数は120拍/分以下が望ましい。
・運動の開始前にフィジカルアセスメントを十分に行い、増悪の有無を評価する。増悪時は運動療法が禁忌となる。
・COPDでは健常者や他の慢性疾患に比較して骨粗鬆症の併存を高率で認めるため脊椎圧迫骨折の可能性に注意を払う。
・息こらえを伴う等尺性(アイソメトリック)運動は原則的に避ける。
・COPDにおける運動療法の中止基準 ボルグCR-10スケールで7以上となった時点や通常と異なる呼吸困難、胸痛、動悸、極度の疲労、めまいなどの自覚症状が現れた時点でただちに運動を中止する。

【運動誘発性喘息の病態と予防】
・運動誘発性喘息(EIA) COPDは主に喫煙を原因とする好中球主体の慢性炎症性疾患であるのに対し、気管支喘息ではさまざまな環境アレルゲンが関与することが多く、好酸球を主体とする慢性炎症性気道疾患である。
・喘息患者の多くは、運動終了の数分前から一過性の気管支収縮をきたし、60分以内に自然回復する。このように運動の数分後に喘息発作や気管支収縮が生じる。
・最大心拍数80%以上となるような比較的激しい運動を3~8分間することで運動誘発性喘息(EIA)が誘発されやすい。

【運動誘発性喘息(EIA)における運動実施上の注意と予防】
・急に乾燥した冷たい空気を吸い込むと発作を起こすため運動を始める際は十分なウォーミングアップを行い、ゆっくりと外気を体に慣れさせる。
・マスクを着用させる。
・吸入β2刺激薬などを運動前に吸入することで気管支収縮を抑制できる。
・軽い運動で運動誘発性喘息(EIA)が誘発される場合は長期管理の見直しが必要である。

〖10.がん(悪性新生物)〗

【わが国におけるがん罹患数・死亡数の推移】
・わが国のがん罹患・死亡数の推移 がん罹患は1980年代以降増加している一方で、がんによる死亡は1990年代半ばをピークに減少に転じている。
・現在、日本人の約2人に1人は、生涯においてなんらかのがんに罹患すると推測され、がんは死亡原因の第1位である。
・部位別にみると、男性では胃、大腸、肺、前立腺の罹患数が多く、女性では乳房、大腸、胃、子宮、肺の罹患数が多い。

【わが国におけるがん対策】
[がん対策基本法]
「基本的施策」

①がん予防および早期発見の推進
②がん医療の均てん化の促進(均てん化:地域格差なしにどこでも平等に)
③研究の推進
④がん患者の就労、がんに関する教育の推進

【がん検診】
「がん検診の分類」

・「対策型検診」:市町村などの住民健診
・「任意型検診」:人間ドックなど

「がん検診の基本的要件」
①患者数が多く、死亡の重大な要因であること
②がん検診を行うことで死亡が確実に減少すること
③がん検診を行う検査方法があること
④検査が安全であること
⑤検査の精度がある程度高いこと
⑥発見されたがんについて早期治療が存在すること

わが国では科学的根拠に基づいて、胃がん、子宮がん、肺がん、乳がん、大腸がんの検診を行っている。

 

<胃がん検診>
約10%が要精密検査と判定される。
<子宮がん検診>
・子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんの2種類がある。30~40歳代に多く、子宮体がんは、50~60歳代に多い。
・検診の対象になるのは子宮頸がんで子宮頸部粘膜の細胞診を2年に1回実施する。
・約1%が要精密検査と判定され、その場合にはコルポスコープ(粘膜表面を拡大して観察)や組織診による検査を行う。
<肺がん検診>
・胸部X線検査とブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の喫煙者を対象とした喀痰細胞診の組み合わせである。
・肺がん検診では、胸部X線検査の約3%、喀痰細胞診の約1%が要精密検査と判定され、その場合には胸部CT検査や気管支鏡検査による精密検査を行う。
<乳がん検診>
・乳房X線検査(マンモグラフィ)である。
・約8%が要精密検査と判定される。
・精密検査の方法として乳房X線検査(再検)、超音波検査、MRI検査、CT検査、穿刺(せんし)吸引細胞診が挙げられ、病変部位や悪性疾患の可能性の有無により適宜選択される。
<大腸がん検診>
・便潜血検査では約7%が要精密検査と判定される。
・精密検査では、内視鏡検査により直腸から盲腸までの範囲においてがんやポリープの有無を確認し必要に応じて組織を採取する。

「日本人のためのがん予防法」

【がん患者における運動の注意点】
がん患者における運動は多くのメリットがあることがコホート研究から明らかにされているが、以下のような場合は注意が必要である。
①高度の貧血を有するがん患者は、貧血が改善するまで日常生活以外の運動を延期する。
②免疫不全のあるがん患者は、白血球数が安全な範囲に回復するまで公共ジム、公共プールは避ける。
③高度の疲労感を自覚しているがん患者は、1日10分程度の軽い運動にとどめる。
④放射線治療を受けているがん患者は、治療部位の皮膚が塩素(水泳プールなど)に暴露するのを避ける。
⑤カテーテルや栄養チューブを留置されているがん患者は、プール、湖、海などの細菌感染症のリスクがある場所をさける。
⑥コントロール不良の合併症を多数有するがん患者は、運動プログラムについて主治医に相談する。
⑦末梢神経障害や失調を有するがん患者は、筋力低下や平衡感覚減弱により患肢をうまく扱うことができない。したがって、歩行やトレッドミルよりもリクライニング式エクササイズバイクのほうがよい。

〖11.軽度認知症障害、認知症〗

【主要な認知症】
・認知症のおおよそ7~8割は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症およびこれらの混合型の認知症である。
・65歳以上の高齢者のうち認知症は推計で14.6%である。
「アルツハイマー型認知症」
最も多く、危険因子は、遺伝的要因と環境的要因に分けることができるが、環境的要因の方がより大きく発症に関わっていると考えられている。
「脳血管性認知症」
15~20%を占めると考えられている。脳血管障害によって起こる、脳梗塞、血栓症、脳塞栓症、脳出血、くも膜下出血が挙げられる。

これらの危険因子として、運動不足、肥満、食塩の摂取、飲酒、喫煙の習慣、高血圧、脂質異常症、糖尿病や心疾患があり、生活習慣の改善が予防や重要である。

【認知症の危険因子】
[認知症と食事]
魚の摂取に関して1日1回以上食べている人に比べほとんど食べていない人はアルツハイマー型認知症の危険がおおよそ5倍であった。
・魚に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるEPAやDHAによるものと考えられている。
・野菜や果物の摂取量が多いとアルツハイマー型認知症の発症率が低いといわれ、ビタミンE、C、βカロチンなどが有効と考えられている。
・ワインを摂取している人はアルツハイマー型認知症の発症率が低い。

[認知症と知的活動]
文章を読む、チェスなどのゲーム、楽器の演奏、ダンスなどの知的な生活習慣がある人は認知症の発症率が低い。
「対人的な接触頻度」
一人暮らしで、引きこもりがちな人は発症のリスクが8倍高い。

【認知症の危険心因子ーとくに運動習慣と認知症予防ー】
・運動をよく行い、活動量の高い人は認知症リスクが低い。
・中年期に少なくとも週2回の運動習慣やレジャーでの身体活動を有していた人は認知症の発症が抑制されていたと報告されている。

【軽度認知症障害の重要性】
・認知症ではないが正常ともいいがたい軽度の認知機能低下を有する状態は「軽度認知症(MCI)」と呼ばれ、認知症の発症する危険が高いことが明らかになっている。
・地域に在住する高齢者を対象とした大規模疫学調査では、MCI有病率はおおむね5~7%とされている。
・正常な認知機能を有する高齢者のアルツハイマー型認知症の発症は年間1~2%であったのに対し、MCI高齢者からのアルツハイマー型認知症の発症は年間10~15%であった。
・MCIはアルツハイマー型認知症の前駆状態として重要な介入期間である。
・一方、38.5%のMCI高齢者は、5年後に正常な認知機能へと回復するとした報告もあり、MCI高齢者を正確に抽出し、適切な介入方法によって認知機能の低下を予防することが極めて重要である。

【認知症予防に関する運動介入】
・認知症予防の対象者は、MCI高齢者。
・地域型認知症予防プログラムはさまざまなものが利用されているが、なかでもウオーキングや旅行、料理、パソコンは多くの高齢者が今後やってみたいこととして挙げており、自分の好きなものであれば参加者は活動を維持するモチベーションわを保ちやすい。
・米国スポーツ医学(ACSM)が推奨するウオーキングプログラムでは、1日30分の早歩きを週5回行うことを目標としている。有酸素運動は脳血流を増大させ、認知症の発症遅延効果が期待できる。

第4章 運動生理学

〖1.呼吸器系と運動〗

【呼吸について】
・ATP再合成に必要な酸素を空気中から体内に取り込み、その代謝過程で産出された二酸化炭素を体外に放出することである。
・二つのガスを入れ換えるガス交換が肺と組織の2ヵ所で行われ、それぞれ外呼吸、内呼吸という。
・一般的に「呼吸」というと外呼吸を指すことが多い。

呼吸器官 外気は鼻腔、咽頭、気管と進み、気管は2本の気管支に分かれて左右の肺に入り、23回も分岐を繰り返し、最終的に袋状の肺胞で終わる。

【呼吸器官の構造と機能】

[呼吸器官]
「換気」

外界と肺(肺胞)の空気の出入り(呼気と吸気)のこと。
「死腔(しくう)」
吸気の終了時点で気道にある空気は肺胞に届かずに呼気によって排出されるため、ガス交換に使用されない。その量は成人で約150ml。
「肺胞」
・ガス交換を行う重要な部位。
・1個の肺胞の直径は呼気終了時には0.2㎜ほどで両肺に約3億個以上も存在し、全表面積は70~100㎡にもなる。

[呼吸運動]
肺には筋肉がなく、自力で拡張・収縮できないので、換気は呼吸筋(横隔膜と肋間筋)と補助呼吸筋を用いた胸腔の拡大・縮小によって受動的に行われる。
「腹式呼吸」
横隔膜の上下による呼吸。安静時吸息の70~80%は横隔膜収縮。
「胸式呼吸」
肋間筋による肋骨の上下による呼吸。運動時には外肋間筋収縮による肋骨の挙上も加わり、より多くの空気を吸い込む。

激しい運動時には、頸部の胸鎖乳突筋や斜角筋などの補助呼吸筋もはたらき、肋骨をさらに挙上させて多くの空気を肺胞に送り込む。

[換気量]
一回換気量(tidal volume:TV)」
一回の呼吸で口または鼻から入る、または出る空気の量(体積)のこと。
呼吸数(breathing frequency:bf)」
1分間当たりの呼吸の回数。
毎分換気量(minute ventilation)」
一回換気量×呼気数、1分間当たりの呼吸量(換気量)。
「毎分呼気量」
呼気で測った毎分換気量。
「毎分吸気量」
吸気で測った毎分換気量。
「肺胞換気量」
ガス交換に有効に使える換気量。
「酸素摂取量」
1分間当たりに体内に取り込んだ酸素の量。
「酸素借」
運動開始時に、本来必要な酸素の量で表した時の酸素需要量と、運動中に取り込んだ酸素の量(酸素供給量)の不足分のことで、この不足分のエネルギー生産を補うのが無酸素性のエネルギー供給機構(主に解糖系)。
「酸素負債」
運動終了後に、酸素借の返済のための酸素摂取量。
「運動後過剰酸素消費」
・特に強い強度の運動後は、心臓や呼吸筋の活動レベル、体温、アドレナリンなどのホルモンレベルが高いままであり、酸素が余分に必要になる。
・したがって、酸素借<酸素負債となって借りた以上に酸素を使うことになる。
・以上の事から最近では酸素負債のことを運動後過剰酸素消費と呼んでいる。
「換気閾値」
徐々に運動強度を増していくと酸素の供給が追いつかなり、生成された乳酸を取り除くためにより多くの酸素を取り込もうとして換気量が増大する領域。
「乳酸閾値」
徐々に運動強度を増していくと血中乳酸濃度が顕著に上昇する部分がみられるが、この血中乳酸濃度が急増する領域。換気閾値と乳酸閾値はよく一致する。
「最大酸素摂取量」
最大換気量に到達するころ、疲労困憊となって運動が続けられなくなるが、その時の1分間当たりの酸素摂取量の最大値。
「酸素供給能」
・運搬能ともいい、酸素を組織に送り込む能力のこと。
・呼吸筋による換気能力と肺での拡散能力、心筋収縮力や心容積などの心機能、筋血流量に影響する血管機能、ヘモグロビンや血液量などの血液機能、毛細血管密度、組織拡散能力などがある。
「酸素利用能」
・消費能ともいい、組織で酸素を使う能力のこと。
・酸化酵素活性などのミトコンドリアでの酸化能力が挙げられる。
「肺でのガス交換」
・ガスの分子が分圧(濃度)の高い方から低い方に移動することを拡散しいう。
・肺胞に送られてきた空気中の酸素は、拡散によって肺毛細血管に移動し、赤血球のヘモグロビンと結合し、心臓を経由して組織に送られる。

〖2.循環器系と運動(1)(2)〗

【心臓血管系について】

体循環と肺循環 心血管系は血液を送り出す心臓と動脈と静脈の血管系からなり、体循環(大循環)と肺循環(小循環)の2系列に分かれる。

「体循環」
心臓の左心室→動脈血管→毛細血管→静脈血管→右心房。
「肺循環」
静脈血が心臓の右心室→肺動脈→肺→肺静脈→心臓の左心房

【心臓の構造と心機能の指標】

[心電図と心拍数]

「心臓の刺激伝導系」
洞房結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維。伝導刺激系により心筋が収縮して心拍動が起こる。

「心電図」
・心拍動に伴う電位変化を体表面から記録したもの。
・洞房結節で発生した活動電位が心房を興奮させてP波を形成する。
・同室結節に活動電位が伝わり心室が興奮すると、Q波、R波、S波からなるQRS群が現れる。
・続くT波は心室の再分極(元の状態に戻る)を表す。
「神経系調節」
心臓は自律性をもつが神経性調節(心臓交感神経および心臓副交感神経)およびホルモンなどによる液性調節をうける。
「心臓交感神経」
・洞房結節、房室結節、心房、心室に広く分布。
・伝達物質 → ノルアドレナリン。
「心臓副交感神経」
・洞房結節、房室結節、心房に分布、心室への分布はない。
・伝達物質 → アセチルコリン。
「液性調節」
・副腎髄質はカテコールアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン)を分泌する。
・アドレナリンは心拍数と心筋収縮力の調節にかかわる。
・ノルアドレナリンは末梢血管の収縮作用にかかわる。

[1回拍出量と心拍出量]
「1回拍出量」

1回の収縮で心室から排出される血液量。
「心拍出量」
心拍数と1回拍出量の積。
「心室拡張終期容量(EDV)」
1回拍出量は心の拡張期に心室内に充満する血液。
「心室収縮終期容量(ESV)」
収縮後に心室に残る血液。
「スターリングの心臓の法則」
・心臓に戻る静脈還流量が増すとEVDが増大し、心筋に伸展という前負荷を与え心筋収縮力を上げ、最終的に1回拍出量を増大させる。
・「静脈還流量 → EDV → 心筋伸展 → 1回拍出量」の一連の関係性のこと。
「心拍出量にかかわる要因」
交感神経から放出されるノルアドレナリンや副腎皮質由来のカテコールアミンは、心筋収縮力を上げESVを少なくさせ、1回の拍出量を増大させるように働く。

【血管系の構造と血管の機能】

[大動脈]
大動脈は導管というだけでなく、心臓がもたらす急峻な血圧と血流の変動を平準化する。
・大動脈の「ウィンドケッセル作用」とは、心室収縮期に大動脈へ流入した血液の一部を伸張性の高い血管壁にとどめておき、心室拡張期に末梢側に押し出してゆくこと。

[細動脈]
細動脈は、末梢組織の入り口に位置し、収縮・弛緩を繰り返して血管系を調節する。
・このため「抵抗血管」と呼ばれる。内皮細胞由来の血管拡張因子として「一酸化窒素」、血管内皮細胞の血管収縮因子として「エンドセリン-1」がよく知られている。

[毛細血管と静脈]
・「毛細血管」:組織と血液との間の物質交換の場。
・「静脈」:内径が広いので多量の血液の貯留ができる。このため「容量血管」とも呼ばれる。

【D.動脈血圧と心拍出量と総末梢血管抵抗との関係】
・血管内を流れる血液量は、血圧差に比例し血管抵抗に反比例する。

平均(動脈)血圧 = 心拍出量 × 総末梢血管抵抗

動脈血圧は心臓の拍動に同期して変動する。

・「収縮期血圧(最高血圧)」→心臓の収縮期に最も高い。
・「拡張期血圧(最低血圧)」→心臓の拡張期に最も低い。
・「脈圧」→収縮期血圧と拡張期血圧の差。
・「平均血圧」→1拍動における血圧変化の代表値。

血圧は時刻、加齢、運動、姿勢、精神、ストレス、環境温、脱水などさまざまな要因で変化する。

【運動時の心拍数とその調節】
・同一負荷の運動時では持久力の高い人ほど心拍数の増加が緩やかである。
・運動時の心拍上昇には心臓交感神経と心臓副交感神経の調節がはたらく。
・副腎髄質から分泌されるカテコールアミンも心臓交感神経活動と同様の作用をもつが運動時間が長い場合に重要な役割を果たす。(液性調節は循環血液を介した反応であるため長時間にわたる調節に関与する)

【運動時の1回拍出量とその調節】

「筋ポンプ作用」
骨格筋が収縮して静脈が圧迫されたときに静脈弁が閉鎖して血液を押し上げ血流の逆流を防ぐ作用。

【運動時の血流再配分とその調節】

「血流配分」
心拍出量を末梢組織へ配分すること。
「血液再配分」
運動などの状況に応じて安静時の血流配分をし直すこと。

「運動時の血流配分の特徴」
筋活動に重点的な血流再配分は抵抗血管(細動脈)における血管径の収縮・緩和によって以下のことが行われる。
①心拍出量の大部分を活動筋に向かわせる、
②運動時に直接関与しない腎臓や腹部内臓(非活動組織)の血流量を減少させる。

・非活動組織の血管では、交感神経性血管収縮作用と血管内皮由来の血管収縮因子により著しい血流減少が起こる。

・一方活動筋では血管内皮由来の血管拡張因子(一酸化窒素)や活動筋中の代謝産物(例えば乳酸、カリウム、アデノシン、ATPなど)が交感神経性血管収縮作用を遮断、強力な局所性血管拡張作用をもたらす。

【静的運動および動的運動における動脈血圧】
・静的運動時に収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧が顕著に上昇する。
・心拍数の増加による心拍出量の増大と末梢血管抵抗の増大に起因。
・動的運動時に収縮血圧は上昇、拡張期血圧は低下傾向、平均血圧はわずかに上昇する。
・平均血圧の上昇が少ないのは総末梢血管抵抗が安静時よりも大幅に低下して心拍出量の増大を打ち消すからである。
・動的運動時では活動筋における強力な局所性血管拡張作用が総末梢血管抵抗を下げるため心拍出量の増大が相殺され、平均血圧の上昇がわずかとなる。

【運動時の血圧調整に働く仕組み】

「セントラルコマンド」
・筋収縮を起こす運動指令が骨格筋に下降する際、運動指令に同期した指令が大脳や視床下部を経由して延髄の心血管中枢(循環中枢)に送られ、心臓や血管系が調整される。
・セントラルコマンドは筋収縮に先行してはたらく、運動前から予期的に心拍数や血圧が上がるのはセントラルコマンドの働きである。

「圧受容器反射」
・安静時および運動時にかかわらず、常時血圧を監視している。
・さまざまな血圧変動に対して一定の血圧維持するようにはたらいている。

【運動時の酸素摂取量と動静脈酸素較差との関係】

酸素摂取量 酸素摂取量 = 心拍出量(心拍数×1回拍出量) × 動静脈酸素較差

「動静脈酸素較差」
心臓をはさむ動脈血と混合静脈血(種々の組織を経由し混合した静脈血)とのO2の濃度の差。

「運動強度の増加時」
・運動強度が上がっても動脈血O2濃度は安静時と変わらない。
・しかし活動筋が酸素を消費することから静脈血O2濃度が徐々に低下するため、動静脈酸素較差が増大する。
・このため活動筋の毛細血管表面積や筋線維の酸化代謝能力(ミトコンドリア、酸化酵素活性など)などが動静脈酸素較差に影響する。

【運動トレーニングによる心機能の変化】
スポーツ心臓 長期的に高度のトレーニングを積んだアスリートではスポーツ心臓と呼ばれる心肥大が生じる。
「持久性アスリート」
左心室内腔の拡大と左心室筋が肥大し1回排出量が著しく増える。
「レジスタンス系アスリート」
心室壁が肥厚する心肥大が起こるが、左心室内腔が大きくならないため、持久性アスリートのような1回拍出量の増大はない。

【運動トレーニングによる血管機能の変化】

「大動脈伸展性(動脈コンプライアンス) 」
・大動脈は心室収縮に伴う急峻(きゅうしゅん)な血圧・血流の変動を平準化する機能のこと。
・この機能は加齢とともに低下する。

〖3. 脳・神経系と運動(1)(2)〗

神経系の構造】

神経系は、神経細胞(ニューロン)と神経膠(しんけいこう)で構成される。

[ニューロン】
ニューロンは情報の伝達する働き。構造は細胞体と多数の突起からなり、突起のうち1本だけ長く伸びたものを軸索(神経突起、神経線維)といい、他を樹状突起という。
「神経膠」
ニューロンを束ねたり、栄養を供給。
「神経支配」
ニューロンがニューロン以外の器官に接続することをいう。
「シナプス」
ニューロンとニューロンの接合部分。
「体性ニューロン」
随意運動や骨格筋を効果器とする反射や感覚などの動物的機能に関与するニューロンで、機能的に「感覚ニューロン」、「運動ニューロン」、「介在ニューロン」に分類される。
「運動ニューロン」
・αとγの2種類がある。
「α運動ニューロン」は、一般の骨格筋線維(錘外筋線維)を支配する。
「γ運動ニューロン」は、筋紡錘の錘内筋線維を支配する。
「自律性ニューロン」とは、随意運動に関与せず、もっぱら腺や内臓を支配して消化吸収やホルモン分泌などの植物的機能に関与するニューロン。

[運動単位]
「運動終板」
運動ニューロンと骨格筋繊維との接合部はシナプスの一種で、特に運動終板と呼ぶ。
「運動単位」
α運動ニューロンとそれに接続する骨格筋線維は運動の機能的細小単位。
「サイズの原理」
力を発揮する際には、まず小さな運動単位がはたらき始め、次第に大きな運動単位が動員される。

[中枢神経系と末梢神経系]
神経系は中枢神経系と末梢神経系に分けられる。
「中枢神経系」
脳と脊髄からなる。脳は大脳半球、脳幹、小脳からなる。
「末梢神経系」
中枢神経系から出て身体各部を支配する。

[脳の区分]
脳の大脳半球と小脳の表面には複雑な凹凸構造がある。陥凹部を溝(こう)、凸部を回(かい)という。溝のとくに深く大きいものを裂(れつ)という。
・表面の溝や裂によって、肉眼解剖学的にいくつかの領域が区別される。これを葉(よう)という。左右大脳半球は大脳縦裂によって隔てられる。
・各大脳半球は、前頭葉、前頂葉、後頭葉、側頭葉、辺緑葉の5葉に区分される。

[脊髄の区分]
脊髄は、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に分かれる。
・各8、12、5、5、1の髄節からなる。

【脳の運動制御系】

[脳の運動制御系]
大脳皮質には随意運動に関連する複数の領域(運動関連領野)が存在する。
・それらは一次運動野と運動連合野に大きく分けられる。

<一次運動野>
・大脳皮質から下位の中枢神経系へ指令を送る領野のなかでもっとも重要な領域。
・錐体細胞は軸索の伝導速度を基に速動型と緩徐型の2種類に分けられる。
・緩徐型はゆっくりあるいは定常的で微細な調節を必要とする動作時に多く活動する。また、一次運動野には体部位局在性がある。
<運動前野、補足運動野>
・運動前野は一次運動野よりやや顔よりの領域にある。一次運動野より高次の情報処理を受けもつ。一般に運動前野と補足運動野に帯状皮質運動野を加えた領野を高次運動野と呼ぶ。
・運動前野と同じ領域に補足運動野があり、一次運動野と同様に体部位局在性がある。補足運動野は①単純動作よりも複雑な時間構成を必要とする動作、②視覚を基に行われる動作、③動作の学習時に活動が高まる。

[小脳の運動制御系]
大脳皮質後部の直下にあって、運動のコーディネーション、すなわち、力発揮の強さや方向、タイミングなどの調節に重要な役割をもつ。

[脳幹の運動制御系]
脳幹は字のごとく、脳の中の幹の部分に相当する。
・そのなかは、中脳、橋、延髄、間脳から構成される。
・脳幹は生命維持に直結する重要な中枢が多く存在する。運動系においても脳幹に起始細胞を有する重要な伝導路がいくつもある。

 

[脊髄の運動制御系]
脊髄の灰白質の部分には運動や感覚の神経があって、感情情報を脳幹や視床に伝えたり、脳からの運動指令を筋肉に伝えるはたらきを担っている。
・感覚神経は脊髄の背側から後根を通って脊髄に情報を伝え、筋肉に運動の命令を出すα運動ニューロンは前角に存在する。

【自律神経系】

自律神経調節の特徴として、自律性支配、二重支配、拮抗支配、自発性・緊張性活動(トーヌス)が挙げられる。

「自律性支配」
意志の関与なしに身体内部諸器官の活動を一定に保つ性質。
「二重支配」
内臓器官の多くが交感神経と副交感神経によって二重に支配されていることを意味する。
「拮抗支配」
二重支配の作用がお互いに拮抗であること。
「トーヌス」
・多くの自律神経遠心性繊維は常時自発性に活動している。
・トーヌスの増減によって内臓の機能の持続的に亢進あるいは低下という調節をうける。

[自律神経系の構成]
・自律神経系の遠心路は、交感神経と副交感神経の二つの系から構成される。

[自律神経系の中枢]

<大脳>
「大脳皮質」

内側前頭前野が大脳辺縁系からの入力を受け、間接的に自律神経系を調節する。
「大脳辺縁系」
視床下部と連携し本能、情動行動、それに伴う自律反発の協調と統御にかかわる。
<視床下部>
・血液温、血糖値を直接検知するとともに末梢受容器からの情報を受け、生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持するための諸種反応を引き起こす。
・体温、血糖、水分量、下垂体ホルモン分泌、概日リズムなどの中枢がある。また、本能行動、すなわち、摂食、飲水、性行動や情動行動の中枢でもある。
<小脳>
・脳血流の増大、血圧と心拍数の上昇といった種々の循環反射時の心臓血管系の調節の関与。

<脳幹>
・脳幹には生命維持に必要な循環、呼吸、排尿などの自律機能を調節する。

【運動の発現と制御】

[随意運動と不随意運動]
「随意運動」
自分の意志で開始される身体運動で、練習によって上達するのは随意運動。
「不随意運動」
・自分の意志とは無関係に開始される身体運動で、反射、自動運動、情動運動、病的動作に分けられる。
・歩行は脊髄にある中枢パターン発生器によって発現する「自動運動」である。
「情動運動」
喜怒哀楽に伴う身体活動や表情変化の総称。
「病的動作」
舞踏病の舞踏様不随意動作、パーキンソン病の安静時振戦、てんかんの発作など神経性疾患に付随する症状としての動作。
「伸張反射」
骨格筋を外力で伸張すると、伸張された筋が収縮する反射。
「姿勢反射」
緊張性頸反射、緊張性迷路反射、立ち直り反射、踏み直り反射など、姿勢を保持するための多くの反射の総称。

【脳神経の発育および加齢変化】

[有酸素性運動と脳の高次機能]
日常的に有酸素運動を行う機会が多く、その能力が維持されている高齢者の方が海馬の大きさの萎縮が少なく保たれていると考えられる。
・有酸素運動は心臓循環器系を刺激し、末梢循環などの組織の血液循環系の機能を維持・向上させる効果がある。
・脳の血液循環も有酸素運動によって促進されることが予想され、それが海馬の新生細胞数、ひいては容積と関連したと考えられる。

〖4.骨格筋と運動(1)(2)〗

【骨格筋のはたらき】
骨格筋の働き ヒトの体内には骨格筋、心筋、平滑筋の三種類の筋組織がある。
・骨格筋は意識によってその運動を調節できるため随意筋に属し、心筋と平滑筋はそれが不可能なため不随意筋に属する。

「骨格筋」
・筋線維という細長い多核細胞からできており、顕微鏡などの筋線維を観察すると規則的な横紋がみられることから横紋筋とも呼ばれる。
・骨格筋は全体として体重の約40%前後を占める巨大な器官、その代謝機能は全身における糖や脂質の代謝恒常性を維持するでも重要。
・骨格筋は体温維持のための熱源としても重要であり、体熱生産の約60%を担っている。

【骨格筋の形状と神経・筋機能】
骨格筋の形状と神経・筋機能 骨格筋は筋線維の走行方向に基づき、紡錘状筋(または平行筋)と羽状筋に大きく分けられる。
「羽状筋(うじょうきん)」
・構造は筋線維が筋の長軸に対して一定の角度(羽状角)をもって走行し鳥の羽のような形状をしている。
・横断面積当たりの筋力が大きく、外側広筋や腓腹筋など。身体内には400以上の筋があるが、そのほとんどが羽状筋。
・羽状角の大きなもの(例えば外側広筋)は筋力発揮、羽状角が小さく特性としては紡錘状筋に近いもの(例えば半腱様筋)までさまざまある。
・重力に抗して荷重を支える四肢の伸筋群に多い傾向。
「紡錘状筋(ぼうすいじょうきん)」
・構造は筋線維が筋の長軸と平行に走行している。
・短縮速度が大きい、上腕二頭筋など。紡錘状筋と羽状角の小さな筋は動きの大きさやスピードに敵した筋とみなすことができる。
・四肢の屈筋群に多い傾向。

[筋収縮のメカニズム]
・筋活動によって筋線維が短縮するときに、A帯の幅は変わらず、隣接するZ線の間の間隔が狭くなる。
・太いフィラメント(ミオシンフィラメント)と細いフィラメント(アクチンフィラメント)の長さは常に一定で、お互いに滑り合うようにして筋活動が起こると考えられることから、滑り説又は滑走説と呼ぶ。

[興奮収縮関連]
・筋線維内には、エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)がほぼ一定量存在する。
・したがって、筋収縮をオンにしたりオフにしたりするのはATPの量的変化ではなく、カルシウムイオン(Ca2+)である。
・静止状態では、筋形質内のCa2+濃度は極めて低く、筋線維が興奮して活動するときには、静止状態の濃度の約100倍まで増加する。
・こうした筋形質内のCa2+濃度変化には筋小胞体とT-小管(※横行小管「transverse tubule」)がはたらいている。

[筋線維タイプ]
筋線維は大きく「速筋線維(FT線維)」と「遅筋線維(ST線維)」に分類されている。
「速筋線維(FT線維、タイプⅠ線維)」
・単収縮が速く、張力も大きい。
・最大強縮における断面積当たりの張力はST線維よりも30%ほど大きい。
・白筋線維とも呼ばれ有酸素性代謝活性が低いためST線維に比べ持久力に劣る。
「遅筋線維(ST線維、タイプⅡ線維)」
・単収縮が遅く、張力が小さい。
・有酸素性代謝能力が高く持久力に優れている。
・赤色の色素たんぱく質を多量にもつため、外観上赤みをおびていることから赤筋線維とも呼ばれる。

[運動強度と運動単位の動員様式]
ST線維を支配する運動神経は、その細胞体は小さく、興奮の閾値が低く、神経支配比が小さい(運動単位のサイズが小さい)。
・FT線維を支配する運動神経は、その細胞体が大きく、興奮の閾値が高く、神経支配比は大きい(運動単位のサイズが大きい)。
「サイズの原理」
徐々に筋力を高める筋力発揮を行った場合、まずサイズが小さく、動員閾値の低いST線維の運動単位から優先的に動員され、筋力発揮レベルの増大とともに、サイズの大きなFT線維の運動単位が付加的に動員されてゆく。

【骨格筋の力学的特性】

[短縮と伸張]
筋にはエンジンとしてのはたらきのほか、ブレーキとしてのはたらきがある。
・バーベルなどの負荷を持ち上げるとき、筋は収縮しながら筋力を発揮するので、このような動作を短縮性動作(求心性動作、コンセントリック動作)、筋収縮形態を短縮性収縮(求心性収縮、コンセントリック収縮)という。
・バーベルを下ろすときには、同じ筋が今度はブレーキをかけるようにして、外力によって強制的に伸張されながら筋力を発揮するので、このような動作を伸張性動作(遠心性動作、エキセントリック動作)、筋収縮形態を伸張性収縮(遠心性収縮、エキセントリック収縮)という。

[力―パワー関係]
・パワーは「仕事率」であり、「力学的エネルギー発生速度」を指す。
・パワー = 筋肉が時間あたりに物体に与える運動エネルギーの大きさ
= 仕事/時間 = (力×距離)/時間
= 力×距離/時間 = 力×速度

【筋運動のエネルギー供給機構】

[代謝によるエネルギー生成]
筋収縮をはじめ、すべての細胞活動の直接のエネルギー源はアデノシン三リン酸(ATP)であり、ATPは「エネルギーの通貨」に例えられる。
・ATPがアデノシン二リン酸(ADP)と無機リン酸(Pi)に分解されるときに、細胞が利用可能な大きな自由エネルギーを発生する。

糖質、脂質、アミノ酸などの栄養素(エネルギー基質)を分解して得られるエネルギーを用いてATPを合成する一連の化学反応系がエネルギー供給系(エネルギー代謝系)である。

[筋内のエネルギー供給系]
筋線維には、次の三つのエネルギー供給系がある。
①「ATP再生機構(ATR-CP系)」
・筋線維内には、クレアチン酸(PCr)という高エネルギー酸化合物が、ATPの5倍量ほど含まれている。
・酵素のクレアチンキナーゼの働きでADP(アデノシン二リン酸)とPCrから素早くATPとクレアチン(Cr)が生じる反応が進行する。
・筋収縮によってATPが消費され、ADPが生成されると、この反応によって即時にADPからATPが再合成される。
②「無酸素的解糖系(乳酸系)」
筋線維内に貯蔵されたグリコーゲンや血中から取り込んだグルコースは、無酸素的解糖系によって素早くピルビン酸まで分解され、乳酸へと還元される時に発生するエネルギーがATPを産生する。
・結果的に乳酸を生成するので乳酸系とも呼ぶ。
・生成された乳酸は筋線維の外に排出される。
③「有酸素系(酸化系)」
・無酸素的解糖系で生じたピルビン酸や脂質の分解で生じた脂肪酸は、ミトコンドリアに取り込まれ、トリカルボン酸サイクル(TCAサイクルまたはクレブスサイクル)、電子伝達系という反応経路によって、最終的に二酸化炭素と水に分解される。
・この反応の過程の進行には酸素が必要となるため有酸素系と呼ばれが無酸素的解糖系の18倍もの量のATPを合成できる。

[エネルギー供給系と筋疲労]
筋運動の持続や繰り返しによって、収縮張力、収縮速度、弛緩速度などが低下する現象を疲労という。

「早発性筋痛」
ミドルパワーの運動では、乳酸、水素イオン、アデノシンなどが生成され、速筋線維から排出される。
・これらは筋内の侵害受容器(科学受容器)を刺激するため「痛み」や「だるさ」といった筋感覚を生じる。
「遅筋性筋痛」
運動後の翌日~2日後にかけて発生する筋痛。
・伸張性筋活動の繰返しなどによって筋線維細胞膜や細胞骨格系に微細な損傷を生じ、その周辺に炎症反応が起こるためと考えられている。

【運動・トレーニングに対する骨格筋の適応】

「労作性筋肥大」
高強度の運動やレジスタンストレーニングを継続すると、骨格筋は肥大し、筋横断面積が増大すること。

「廃用性筋委縮」
・不活発、除負荷、ギブス固定などにより、筋の活動が低下したり、筋にかかる力学的負荷が低下したりすると筋の萎縮が起こること。
・廃用性筋委縮では、その萎縮速度はトレーニングによる肥大速度より大きく、ベッドレストやギブス固定の場合は1日当たりで0.5~1%にも達する。

「加齢性筋減弱症(サルコペニア)」
筋委縮と筋機能がある一定のレベルを超えて進行すること。
・加齢に伴う筋委縮はとくに下肢や体幹の筋群で顕著である。

〖5.内分泌系と運動〗

【ホルモンとは】
・特定の内分泌器官(腺)でつくられ、特定の器官(標的器官)に特異的な作用をするシグナル伝達物質である。
・生体にはさまざまな内分泌器官があり、放出されるホルモンも多種多様である。
・ホルモンは生体の恒常性維持やエネルギー代謝の調節、成長、生殖機能維持なとで重要な役割を果たす。
「エンドクリン(内分泌)」
放出されたホルモンが分泌器官から離れた標的器官に作用すること。
「オートクリン(自己分泌)」
分泌した細胞自身に働くこと。
「パラクリン(傍分泌)」
細胞間液を拡散することで隣接した細胞に作用すること。

【ホルモンの作用と運動やトレーニングに伴う変化】

[視床下部-下垂体-副腎軸(系)HPA系ホルモン]
「生理」

・交感神経が興奮すると髄質からアドレナリンとノルアドレナリンが分泌される。
・両社の比率はおおよそ17:3でアドレナリンが多い。
・副腎皮質からコルチゾールとアルドステロン、性ホルモンが分泌される。
「運動の影響」
ACTHやアドレナリンの血中濃度は運動強度依存的に増加する。
・最大酸素摂取量(VO2max)の50~60%を超えると急増し始める。
・長時間の運動や短期間でもきわめて激しい運動もHPA軸のホルモン分泌を促進させる。
「トレーニングの影響」
運動によるACTHやアドレナリンの分泌反応をトレーニング前後で比較すると、絶対的運動強度が同じであればトレーニング後に分泌応答は減弱、相対的運動強度ではトレーニング前後で大きな違いは見られない。
・きわめて激しい高強度運動時(無酸素性)のACTH分泌応答はトレーニングにより増加する。
・オーバートレーニング状態では、運動によるACTHやコルチゾールの分泌応答は低下する。

【血糖ならびに遊離脂肪酸動員にかかるホルモン】
「生理」

・糖質代謝にかかわる主なホルモンは、グルカゴンやコルチゾール、カテコールアミンおよびインスリンである。
・インスリンだけが血糖降下性に、それ以外は血糖上昇性にはたらく。
「運動による影響」
・50%VO2maxよりも低い強度の運動では、ノルアドレナリンとアドレナリンの上昇は安静時の2倍にすぎないが、ノルアドレナリンは主に脂肪組織の脂肪分解反応を高め、アドレナリンは肝臓のグリコーゲン分解を促す。
・しかしアドレナリンによる糖の動員はあまり大きくないため、低強度運動では遊離脂肪酸が主なエネルギー源として利用される。
・運動強度が50~75VO2maxになるとカテコールアミンの血中濃度は安静時の4~6倍に上昇し、筋肉のグリコーゲン分解反応や脂肪組織の脂肪分解反応も強くなる。
「トレーニングの影響」
鍛錬者の運動中のインスリン低下量は非鍛錬者に比べ小さい。
・グルコース刺激によるインスリン分泌もトレーニングによって低下。
・運動時のグルカゴン分泌量もトレーニングトレーニングによって減弱するが、肝臓のグルカゴン感受性は向上する。

[骨格筋や骨の成長にかかわるホルモン]
「生理」

・たんぱく質代謝にかかわる主なホルモンは、GH(成長ホルモン)、インスリン、インスリン様成長因子、T3、T4、コルチゾールおよびテストステロンである。
・GHは、骨細胞や筋肉においてアミノ酸の取り込みとたんぱく質合成を増し、筋肉や脂肪細胞のグルコースを取り込みを抑えて血糖値を上昇させる。
「運動の影響」
・GHの分泌は運動強度依存に増加する。
・しかし長時間に及ぶ運動ではGHの血中濃度は逆に低下している。
「トレーニングの影響」
血中の成長ホルモン(GH)濃度は「VO2max」と「体重当たりの骨格筋量」の両方に正の相関がみられる。

[性ホルモン]
「生理」

・男性で最も重要な性ホルモンはテストステロンである。
・女性では、エストラジオールとプロゲステロンである。
「運動の影響」
・テストステロンの分泌は運動強度依存的に増加する。
加齢によりテストステロンの分泌は低下するが高齢の男性でも運動による血中濃度の増加がみられる。
・女性では、エストラジオールやプロゲステロンも運動により増加する。
・きわめて激しい運動や長時間の運動後にはテストステロンやエストラジオールの血中濃度は低下する。
「トレーニングの影響」
・男性の血中テストステロン濃度は長期間の持久性運動によって低下するが、長期間にわたる高強度運動では増加する。
・女性では比較的激しいトレーニングを行っていると無月経になることがあり、正常月経者と比べて生殖ホルモンレベルが低下し、代謝を調節するホルモンレベルも大きく変動している。

[体液調節にかかわるホルモン]
「生理」

・水やNaの調整にはたらく主なホルモンはバソプレシン(VP)、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系およびナトリウム利尿ペプチド(ANP)である。
「運動の影響」
VPやアルドステロンの分泌は60%VO2maxの運動強度を超えると血症浸透圧や血圧の上昇を伴って有意に上昇をはじめる。
「トレーニングの影響」
運動によるレニン分泌の増加はトレーニングにより小さくなる。

〖6.運動と免疫能〗

【免疫系の概要】
免疫系を構成する細胞は白血球と称され、食細胞とリンパ球に大別される。
・食細胞はアメーバのように運動し微生物や異物を捕捉して細胞内に取り込み分解する食作用(貪食)を専門とする細胞で、好中球、単球、マクロファージなどを指す。
・リンパ球はナチュラルキラー細胞(NK細胞)、Tリンパ球(T細胞)、Bリンパ球(B細胞)などに大別される。
「獲得免疫」
実際の感染や予防接種によって後天的に獲得される感染抵抗力。
「自然免疫」
免疫系は狭義にはTリンパ球、Bリンパ球と抗体による特異的な免疫反応を指すが、特異性がなくても異物を処理できる生体防御の仕組みが存在する。非特異免疫ともいう。

【体力と感染リスクの関連】
適度な運動によって感染症のリスクは減少する。
・マラソンのような激しい運動や過酷なトレーニングは逆に易感染症を引き起こすという複数の疫学調査がある。
・運動と感染の関連性についてはJカーブモデルが提唱されている。

 

 

「運動と体液性免疫・粘液免疫」
・免疫グロブリン(Ig)の血中濃度や特異抗体産生能は、通常運動の影響受けないが、マラソンのような激しい持久性運動の後には血中IgG値が低下する。
・粘膜における免疫では、まず物理的粘液バリアが粘膜下への病原体の侵入を阻止するが、さらに粘液中には分泌型IgAが含まれ、微生物に結合して侵入を阻止したりオプソニン化(病原体が食細胞に取り込まれやすくすること)して食細胞による排除を促進する。

「運動と細胞性免疫」
・短時間・高強度の急性運動時にもっとも鋭敏に反応する白血球はNK細胞である。
・血中NK細胞数は最大運動の直後に5倍程度も上昇する一方、運動終了後には運動開始前の半数まで減少し劇的な変化がみられる。

「オープンウインドウ説」
激運動後には数時間にわたり免疫機能が一過性に低下し免疫抑制状態が生じるため、病原体に対して窓を開け放った状態になり易感染症になること。

「運動トレーニングと免疫能」
長期間の高強度トレーニングはマクロファージによる炎症反応を抑制するとされている。

【アスリートにおける休養・栄養面での対応策】
激しいトレーニングに伴う全身倦怠感、抑うつ、疼痛、食欲不振、睡眠障害などの体調不良で競技力が低下する病態を「オーバートレーニング症候群」という。
・アスリートの健康管理では、糖質、たんぱく質のみならずビタミン、微量元素などの栄養素が過不足なく摂取されるような栄養補給が必要である。

【健康増進のための適度な運動習慣の影響】
・健康増進のために奨励されている運動は、有酸素性運動の強度、すなわち最大酸素摂取量の50~60%ないし無酸素性作業閾値程度で、1日20~60分までを週3回以上の頻度で長期間継続することが奨励されている。
・適度な運動の長期影響としては、急性上気道炎(感冒)の発症頻度が減少することが報告されており、機序としてNK細胞活性やリンパ球増殖能、Th1優位のサイトカインバランス、マクロファージ機能、血中IgG、分泌型IgAなどが上昇する。
・適度な運動は、発がんやがん再発の予防効果も複数の疫学調査の成果を踏まえ、大腸がんでほぼ確実、肺がんと乳がんでは可能性があると報告されている。
・運動習慣は炎症マーカーのC反応性たんぱく質(CRP)、炎症性サイトカインのTNF-αやIL-6を低下させ、抗炎症性サイトカインのIL-10の上昇をもたらして、メタボリックシンドロームや動脈硬化性疾患のリスクを下げる可能性が示されている。

〖7.〖環境と運動〗

体温調節の基礎】

[体温]
・体温が過度(44〜45℃)に上昇すると酵素の不可逆変化が起こり生命が脅かされる。
・体温の低下でも同様で、20℃前後が生存の下限同様されている。
・運動時の体温を検討する場合には深部体温を反映する食道温および直腸温が利用される。

[熱の移動]
<熱産生>
・身体のエネルギー産生系の効率は約20%であるため、食物として摂取したエネルギーの約80%は熱となる。
・体温が1℃上昇すると代謝量は約10%亢進するため(Q10効果)、高体温時には必然的に代謝も増える。

<熱放散経路>
・運動による熱産生と身体外部からの熱負荷(太陽や地面からの放射、環境温、環境湿度、気圧、風)の両者が運動時に影響している。
・これらに対して人は放射、対流、伝導による熱放射および汗の蒸発による熱放射手段により体外に熱を放散している。

<体温調節機構-効果器の特性>
汗腺や皮膚血管は交感神経によって支配されている。
・汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があり、体温調節上はエクリン腺が重要。

【運動時の体温調節を変化させる要因】

[運動強度と運動様式]
運動強度に比例して増加する酸素摂取量と同様に、定常状態(運動遂行後40〜50分後)の体温も強度に比例して上昇する。
・脚運動において継続運動と同じ運動量になるように間欠的な運動を実施すると、定常時の食道温は間欠運動時に高くなる。
[環境条件]
運動時の直腸温は、5〜35℃の環境温の範囲であれば環境温に影響されずほぼ一定の値を示す。
[性差]
女性は男性と比較して、発汗より皮膚血流に依存した熱放射特性を有している。
・女性は男性より高い発汗効率を有しているが、汗が唯一の熱放射手段となる環境では女性は男性より体温調節上不利になり、運動パフォーマンスの大きな低下が予想される。
[発育と老化]
子どもは発汗が放射の唯一の手段となるときには体温の維持が難しくなる。
・高齢者の汗の塩分濃度が高いことが知られている。
[日内変動]
安静時の体温は24時間周期で変化し、早朝に最も低く、夕方にもっとも高くなるリズムを示す。
・運動時の発汗量や皮膚血流量も常温下の運動では体温の高い時間帯での発汗量が多い。
・いろいろな運動のパフォーマンスは体温が高い夕方によくなる。
・断眠は運動時の熱放散反応を抑制するので、睡眠不足の状態での運動は体温調節機能から考えて生体への負担を大きくする。
[衣服]
皮膚着用時には熱放散面積の原紙用により、運動時の体温がより上昇する。

【高温下での運動】

[体温上昇と運動遂行能力]
常温下あるいは高温下で最大酸素摂取量70%程度の運動を継続すると体温上昇に伴い皮膚血管が拡張し、末梢神経への静脈血の貯留を引き起こす。
・これによって心臓への静脈還流量が低下し、心拍数の増加がおこる。

【熱中症、暑熱環境評価と水分補給】

<熱中症>
体温上昇などによる暑熱障害の総称を熱中症と呼び、これには熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病があり、体温の異常な上昇、循環不全、水分・塩の欠乏などが原因で起こる。
<水分補給>
高温下の運動時には1時間に1L以上の発汗が起こり、高温声質では1.5~3.5L(体重の2~4%の減少)に及ぶ。
・水分補給量の目安は体重減少量が体重の2%以内におさまることが目安となる。
・汗により塩分も体外に失われるので、補給する水分には0.1~0.2%程度の塩分を含むことが大切。

【寒冷下での運動】
寒冷下で運動する場合、ふるえなどで筋緊張が常温下より増加するので、筋のエネルギー効率が低下する。
・寒冷下での最大下運動(有酸素運動)では筋血流の低下や運動単位の動員増加が起こり、これにより乳酸産生が多くなり、早く疲労にいたると考えられる。

【低酸素環境(高地)が身体諸機能と運動パフォーマンスに与える影響】

[高地における運動能力]
・高地環境は平地と異なるのは、気圧、酸素分圧、気温、重力などが低いことであり、気圧が低いと空気抵抗が小さく、高速で走る運動は有利になる。
・一方、酸素分圧の低下は多量の酸素を消費する持久性運動(長距離走などの有酸素運動)には不利になる。

【水中環境と運動】

<静水圧による影響>
水深が深くなるほど水圧が高くなり、1m当たり0.1気圧相当の水圧が負荷される。
・下肢への水圧が負荷されると、下肢からの血液還流が助けられ、心臓にもどってくる血液量(静脈還流量)が多くなる。
・水中運動時の心拍数は陸上運動時よりも少ない。
<水温による影響>
水の熱伝導率は空気の25倍以上高く、比熱も空気より1,000倍以上も高いため体温調節系に及ぼす水温の影響が大きい。
・一般に水中運動は体温よりも低い水温度下で運動を行うため、熱損失に対応した体温調節反応がはたらく。
・熱損失を抑制する生体反応としては、皮膚血管収縮、代謝の活性化(熱産生)、ふるえなどが挙げられるため、運動中のエネルギー消費を空気中より高める可能性がある。
<浮力>
水中では浮力がはたらくため、重力の影響を軽減させた運動が可能である。
・大気中の運動に比べて水中での運動は下肢関節への負担を軽減することができる。
・浮力を利用して水中で浮遊しているときは陸上で仰向けに寝ているときよりもリラックス時に優位にはたらく副交感神経が活性化される。
<比重(抵抗)>
水の密度は空気の約800倍であり粘性は約60倍であるので、水中動作あるいは移動の際には大きな抵抗を受ける。
・一般に水の抵抗は速度の2乗に比例して大きくなる。この特性は個人の体力・コンディショニングを合わせて行う運動処方やリハビリテーションに有効である。

第5章 機能解剖とバイオメカニクス

〖1.バイオメカニクス:力学の基礎〗

「バイオメカニクス」とは、人間の物理的条件を考慮しながら、身体活動を力学的立場から研究する分野。

【運動と力】
・身体に加わる外力は重力・抵抗・地面反力の三つである。
・地球上では、常に鉛直方法に重力がはたらいている。重力の大きさは物体の質量に比例する。

「力の三要素」とは、「大きさ」、「作用点」、「方向」。
・ある二つの力の総合的な効果を考えるとき、それぞれの力を辺に見立てた平行四辺形を描くと、その対角線が「合力」となる。

[摩擦力]
接触している二つの物体が滑ろうとするときに現れる抵抗が摩擦であり、動きを妨げる力を摩擦力という。
・物体に加える力を徐々に大きくしていくと、ある力の大きさで物体は急に動き出す、この物体が動き出す直前の摩擦力を「最大静止摩擦力」という。
・物体が動き出すと物体の速度と関係なく摩擦抵抗の大きさは一定であることが多いが、この摩擦力を「動摩擦抵抗」と呼ぶ。

[空気と水の抵抗]
・流体の抵抗力は流体の速度と物体の形状に大きく影響される。
・適度な迎え角をもつと円盤は大きな上向きの力、つまり「揚力」を得るが、迎え角が大きく抵抗が大きくなりすぎると揚力は逆に減少する。
「マグヌス力」
ボールに回転を加えることで生まれる力であり「マグヌス効果」という。
・ボールは回転方向によって変化するのでカーブやシュートなどの変化球を投げられる。

【運動と力学の基本】

[ニュートン力学]
走る、とぶ、投げるなどの身体活動を力学的にするための基本として、ニュートンの法則を利用する。
第1法則「慣性の法則」
物体は外からいかなる作用(力)を受けないときは、静止しているか、等速運動を続ける。
第2法則「運動(加速度)の法則」
物体に力Fを加えた場合、その加速度aは質量mに反比例する。式はF=maと表される。
第3法則「作用・反作用の法則」
二つの物体が互いに力を及ぼし合うときに一方に作用する力は他方に作用する力と等しく向きが反対である。

[直線運動と曲線運動・回転運動]
物体がその向きを変えずに、移動方向を変える場合を「曲線(並進)運動」という。
・物体自体がその向きを変える場合を「回転運動」という。

[運動量と力積]
・運動している物体の質量mとその速度vの積mvを「運動量」といい、動いている物体の勢いを表す。
「運動量の法則」
外力を受けないかぎり、運動量の総和は一定量に保たれる。
・例えば、ボクシングで右手を鋭く突出すると同時に左手を鋭く後方に引く、もし左手の引き動作がないと左手の代りに状態が反るようになる。
「力積の法則」
力が運動に与える影響は、力Fと、その力が作用していた時間tの積Ftである力積が関係している。
・ここで物体の運動量の変化は、物体に与えられた力積に等しい。

[回転と慣性モーメント]
「慣性」

物体を直線的に動かす場合には、質量の大きいものほど加速させることがむずかしく、また、いったん動き出すと急に止めにくい、このような加速させやすさや加速させにくさの尺度を慣性しいう。
「慣性モーメント」
重心から離れて質量が分布し、重心と回転軸との距離が大きいほど回転をさせにくく、回転を止めにくい、このように回転の状態を変えにくさを慣性モーメントという。

〖2.バイオメカニクス:エネルギー論〗

[力学的エネルギーと仕事]
・仕事(力学的仕事)は、”加えた津からの移動方向と成分”と”力の作用点の移動距離”との積で表す。一方、「仕事をする能力」をエネルギーという。
・力学にかかわる2種類「運動エネルギー」「ポテンシャルエネルギー」を合わせたものを力学的エネルギーという。
・「運動エネルギー」には、「並進の運動エネルギー」と「回転の運動エネルギー」がある。
・「ポテンシャルエネルギー」には、主に重力によるもの(位置エネルギー)とバネの復元力によるもの(弾性エネルギー)がある。

【身体運動の力学モデル】
身体運動の解析では動きの詳細をとらえる剛体リンクモデル(リンクセグメントモデル)と動きの概要をとらえる身体重心モデルの2種類の力学モデルが使われる。併用されることも多い。

〖3.機能解剖学概論(1)〗

[ヒトの骨格の特徴]
①比較的軽量で強靭な骨構造が、筋とつくる「てこ」の装置による運動機能。
②全身の支柱になり基本的形態と姿勢を整え軟部組織の支持をなす支持機能。
③臓器などの保護機能。
④骨髄による造血機能。
⑤カルシウムなどの貯蔵機能。

[関節の特徴]
・関節には椎間板のようにある程度の運動が可能な「軟骨性連結」とスポーツでダイナミックな活動で用いられる可動域の大きな、ひじやひざなどの滑膜性連結がある。
・関節全体は関節包で取り囲まれ、その内部は滑液で満たされている。

「一軸性関節」:肘関節などは、有する軸が一つで、蝶番(ちょうつがい)関節としての運動が起こる。
「二軸性関節」:手関節など、直角に交わる二本の運動軸を回転中心とした多方面の運動が可能である。
「多軸性関節」:肩関節や股関節などの球関節は、関節窩(かんせつか)の広がりが関節頭(かんせつとう)より小さく

[アラインメントと損傷]
骨地関節の配列のことをアラインメントという。
・骨や関節は彎曲(わんきょく)やねじれが存在するが、この度合いが強いとスポーツ損傷発生との関連も大きくなる。
・O脚と合併してみられるものに脛骨内反があるが、これが強いと骨へのストレスが強まり、疲労骨折を起こしやすいといわれている。
・下肢のねじれを評価する方法として、Q-angle(男性では10度、女性15度前後)がある。
・膝蓋骨(しつがいこつ)が内側に向いている「やぶにらみひざ」はQ-angleでねじれを評価する。

[骨格と筋のてこ作用]
・関節は筋による、てこ作用によって、セグメントの末端(手や足)での力や速度を増幅させる機能を持つ。
・関節の回転中心(軸)を「支点」、筋が骨に対して力を発揮する点を「力点」、身体外部に力が作用する点を「作用点」と呼ぶ。
・回転運動を引き起こす作用を回転力(トルク)と呼ぶ。

・てこにおけるトルクは、支点から力点までの距離(モーメントアーム)と力点における力との積で算出できる。
・支点の左側に10kgw、右側に5kgwの質量のおもりを載せた場合、つまりそれぞれ100N、50Nの力をかけた場合、支点から両側の回転力は等しい(100N×1m=50N×2m)のでシーソーは回転せずに平衡状態を保つ。

〖4.機能解剖学概論(2)〗

[身体運動と骨格筋]
・骨格筋は、横紋筋であり、自分の意志で動かすことができる随意筋である。
・骨格筋の機能は、収縮による運動の発生、姿勢保持、関節の安定、熱の発生など、また収縮と弛緩のポンプ作用により血液循環にも貢献する。
・筋の表面は丈夫な筋膜で包まれ、両端は腱で骨に付着する。

[運動時の筋活動の実際]
「主働筋」

ある関節運動に対して主動的にははたらく筋をいう。
「協働筋」
肘屈曲における主導筋を上腕二頭筋とすると、腕橈骨筋(わんとうこつきん)のように主働筋を助ける筋をという。
「拮抗筋」
一つの関節おいて、主動筋に対して逆の機能をもつ筋、つまりブレーキをかける筋のこと。
「共収縮」
・走行の接地期など関節を固定する必要がある際には、主動筋や協働筋とともに拮抗筋も活動すること。
・等尺性収縮によって関節を固定し、安定させる筋を「固定筋」や「安定筋」という。

[単関節筋]
・一つの関節しかまたがない筋を単関節筋という。
・単関節筋は関節トルク増大に貢献する。
・単関節筋の例として、ヒラメ筋の足関節底屈。

「多関節筋」
・二つ以上の関節をまたぐ筋のことを多関節筋しいう。
・多関節筋は主に動きのコントロールに貢献する。
・多関節筋の例として、上腕二頭筋は肘関節と肩関節をまたいで、肘関節屈曲と肩関節屈曲の両作用をもつ。
・また大腿四頭筋のうちの大腿直筋は股関節と膝関節をまたいで、膝関節に対しては伸展作用、股関節に関しては屈曲作用をもつ。

[紡錘状筋と板状筋]
・「紡錘状筋」は、長い筋線維と短い腱で構成されている。
・「板状筋」は板状の腱(腱膜)を持つ。
「羽状筋の特徴」
・運動にかかわる体肢の筋の多くが羽状筋であり、腱が膜性となった腱膜に筋線維が斜めに配列、この構造によって単位体積当たりの筋線維数を増やし大きな筋力を発揮できる。
・羽状筋は斜めに配列した筋線維の回転によって筋全体としての短縮速度を高めることができる。
・羽状筋は収縮による筋の厚さ変化が少ないため、頸部などの限られたスペース内において滑らかに収縮できる。

[筋出力の規定因子]
・自分の意志で発揮できる最大の筋力を、「随意最大筋」という。

「静的な最大筋力を決める因子」
・生理学的筋横断面積(PCSA)の大きさ
・大脳の興奮水準
「動的な最大筋力を決める因子」
・関節における筋の配置(てこ比)
・筋内における筋線維の配置(羽状筋の形状)
・筋線維断面積の総和(PCSA)
・大脳の興奮水準、かけ声などで筋力が増大する

・最大筋力は基本的に筋の横断面積に、筋収縮速度は筋の長さに比例する指標としてとらえることができる。
・PCSAは羽状筋、直列筋節数は紡錘筋で大きな値を示す。
・運動パフォーマンスに直結する筋パワーは、力とスピードの積であるため、筋パワーは筋の太さ(力)と筋長(スピード)に関係する。

[運動中の筋腱相互作用]
・腱はバネ様にふるまう粘弾性体である。
・歩行や縄跳びのような連続ジャンプ中の、例えば下腿三頭筋は、筋が伸び縮みせずに等尺運動に近い活動を行い、アキレス腱だけが大きく伸縮して効率的・効果的な運動に寄与している。
・アキレス腱では、組織伸長時に蓄えた弾性エネルギーを関節運動に再利用できるため、筋が発揮するエネルギーを抑えることができる。
・筋では直列に連なる腱が大きく収縮するため、力-速度関係から、大きな力を発揮しやすい利点がある。
・等尺性収縮に近い活動では、一定の力を発揮するためのエネルギー消費も少なくて済む。
・筋が力発揮、腱が長さ変化を担い、その積として仕事やパワーの発揮を効率的・効率的に行っている。

〖5.陸上での運動・動作各論〗

【歩行運動】
[動作局面と筋活動]
通常の歩行では、地面に足を着いている立脚相60%と、着いていない遊脚相40%が各脚にあ。
・立脚相の始めと終わりに両足とも着いている両脚支持相が10%ずつある。

[地面反力と歩行速度]
・かかとの着地から他方のかかとの着地までを1歩(ステップ)といい、その距離である歩幅は平均70㎝である。
・両かかと間の幅である歩幅は平均8㎝、足先の向きである歩向角は平均6.8度と報告されている。
・初めのかかとが再び着地するまでを1歩行周期(スライド)、1分間当たりのステップ数を歩調(ケイデンス)という。

[加齢変化]
・加齢とともに歩幅が狭くなり、歩行速度も低下する。
・若年者と高齢者で歩行運動の振り子効率を比べると、自然歩行では差がないが、遅く歩いたり、早く歩いたりすると高齢者は効率が低くなる。
・これは、高齢者は速度を変えるとエネルギーをうまく変換できず筋活動による仕事に多く頼り、疲れやすいことを示唆している。

【走行運動】
[動作局面と筋活動]
・地面に足を着いている「支持期」と着いていない「空中期」がある。
「支持期」は接地から足先の上を身体重心が通過するまでの「支持期前半」と、それから離地までの「支持期後半」に分けられる。
・短距離走中の脚の筋活動をみると、支持期後半から空中期中間まで大腿を持ち上げるために腸腰筋と大腿直筋が活動する。
・空中期前半に膝関節を曲げるが大腿直筋の活動によってその曲げは抑えられ、後半に伸ばすが大腿二頭筋の活動によってその伸びは抑えられる。
・空中期全般にわたって、足部の位置を保つために前脛骨筋が活動する。
・空中期後半から支持期では、姿勢を保って身体を前方に推進するために股関節(大殿筋と大腿二頭筋)、膝関節(外側広筋)、足関節(腓腹筋とヒラメ筋)を延ばす筋が活動する。
・歩行での筋活動との違いは、より大きな着地衝撃に抗してより多くの仕事をするために、早期から準備の活動がみられ、より顕著に伸張-短縮サイクルが使われる。
[地面反力と走行速度]
・速度を高めると支持期は短くなり、地面反力は減速相、加速相ともに大きくなる。高速時には鉛直方向の地面反力は体重の4倍以上にもなる。
・歩行では1歩での移動距離をスライド、1秒間の歩数をピッチといい、走行速度(m/秒)はスライドとピッチの積になる。
・走行速度を高めると、約8m/秒までは主にスライドが長くなり、それ以降スライドは少し短くなるがピッチが急増する。
[力学的仕事とエネルギー消費量]
・走行運動では、位置エネルギーと運動エネルギーは同時に大きくなる。
・走行速度を速めると、身体重心を動かす外的仕事は直線的に増える。
・消費したエネルギーに対する仕事の効率は、歩行では25%~30%に対し、速度を高めた走行では45%以上になることが報告されているが、これは下肢各関節の筋腱複合体がバネのようにはたらき、そこに蓄積された弾性エネルギーがうまく利用されたためと考えられる。走行運動は「弾むボール」にたとえられる。
・走行運動に経済速度はなく、速度によらず距離1km当たり体重1㎏当たり、ほぼ1㎉を消費する。したがって、体重60㎏の人が5kmを30分間で走れば(166.7m/分)、300㎉(=5×60)を消費する。
[加齢変化]
・競技レベルの高い中高齢者の短距離走では、加齢に伴ってピッチはそれほど低下しない(支持期時間が長くなって、空中期時間がみじかくなる)が、股関節の屈曲域(大腿が上がらない、伸展域はそれほど変わらない)や膝関節の可動域が狭くなってストライドが短くなり走行速度が低下する。
・中高年に比べて高齢者の動きは、体幹の前傾が大きく、股関節の伸展が小さいと報告されている。

【跳躍運動】
[筋腱複合体の活動と地面反力]
・序盤では筋腱複合体の長さは変わらず地面反力が大きくなる。この間、筋は活動して腱に力を及ぼしながら、短くなり、腱は足部に力を及ぼしながらも伸ばされて弾性エネルギーが蓄えられる。
・終盤になると、筋-腱複合体は短くなり、地面反力も小さくなっていく。この間に筋は長さを変えないが、腱が蓄えた弾性エネルギーを発揮しながら短くなって、足部は地面反力を得て離地する。
[反動動作]
垂直とびは沈み込み動作によって反動をつける。
①伸張反射によって主動作で使う筋の活動が増強される。
②主動作で使う筋が伸張性活動を行うことで大きな力を発揮できる。
③主動作に切り替えたときに筋の活動開始が遅れない。
④腱に蓄えられた弾性エネルギーを利用できる。

腕振り動作は、振り上げる反作用の下向きの力を下肢各関節にかけるため、各関節はこれに抗するより大きな力を発揮できる。腱に蓄えられる弾性エネルギーを大きくすることができるため高くとべる報告されている。

【投球運動】
速いボールを投げるためには、大きな力学的エネルギーをボールに注入すればよい。
①踏み出す足を高く上げて位置エネルギーを大きくし、踏み出すことでそれを身体の並進の運動エネルギーに変える。
②着地でさらに回転の運動エネルギーに変える。
③上胴を回転させる局面において軸足の股関節まわりの筋による正の仕事、その後胴体部の勢いを受け止める局面において踏み出し足の股関節まわりの筋は負の仕事を担う。

上肢の筋は小さいので生み出せるエネルギーは小さいが、下肢で生み出したエネルギーとともに最終的にボールにエネルギーを注入する。

〖6.水泳・水中運動〗

【水の物理的性質】
[熱伝導率、比率]
・水は空気に比べ熱伝導率が20倍以上大きく熱を伝えやすい。
・水は空気と比べて比熱が大きいため、からだをとりまく水の温度は上昇しにくく、体温との温度差が縮まらないため、より多くの熱がからだの外へ流出する。
・水は蒸発する時に気化熱を奪う。皮膚が濡れた状態でいると、皮膚表面が乾く過程で気化熱を奪われるため、皮膚表面の熱が奪われて寒く感じる。

[水圧と浮力]
・水面上の空気の圧力は1気圧で、水面付近では水圧も1気圧であるが、水深が10mになると10mの水深の圧力が加わるので2倍の2気圧になる。
・下から上向きに加わる圧力の方が上から下向きに加わる圧力より大きいので、上向きの力(浮力)が残る。浮力が働く点(浮力の作用点)を浮心と呼ぶ。

 

[水中運動での生理反応]
・水中運動では、水圧の存在により、陸上とは異なり、水圧に逆らって呼吸しなければならない。
・体幹が水中にある場合、胸郭を広げて呼吸するためには陸上よりも余分な呼吸筋の仕事必要になる。
・水中運動では、運動が激しくなっても、運動強度に伴って呼吸数を増やすことができない。
・泳ぐ動作では身体が水平に保たれるので、下肢と心臓の高さがほぼ同じとなり、立位姿勢に比べ下肢からの静脈還流が多くなる。
・立位に近い姿勢で行われる水中歩行では水深の深い部分にある下肢は押しつぶされるような圧力を受けるため静脈還流が増加する。
・静脈還流が多くなるとポンプとしての心臓1回当たりの拍出量(1回拍出量)も増加する。このため、おなじ強度の運動では陸上に比べ少ない心拍数となる。

【水の抵抗と揚力】
流体中で身体を動かすと流体から力を受け、その力を流体力しいう。
・流体力の大きさは流体の密度に比例する。
・水の密度は空気と比べ800倍以上大きい。

[水の抵抗] ・流体中を進む物体にはその移動速度の2乗に比例する動きを妨げる方向(移動の逆向きの方向)にはたらく。
・この流体力を抵抗(抗力)という。

[揚力]
・水中を移動する身体に加わる流体力は移動方向と逆向きとはならず、移動方向からずれる。
・この流体力を移動方向と移動に垂直な成分を揚力という。

[推進力]
・水面や水中を移動するには、水の抵抗に打ち勝つだけの移動方向に平行な(前向き)力が必要で、これを推進力と呼ぶ。
・クロール泳や背泳ぎのプル動作では抵抗による推進力(抵抗成分)が主であり、平泳ぎのプルでは揚力成分が大きいといわれている。

【水中運動】

[水泳]
競泳で採用されている4種目(クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ)とも上肢のプル動作と下肢のキックによって推進力を得ている。
・クロール泳は上肢のプルによる推進力が主で、キックによる推進力は小さい。
・平泳ぎは、他の3種目と異なり、キックがより多くの推進力を生みだしている。
・背泳ぎやバタフライはキックの推進力に対する貢献度はクロールより大きい。

[水中歩行]
力学的にみた水中歩行の要点と陸上の歩行と比較して上げると。
①浮力の影響で重力(体重)による下肢や腰の関節や筋に対する負荷が軽減される。
②下向きにはたらく重力ではなく、水平にはたらく水の抵抗が負荷となっている。
「水中歩行の注意点」
①水深が深くなれば浮力の効果が大きく、水の抵抗も大きくなるが、深すぎると浮力が大きすぎるため、足で水底を蹴ると身体が浮き上がりうまく歩けない。
②水深が浅いほど陸上の歩行に近づくが、速く歩こうとすれば末端部の足に加わる水の抵抗が大きくなり、運動負荷も大きくなる。

以上のように、水中歩行では運動する人の身体の状況に応じて、推進や歩幅、ピッチを適切に選ぶことが重要である。

第6章 健康づくり運動の理論

〖運動条件と反応・運動強度〗

【身体トレーニングについて】
トレーニングや運動処方の五つの原則と三つの原理、その例外を学ぶ。

【トレーニングの原則】

[全面性の原則]
・特定の身体活動やトレーニングを行うと、特定の器官だけが発達と、偏った身体づくりになってしまう。
・そこで、健康と関係の深い器官・臓器をまんべんなく向上させ、バランスがとれた身体をつくるようなトレーニングが行う。
[個別性の原則]
対象者の性、年齢、体力、生活環境、性格、運動の嗜好など、個人の特質を考慮し、とくに個人の健康状態と体力レベルおよび特性に応じてトレーニングを行う。
[意識性の原則]
対象者は、身体活動や運動と生活習慣病の予防や体力向上に関する知識を高め、トレーニングの目的を明確にし、自覚をもってトレーニングを行う。
[漸進性の原則]
運動を安全に行い、確実なトレーニング効果を得るため、トレーニングにおける運動負荷を徐々に高めていく。
[反復性の原則]
健康増進や競技力向上の効果を得るためには、身体活動、運動を規則的に一定期間繰り返し行う必要がある。

【トレーニング効果の原理】

[過負荷の原理]
トレーディングを行い機能が向上したら、さらに高い強度のトレーニングを行い、さらに高い強度のトレーニングを行い、さらなる機能の向上をめざすこと。
[特異性の原理]
トレーニングで刺激した機能(体力)にのみトレーニング効果が現れること。
[可逆性の原理]
トレーニングで獲得された体力や運動能力は、トレーニング負荷を低下させたり、トレーニングをやめてしまえば、徐々に失われていく。

【身体トレーニングの記述】

[強度]
運動強度には、絶対的運動強度と相対的運動強度の二つがある。
<絶対的運動強度>
絶対的運動強度の指標として、メッツ(METs)がある。
・メッツとは当該身体活動におけるエネルギー消費量を座位安静時代謝量で除したものである。
・これに運動時間(単位:時間)をかけ、身体活動量・運動量の指標として使われるものがメッツ・時である。

<相対的運動強度>
「%VO2max」
相対的運動強度のゴールドスタンダードは%VO2maxである。
・とくにトレーニングによる持久力向上や生活習慣病予防の場合には、最大酸素摂取量(VO2max)に対する相対値である%VO2maxの指標が運動指導に用いられる。
「主観的運動強度」
運動者が運動中に感じる運動の強度を数字で示すものである。
・運動処方、特に多人数を対象とした場合に用いられる。
下表は主観的運動強度(RPE)、ボルグスケール。

[時間]
トレーニング時間は、運動強度によって異なる。
・例えば、最大酸素摂取量を増加させるために必要な運動時間は、中等度運動の場合は20分以上、低強度では30分以上行うことが望ましい。
[頻度]
一般に体力向上、とくに最大酸素摂取量の向上という観点からは少なくとも週3回は、トレーニングを行わなければならない。
[期間]
・例えば高強度の間欠的トレーニングを行うと1週間(トレーニング回数4回)で最大酸素摂取量が有意に増加する。
・一般の有酸素トレーニングでは、10~12週、トレーニングを行うことが必要である。

【脱トレーニング(ディ・トレーニング)】
トレーニングを中止するとトレーニングによって獲得した生理学的反応が元にもどる。
・有酸素性トレーニングを行った後の最大酸素摂取量の低下は短期間であればみられない。
・筋活動の酸素系の酵素活性は急激に低下する。

〖2.筋力と筋量を増強するための運動条件とその効果〗

【筋力・筋量増強とレジスタンストレーニング】
・骨格筋は一般に大きな力学的負荷に対する適応として肥大し、除負荷や不活動によって萎縮(廃用性萎縮)する。
・レジスタンストレーニングとは、さまざまな様式の負荷抵抗を用いて筋機能の向上を図るトレーニングの総称。

【トレーニング効果に影響を及ぼす要因】
[筋肥大効果の要因]
・トレーニングによって肥大するのは主に速筋線維である。
・最大筋力の90%の筋力発揮を必要とする負荷を用いれば運動の初期から速筋線維が動員される。
・筋肥大を主目的とする場合、高強度の運動のトレーニングでは不十分、負荷強度をやや減じ反復回数を増加したトレーニング(例えば、70~80%1RMで8~15回程度反復)が適切であることが分かっている。
・一方、最近の研究から、30%1RM(最大挙上負荷の30%)程度の低負荷強度でも、徹底的に容量を増やし、筋を強く疲労させることで、筋線維のたんぱく質合成の上昇と、十分な筋肥大が起こることが分かってきている。

【トレーニングの分類】
[静的トレーニングと動的トレーニング]
「静的トレーニング」

身体の動きを伴わない。筋収縮様式に基づき等尺性(アイソメトリック)トレーニングという。
「動的トレーニング」
身体の動きを伴う。筋収縮様式や動作様式などに応じて多様なトレーニングが含まれる。

[筋活動様式(収縮様式)に基づく分類]
「等尺性トレーニング」

筋の長さが一定の条件の下で張力発揮を行うもの。
「等張性トレーニング」
筋の長さを変えながら一定負荷の下で筋活動を行うもの。
「等速性トレーニング」
筋の短縮・伸張速度を一定に保った条件下で筋活動を行うもの。
「増張力性トレーニング」
バネやラバーバンドのような弾性体を引っ張ることで筋の短縮とともに張力も増大するもの。
「プライオメトリックトレーニング」
張力発揮中の筋を伸長し、すばやく切り返して短縮させることで短縮中のパワー発揮を増強させるもの。

[トレーニングのプログラム変数]

<種目の選択>
構造的エクササイズと要素的エクササイズ、部分エクササイズに分類される。
「構造的エクササイズ」
大筋群を主働筋とし多数の協働筋を用いる複合関節動作で大きな筋出力を伴うもの。スクワット、デットリフトなど。
「要素的エクササイズ」
特定の筋群のみを用いる単関節動作。レッグエクステンション、フライなど。

<種目の配列>
一般に、トレーニング効果は疲労が少ない状態で行った方が高い。
・重要度の高い種目ほどトレーニングの最初のほうに行う必要があり、これを「プライオリティの原則」という。
「一般的な種目の配列の優先順位は以下の通り」
・近位大筋群の種目→遠位小筋群の種目
・構造的エクササイズ→要素的エクササイズ
<強度>
トレーニング強度は、発揮筋力、負荷重量など、トレーニング様式に応じて異なった決め方をする。
・筋力増強や筋肥大を目的にする場合は、速筋線維を支配する運動単位を十分に動員する必要がある。
<量>
動的トレーニングではトレーニングによるエネルギー消費量をもとに評価し、セット当たりの負荷強度×反復回数をすべてのセットについて総和したものになる。これを「トレーニング容量」と呼ぶ。
<セット間の休憩時間>
・神経系の改善による筋力増大の場合、それぞれのセットで最大の筋出力を発揮することが重要であるため、通常3~5分の長い休憩時間をとる。
・筋肥大を目的にする場合は、セット間の休憩時間を短縮する必要があり、1分程度まで短縮できれば理想的である。
<頻度>
・十分な強度を伴うトレーニングを行うと、その直後に筋力は50~80%程度まで低下し(疲労)、次第に回復する。
・動的トレーニングの場合、トレーニングの48~72時間後には筋力が元のレベルを超える相が一時的に出現することがありこれを「超回復」と呼ぶ。
・この超回復相の出現中に次のトレーニングを行えば効果が加算さることになるので、トレーニング頻度は週2から3回がよいとされている。
・筋のたんぱく質合成を調べた実験では、トレーニング刺激後約48時間にわたって、たんぱく質合成が上昇することが報告されている。

【動的トレーニングの基本処方と効果】
[等張性(アイソトニック)トレーニング]

<強度>
・負荷強度は多くの場合、最大挙上負荷(1RM)に対する割合(%1RM)で決める。
・通常、1セット当たり、正確な動作で反復が不可能になるまでの反復回数を行い、この値を最大反復回数(RM)という。
・90%1RMを超える強度では筋肥大よりも神経系の改善に及ぼす効果の方が大きい。
・こうした高強度の処方は筋のサイズをあまり増やすことなく筋力を増大する目的で用いられる。
・しかし、神経系の機能が十分に改善されると筋力も上限に達するとため、さらに筋力を増大させようとすると、筋を肥大させることが必要になる。
・筋を効果的に肥大させるためには、やや負荷強度を下げ(70~851RM)、同時にトレーニング量を増やす必要がある。
・負荷強度を65%1RM以下に下げると、筋持久力の恒向上が主効果となる。

<量>
・筋力増大や筋肥大を目的とする場合、1筋群当たり3~6セット(各セット当たり最大反復回数が原則)を行う。
・一般に大筋群ほど多数のセットが必要。
<セット間の休憩時間>
80%1RMの強度の構造的エクササイズを、休憩時間1分で行った場合の方が、トレーニング後の成長ホルモン、IGF-1(インスリン様成長因子1)、テストステロンなどの分泌がより強く活性化されることを示した。
<頻度>
・週2回の頻度が最適であり、週3回にしても効果は変わらないが、やや落ちるようである。

[低負荷強度の等張性トレーニング]
<筋発揮張力維持スロー法>
・動作中に筋の発揮する張力を維持しながら、ゆっくりと負荷を上げ下げする。
・低負荷強度であっても十分な筋肥大が起こることが認められており、筋発揮張力維持スロー法またはスロートレーニングと呼ばれる。
・負荷強度は30~50%1RMでよく、作動筋がこの程度の張力を持続的に発揮することにより、急速な筋疲労にいたる。
・動作中、一定の張力発揮を維持することがポイントで、標準的には3~4秒かけて負荷を上げ、同様の時間をかけて負荷を下ろすとよい。
・スロートレーニングの急性効果として、運動後の成長ホルモンの分泌や筋線維内のたんぱく質合成の活性化が起こることが示されている。
・長期効果として、高齢者いずれにおいても、高負荷強度のトレーニングと同程度の筋肥大をもたらす。
・運動中のメカニカルストレスが小さく、血圧上昇を引き起こしにくく、高齢者や低体力者を対象とした筋肉づくりに有用と考えられる。

[等速性(アイソキネティック)トレーニング]
動作域を通じて最大筋活動レベル(100%MVC(最大随意収縮))を維持する。
・量、頻度については等張性トレーニングに準ずる。
・速度特異性が高い。

[等尺性(アイソメトリック)トレーニング]
・特別の機器を用いずにトレーニングを行うことが可能。
・運動強度はあくまでも随意筋活動レベルであり、負荷の加減速に伴う急峻な力発揮や、偶発的な外力が作用しないため、外傷や障害の危険性が極めて低い。
・しかし一定の筋力発揮を維持するため、筋内圧による末梢抵抗の上昇と圧反射により血圧が上昇しやすいという欠点がある。
・角度特異性があり、トレーニングで用いた関節角度での等尺性最大筋力が増大しても、ほかの関節角度での筋力には大きな増加がみられない。
・一般的な筋の等尺収縮では、約40%MVC(最大随意収縮)から速筋線維の動員が始まる。
・等尺性トレーニングでは、外見上の力学的仕事はゼロであるので、トレーニング容量は力積(筋力×筋力発揮時間)として評価する。
・等尺性トレーニングは、代謝的刺激が弱く、伸張性収縮を伴わないため、筋自体に持続性疲労を生じにくいので動的トレーニングに比べて高頻度に行うことが望ましい。

〚3.筋パワーと持久力を高める運動条件とその効果〛

【筋パワーのトレーニング】
<筋パワーにおける個人差>
・一般に筋力の強い人ほど筋パワーは優れている。
・筋力は筋の生理学的断面積と比例関係にあることから、筋パワーにおける個人差は、筋量の差である。
・速筋線維の占める割合が高いほど全ての速度において高いパワーを発揮することができる。

【筋パワーのトレーニングと実際】
・筋パワーを向上させるトレーニングとして、バーベルやダンベルなど重量負荷を利用して動作速度を増加させるウエイトトレーニングか、または動作速度を規定し関節の可動域内において発揮可能な力を増加させる等速性(アイソキネティック)トレーニングがある。
・最大筋力の30%負荷でのトレーニングが最大パワーの増加効果が高い。
・同一のトレーニングの成果を力-速度-パワーの関係でみた場合。30%負荷によるトレーニングでは幅広い力の発揮条件にわたって速度およびパワーが改善される。
・低速度のトレーニングは低速度でのパワー発揮に、高速度でのトレーニングは高速度でのパワー発揮に、それぞれ効果が表れる。

【筋持久力のトレーニング】
<筋持久力とは>
筋持久力は、筋がいかに長く収縮し続けることができるかを意味する能力であり、心臓や肺などのはたらきが重要である全身持久力とは区別される。
・持久力は、力の発揮が静的(等尺性)の場合に静的筋持久力、動的であれば動的筋持久力として区別される。
「静的筋持久力」
一定の荷重を保持あるいは一定の筋力レベルを発揮し続ける時間が、その能力を表す指標となる。
「動的筋持久力」
・一定の荷重の一定のピッチでの挙上、降下を反復させ、その最大反復回数が筋持久力の指標として採用される。
・最大筋力の割合にして20~30%程度が至適なトレーニング強度であり、設定された強度に対して可能な限り筋活動を継続することでトレーニング効果が得られる。

〚4.全身持久力を高めるための有酸素性運動〛

【有酸素性エネルギー供給機構と無酸素性エネルギー供給機構】
・骨格筋の筋収縮のエネルギーは、筋内にあるATP(アデノシン三リン酸)がADP(アデノシン二リン酸)と無機リン酸に分解する化学反応である。

①「ATP=ADP+無機リン酸」
・ATPは筋1kg中に4mmol程度しかなく、低い強度の身体活動でも短期間でなくなってしまうが、再合成されて、つねにほぼ一定に保たれている。

②「ADP+無機リン酸=ATP」
この反応を可能にするためのエネルギーを供給するのが有酸素性エネルギー供給機構と無酸素性エネルギー供給機構である。

「有酸素性エネルギー供給機構」
酸素を用いて糖質や脂質を酸化し、二酸化炭素と水に代謝する際に得られるエネルギーからATPを産生する。

「無酸素性エネルギー供給機構」
・酸素を使用せずにATPを再合成する。
①乳酸性エネルギー供給系(解糖系)と
②非乳酸系エネルギー供給系(ATP-CP系)の2つの系が存在する。
・「無酸素性エネルギー供給機構」は有酸素性エネルギー供給機構よりも反応速度が速いため、時間当たりのエネルギー消費量の多い強度の高い運動では無酸素性エネルギー供給機構の反応によるエネルギー供給が主になる。

・有酸素性のエネルギー供給反応が追い付かなくなるような強度の高い運動を無酸素性運動(アネロビクス)といい、短い時間に大きな力を発揮する短距離走やレジスタンス運動などが無酸素性運動に分類される。

・強度の高い無酸素性運動では、有酸素性エネルギー供給が追いつかなくなるために多量の乳酸が発生し、乳酸の蓄積は疲労の要因の一つとなるため、無酸素性運動は長い時間続けることができない。

・運動強度が高くなると酸素摂取量がそれ以上増加しなくなるレベリングオフが確認されるが、このとき、最も大きな酸素摂取量を最大酸素摂取量と呼ぶ。有酸素性エネルギー供給機構によるATPの再合成速度が限界に達していることを示している。

【最大酸素摂取量を増加させるためのトレーニング】
・最大酸素摂取量はトレーニングにより高めることができる。
・トレーニング処方する場合、もっともむずかしいのが運動強度の設定である。
・運動強度には、「絶対的運動強度」と「相対的運動強度」がある。

「絶対的運動強度」
・自転車エルゴメーターのワットや、走運動の走速度などの物理的強度である。
・個人の体力を考慮しない運動量の指定法で、設定が簡単であるが、個人にとっての負担度が異なってしまう問題がある。

「相対的運動強度の指標」
・ゴールドスタンダードは%VO2maxである。
「%VO2max=当該運動の酸素摂取量(L/分)/最大酸素摂取量(L/分)×100」
・%HRmaxは下記の式で求められる。
「%HRmax=当該運動の心拍数(拍/分)/最高心拍数(拍/分)×100」
・%VO2maxとは別に、reserve(予備量)という考え方も最近用いられている。

【最大酸素摂取量の健康・スポーツにおける意義】
・最大酸素摂取量は持久性の競技に大きな影響を与える。
・全身持久力が高いと多くの生活習慣病の発症リスクが低いことが知られている。
・最大酸素摂取量は加齢により低下する。

<有酸素性トレーニングによる最大酸素摂取量の増加>
・トレーニングによる最大酸素摂取量の増加は、最大心拍出量で示される心臓のポンプ能の向上による。
・持久性トレーニングは、心臓の大きさあるいは心臓の機能を高める。
「持久性アスリートの心臓」
左心室の拡張期容積が増加し、さらに左室壁厚が増加することによって、最大酸素摂取量が増加する。
「筋力系アスリートの心臓」
左室壁厚は増加するが、拡張期容積はあまり変化しないので、最大酸素摂取量も増加しない。

・ボートなどの有酸素性運動や低頻度高強度の筋活動を併用するトレーニングでは、左室壁厚の増加し、最大酸素摂取量も増加する。

〚5.障がい者の運動能力の特徴と運動〛


【障がい者とは】
・障害者基本法では、「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的な日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」と定義されている。
・身体障害者福祉法第4条には、身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者をいう。

「身体しょう害の種類」
①視覚障害
②聴覚又は平衡機能の障害
③音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害
④肢体不自由
⑤心臓、じん臓又はそしゃく機能の障害その他政令で定める障害。

・知的障がい者は、障害者総合支援法で「知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち18歳以上である者」とさけているが、知的障害者福祉法には知的障がい者を明確に定義する条項がない。

【障がい者の運動能力と運動指導】
健康運動指導士などの運動指導者がかかわる身体運動は、すでに心身の障害および機能が安定化した人に対して医療的な目的以外で行われる運動である。
・運動指導においては対象者が有する障害の特徴をよく理解し、それに適した運動を指導する必要がある。
・運動の可否、注意事項などに関する医師の所見を得るなど、医療サイドとの連携がとれていることが望ましい。

【運動指導の実際】
<身体障がい者の運動指導>

・肢体不自由者とは上肢、下肢あるいは体幹の機能障害をさす。
・その原因となる疾患には、脊髄損傷、脳血管障害、脳性麻痺、脊髄小児麻痺、骨関節疾患などがある。
「脊髄損傷の運動指導」
有酸素性作業能のトレーニングには自転車エルゴメーター、免荷装置付きのトレッドミル、車椅子エルゴメーター、上肢エルゴメーターなどを用いたトレーニング、アクアエクササイズなどがある。
「脳血管障害の運動指導」
片麻痺者のための有酸素性トレーニングには通常の自転車エルゴメーターや背もたれ付の自転車エルゴメーター(リカンベント式(背もたれ付のシート))、トレッドミル歩行などがある。
「脳性麻痺の運動指導」
軽度の脳性麻痺では高度な運動技術の遂行も可能である。しかし、個々の症状にバラツキがあるため、個々の状態を見極めたうえでのエクササイズプログラムの選択が必要である。
「知的障がい者の運動指導」
・知的障がい者は健常者に比べ概して体格が小さく運動能力も低いとされている。
・運動に参加する機会が少なく、絶対的な運動量が少ないため運動不足が引き金となる身体的不調につながる危険性が高い。
・スポーツなどの参加において、指導者の声掛けなど、モチベーションを高めて積極的に参加を促す配慮が必要になる。
「精神障害の運動指導」
精神障がい者は一般的に、糖尿病や高血圧の罹患率が高く、体力レベルが低く、肥満の割合が高い。スポーツや運動指導を行う際は個々の障害特性について十分理解しておく必要がある。

【身体障がい者の身体運動の重要性】
・障がい者の高齢化が進むに伴い、種々の二次的障害や生活習慣病の多発し重大な問題となっており身体運動の必要性が高まっている。
・従って、健康・体力の保持増進を目的とした身体運動の必要性が健常者以上に高まっている。

【Adapted Physical Activity(APA), Adapted Sports(AS)】
身体に障害のある人々の運動やスポーツのことを、かつては障がい者体育、障がい者スポーツと呼んでいたが、近年では障害の有無ではなく、高齢者や妊婦など実施に際して特別な配慮を必要とする人々が対象となる身体運動やスポーツを総称して、Adapted Physical Activity(APA), Adapted Sports(AS)と呼ぶようになってきた。

〖6.青少年期の成長発育と運動〗

【身長の発育】
・思春期における身長の発育が最も盛んになる時期の年間発育量は、平均で男性が約8㎝、女性で約7㎝ほどがあるが個人差も大きい。
・PHV年齢(※)は、平均的には女子が10歳、男子が12歳近辺であり、女子が2年ほど早い。

※「PHV年齢」
「身長発育速度ピーク年齢(PHV:Peak Height Velocity)」。身長の発育が最も盛んになる年齢のことで、この時期の身長の大きさは成人 になったときの身長と高い相互関係があるといわ れている。

【骨格の発育】
身長の発育には骨の成長が大きくかかわっている。
・骨の成長に影響を与える後天的な要因として、栄養、生活様式、運動、睡眠などが挙げられる。
・運動は骨の密度を高め皮膚の厚さを増加させる効果をもつが、身長の急進期に過度な負荷がかかるような運動を繰り返し行うことは、骨の長さの発育を抑制したり、軟骨組織に障害をきたす可能性がある。
【体重の発育】
体重の発育が身長発育と同様、第二発育急進期の始まりは女子の方が男子よりも早い、男子では14歳前後、女子では12歳前後である。

 

「第一発育急進期」:出生後の急激な発育。
「第二発育急進期」:思春期のきわめて急激な発育。

【体型の変化】
「カウプ指数」
幼児期(6歳ごろ)までは年齢による変化が少ないので乳幼児保健の分野で体形の評価に用いられる。
「ローレル指数」
7歳ごろから思春期前までがほぼ平坦とみなせるのでその時期(学齢期)の肥満の評価に用いることがある。
「生物学的年齢」
暦の年齢は違っていても同じ成長段階に達していると判断できる、身体の成熟度を示す尺度。
「骨年齢」
骨の発育は比較的規則正しく段階を経て進行することから、骨成熟を基準にした生物学的年齢として用いられる。
「身長年齢」
身長が同じである子どもは同じ発育段階に達していると考える。
「PHV年齢」
生物学的年齢として用いることができるが、その発現時期を経過しないと判定できない。

 

PHV年齢:身長発育速度ピーク年齢(age at peak height velocity)

【神経系の発達】
身体運動に関与する神経機能の一つの指標である反応時間の発達では、光刺激に対するスイッチ押し動作の単純反応時間は、小学生期に著しく短縮していき15歳くらいまでに完了する。
・すばやい動きののなかには神経の刺激伝達速度ばかりでなく、動きに対する判断や集中力などの心理的要因も大きくかかわっている。
・神経系の成熟が急速に進む小学生期までに神経回路を増やすべく多種多様な身体運動を体験することが推奨される。
・また、特に身体のバランス、協応性、タイミング、力発揮と調節、リズム感などが必要とされる動作を身につけるのに大切な時期ある。

【発育期の体肢組成変化】
「皮下脂肪断面積」
男子の皮下脂肪断面積は、12歳まで増加し、いったん減少するが14歳以降再び増加傾向を示す。
・女子の皮下脂肪断面積は、11~14歳にかけて急激に増加するがそれ以降には増加はみられない。
「筋断面積」
・男子は年齢が進むにつれて筋断面積は増加し、とくに12歳以降の増加が著しく増加は18歳ころまで続く。
・女子は年齢とともに増加する傾向を示し14~16歳前後までは増加していく。
・14歳以降に男女差が急激に拡大する。

【筋力の発達とトレーニング】
・とくに筋力の性差は13歳以降顕著であるが、単位面積当たりの筋力は、発育期においても性や年齢による差はみられない。
・思春期前の小学生ではトレーニングによる筋力増大に対する筋肥大の寄与は低い。
・その多くは運動単位活動量の増加や運動調節能力の向上なと、神経系の改善が主因である。
・関節などの骨格系器官の成熟過程であることを考慮し、とくに伸張性収縮を伴う動作様式でのトレーニングは控えるなど、過度な負担を避ける。

【持久性機能の発達とトレーニング】
・呼吸器としての肺の機能的・形態的変化を示す指標である肺容量は年齢に伴って増加し15歳前後で成人値に達する。
・最大酸素摂取量は、4~13歳ころまでほぼ直線的に増加する。
・男子では13~15歳にかけて急激に増加する。
・女子では14、15歳ごろピークとなりその後顕著な増加はみられない。
・持久的なトレーニングは、思春期以前にはトレーニング効果はなく、思春期以降になって顕著なトレーニング効果がみられるようになる。
・最高心拍数の80%強度程度の運動を30分間以上、少なくとも週3回程度行うことで、最大酸素摂取量は10%程度の向上がみられる。

〖7.女性の体力・運動能力の特徴と運動〗

【女性の身体的特徴】
・女性は男性と比べて除脂肪組織が少なく、体脂肪率が高い特徴がある。
・皮下脂肪率は、いずれの部位においても女性が男性より高い。
・筋断面積比率は、いずれの部位においても男性かせ女性よりも高い、その差は特に上腕において顕著。
【女性の体力の特徴】
・一般成人男女の身体各部の筋力は、どの部位においても女性が男性の55~65%でほぼ一定となる。
・絶対的な負荷で比較すると男性が女性より高い能力を示す。しかし、最大筋力に対する相対値で比較すると性差はみられない。
・無酸素性パワーと有酸素性パワーは、女性は団゛位の約3分の2の値になっている。しかし除脂肪体重当たりのパワーで比較すると男女差はなくなり、無酸素性パワーではむしろ女性の方が大きい。
・最大酸素摂取量は、絶対値で比較すると女性の値は男性の58.7~77.9%であり、体重当たりで比較すると68.3~86.2%、除脂肪体重当たりで比較すると83.8~98.9%とさらに差が小さくなる。
・ヘモグロビン濃度は、男性が15g/dLに対し女性は13.9g/dL、女性の方が低い。
【女性のトレーナビリティ】
・筋力増加の絶対値は男性の方が大きいが、相対的な増加(増加率)しほぼ等しい。
・筋肥大も同様に絶対的な増加量は男性の方が大きいが、相対的な増加はほぼ等しい。
・持久性トレーニングでは、トレーニングによる最大酸素摂取量の改善の大きさには男女間で差はない。
【月経周期と運動】
・正常女性では月経の直前に塩分と水分の貯留により体重が増加する。
・月経前には体調不良を感じる女性も多い、頭痛や腹痛のほか、気分の落ち込みやイライラなどが起こる。
・心理面の問題などに個人差があるため、運動スケジュールは個々に合わせる必要がある。
【妊娠と出産と運動】
運動指導者と妊婦自身は、運動実施における絶対的禁忌と相対的禁忌を十分に認識しておくことが重要。
「絶対的禁忌」
心疾患、破水、早朝の陣痛、多胎、出血、前置胎盤、頸管無力症、3回以上の自然流産
「相対的禁忌」
高血圧、貧血又は他の血液疾患、甲状腺疾患、糖尿病、動悸又は不整脈、妊娠末期の骨盤位、極端な肥満、極端なやせ、早産の既往、子宮内発育遅延の既往、妊娠中出血の既往、極端に日活動的な生活習慣

「妊婦のスポーツ安全管理基準」
「環境」

・真夏の炎天下に戸外で行うものは避ける。
・陸上スポーツは平坦な場所で行うことが望ましい。
「スポーツ種目」
・有酸素運動、かつ全身運動で楽しく長続きするものであることが望ましい。
・妊娠前から行なっているスポーツは基本的に中止する必要はないが運動強度の制限は必要である。
・競技性の高いもの、腹部に圧迫が加わるもの、瞬発性のもの、転倒の危険があるもの、相手と接触したりするものは避ける。
・妊娠16週以降では仰臥位になるような運動は避ける。
「運動強度」
・心拍数で150拍/分以下、主観的運動強度としては「ややきつい」(RPE 13)以下が望ましい。
・連続運動を行う場合には、主観的運動強度として「楽である」(PRE11)以下とする。
「運動の時間帯」
・午前10時から午後2時の間が望ましい。
・週2〜3回で1回の運動時間は60分以内とする。

【閉経期・閉経後の運動】
・閉経期には、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が低下するため、以下のような身体にさまざまな影響を及ぼす。
①生殖器官の萎縮により、膣、膀胱感染症、子宮脱に対する罹病性の増加。
②血中LDLコレステロールが上昇し、血管疾患のリスクが高まる。
③骨密度が低下し、骨粗鬆症、転倒による骨折リスクが増大。
④性腺刺激ホルモンに対するネガティブフィードバック作用の低下によって性腺刺激ホルモンが上昇し、更年期障害が現れる。

・骨盤底筋群を強化することで子宮脱の罹病性を減少、尿失禁の予防につながる。
・定期的な有酸素運動は、血中のLDLコレステロールを低下させも心血管疾患のリスクを低減させる。
・適度な運動は骨密度を増加させる。(※)

※閉経後の女性にカルシウムとビタミンDを十分に摂取させたうえで、ウオーキング、ジョギング、階段上りの運動を週3回、1日50~60分、ややきつい、きついと感じる強度で行ったところ、1~2年後明らかに骨密度が上昇した。

〖8.加齢に伴う体力の低下と運動〗

【加齢】
加齢加齢とは生まれてから死に至るまでの徐々にかつ自然に変化していく様を意味する。
「病理的加齢」
・心臓疾患、脳卒中、認知症などによって身体機能の低下に大きく影響を受けることをさす。
・しかしこの変化は加齢そのものが病理を引き起こすものではなく、加齢自体は病気ではない。
【体力・運動能力のピークと加齢変化】
「握力」
男女ともに6歳から発達するが、男性は30~34歳、女性は35~44歳ごろでピークに達し以後漸減している。
「上体起こし」
男女ともに6歳から発達し、14歳ごろをピークに低下している。75歳~79歳では若年期のピークのおよそ3割程度になっている。
「20mシャトルラン」
男女ともに14歳ごろまで著しい向上を示し、その後数年間の緩やかな低下傾向が示される。
「長座体前屈、反復横跳び、立ち幅跳び」
男女ともに6歳から発達、男性が17歳ごろ、女性が19歳ごろをピークにしてその後緩やかに低下する。

【身体活動と体力・運動能力と加齢変化】
・厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成29年報告)によれば、20歳から50歳までは男性が7500~8000歩/日、女性が6500~7000歩/日とほぼ横ばいとなっている。
・しかしその後低下し、70歳以上では男性が5219歩/日、女性は4368歩/日と60~70%まで減少している。
【加齢に伴う全身持久力の変化】
・加齢に伴うVO2maxは、20歳代までにピークに達する。
・その後、10年間当たりで約5~15%の低下が示されている。
・心機能は年齢が高くなると最高心拍数(HRmax)が減少し、VO2maxの低下につながる。
・加齢によるVO2maxの低下率は男女ほぼ同じ。
【加齢に伴う筋機能の変化】
・普通の生活状態では、20~50歳まで筋量の約5~10%が緩やかに減少。
・50歳代を過ぎたころから、急激に減少し筋量の減少は30~40%に及ぶ。
・60、70歳代では男女ともに1.5%/年ずつ減少するとみられている。
・加齢による筋量の減少をサルコペニアという。
・高齢者の筋力低下は上肢より下肢に顕著にあらわれる。
・高齢者において筋力が過度に弱い場合、日常生活動作(ADL)に支障をきたす。
【高齢者の有酸素運動と全身持久力改善】
・高齢者でも定期的な運動を継続した場合、VO2maxは10~40%程度改善する。
・有酸素運動はも呼吸循環機能を改善する。
・また、有酸素運動は糖・脂質代謝異常や血圧を改善する効果が期待される。
・加齢に伴い血圧が高くなるが、運動を継続することで収縮期血圧と拡張期血圧の降圧効果が期待される。
・高齢者は個人差が大きく、年齢はトレーニングの制限因子ではない。
・健康で体力水準の高い高齢者は段階的に高強度の運動プログラムを産生することも可能。
【中高齢者のレジスタンストレーニング】
・高齢者でも定期的な運動やレジスタンストレーニングにより、筋力、筋肥大、筋量の有意な増加がみとめられている。
・中高年者のレジスタンストレーニングでは、有酸素性運動と同様に糖代謝やインスリン抵抗性の改善が注目されている。
・糖尿病患者ではレジスタンストレーニングと有酸素性運動を複合的に行うことが推奨されている。
・一般的に高齢者は日常生活動作強度が低いので、過負荷の原理(※)を考えれば日常生活より高い水準の強度で十分な運動効果を得られる。

※「過負荷(オーバーロード)の原理」とは
トレーニングでは、体に一定以上の運動負荷を与えることで機能が向上するという原理。普段よりも少し負荷を多くすることで運動効果があらわれる。

「正常な加齢、病理的加齢」

第7章 運動傷害と予防

〖1.内科的障害と予防(1)(2)〗


【内科的スポーツ障害】

内科的スポーツ障害には急性スポーツ障害と慢性スポーツ障害がある。
「急性スポーツ障害」
・突然死、熱中症、横紋筋融解、急性アナフィラキシーショック、運動誘発性喘息、過換気症候群脇腹痛、side stitch(運動時間腹部痛)、低血糖症候群などがある。
・突然死の死因は心血管疾患がほとんどである。
「突然死の特徴」
①男性に多い。
②中高年に多い。
③若年者の場合の原因基礎疾患として肥大型心臓もしくは左冠動脈起始異常が多い。
④中高年の原因基礎疾患では心筋梗塞が際立って多い。
⑤年齢に関係なく原因基礎疾患の大部分は心血管疾患である。

[熱中症]
異常な体温上昇と脱水症状の合併し、体温調節機能が働かなくなった状態を熱中症と総称している。
「熱疲労」
全身倦怠感など循環不全状態が主症状。
「熱失神」
皮膚の血管が拡張して血圧が低下するため脳への血流が減少し失神やめまいが主症状。
「熱けいれん」
大量に汗をかいて水分のみ補給すると血液の塩分(ナトリウム)濃度が低下して筋けいれんを起こす。
「熱射病」
熱性発熱を起こし意識障害、見当識障害などの中枢神経障害が見られるようになり、重症では昏睡や痙攣、死に至る可能性が高くなる。
「水分補給の目安」
*運動前
・2~3時間前に500ml程度
・ウォーミングアップ後に200~250ml程度追加
*運動中
・1時間に1,000ml程度(10~15分ごとに200~250ml)
*運動後
・終了後に2時間以内に喪失した水分(汗と尿)を補給。
・発汗で減少した体重0.5kgごとに600ml程度補う。
・0.2%程度の食塩と5%程度の糖を含むもの。

【急性アナフィラキシーショック】
・運動が刺激になってアレルギー反応が起こり、マスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されて全身アナフィラキシー症状が出現する。
・重症では因頭部浮腫による呼吸困難で死に至るケースもある。
・発症時にはエピネフリン注射(エピペン)を使用し、必要に応じて救急蘇生を実施する。
・緊急時には健康運動指導士もエピペン(※)を使用できる。

 

※エピネフリン注射(エピペン)
エピペンの注射液の主成分はアドレナリンで副腎髄質で作られるホルモンの一種。エピペンは以下の働きがある。
1.心臓の働きを強くする。
2.血圧を上げる。
3.気管支を拡張させ、呼吸を楽にする。
エピペンは、処方された本人や保護者、学校の先生、保育士、救急救命士であれば緊急時に打つことができる。運動指導中の健康運動指導士も打つことができる

[運動誘発性喘息]
・運動によって誘発される喘息で気道閉塞をきたす疾患。
・気温が低く乾燥している冬季に多い。
・運動前に予防的に気管支拡張薬やステロイドを吸引させることもある。「過換気症候群」
・何かのきっかけで、呼気が過剰に行われ、吸気が不十分となった状態。
・症状は、息苦しい、呼吸がはやい、胸が痛い、めまいや動悸、冷や汗など。
[Side stitch(運動時側腹部痛)]
・左右の上腹部に起こることが多い。
・食後時間を空けずに激しい運動を行った場合に起こりやすい。
・胃や大腸内にガスが貯留している時に起こりやすい。
・食後すぐに運動しない。
・運動前には排ガスや排便を行う。
・運動前の食事は線維成分少ないものを摂取し発酵しやすいものはとらない。

【内科的慢性スポーツ障害】
[貧血]
・貧血はヘモグロビン値が基準値下限未満である状態。
・ヘモグロビンの正常範囲は、
一般男性14~18g/dL(アスリート約13.5~17.5)
一般女性12~16g/dL(アスリート約11.5~15.5)
アスリートの方が基準値が0.5g/dL低い。
「アスリートの貧血の頻度」
・アスリートがトレーニング中に貧血を起こすことが多い。
・アスリートのほうが一般人よりも貧血の割合が高く、鉄欠乏状態の割合も高い。
「アスリートの貧血の原因」
・ヘム合成障害をもたらす鉄欠乏である。
・三大原因は、「鉄の摂取不足」、「鉄の需要拡大」、「鉄の排泄増大」。
・食事での鉄摂取量不足が一番大きな原因。
・スポーツ実施者は、骨格形成のためにも多くの鉄分が必要。
・大量の汗により鉄が排泄される。
「アスリートの貧血予防対策」
・必要かつ十分な食事が重要。
・主な栄養素は鉄、たんぱく質、ビタミンCである。
・鉄の体内吸収率は、獣肉、魚肉、鳥肉などの動物性食品に含まれるヘム鉄が高く、野菜、乳製品、卵製品に多く含まれる非ヘム鉄で低い。

 

[オーバートレーニング症候群]
・用語も定義も機序に関してもいまだ確立されていない。
・一般的には生理的な疲労を十分な回復の過程をとることなく、積み重ねた結果として起こてきた慢性疲労の状態と考えられる。
「オーバートレーニング症候群(POMS試験)」
・POMS試験は、一時的な気分、感情の状態を測定でき るという特徴を有した65問の質問紙で「緊張」、「抑うつ」、「怒り」、「活気」、「疲労」、「混乱」の 6 つの気分尺度を同時に評価する。
「オーバートレーニング症候群の予防対策」
・トレーニングの期分け。
・競技会に向けてのテーパリング(競技前の調整)。
・パフォーマンスや精神状態に基づいてトレーニング強度や量を修正。
・トレーニング量に見合った適切なカロリー摂取を確実にする。
・運動中の適切な炭水化物摂取を確実にする。
・適切な睡眠を確実にする。
・精神的頑強さや快活さを増進させる。
・運動暴露間に6時間以上の安静時間を設ける。
・感染症、熱中症、高ストレス期間の後にはトレーニングを減らす。
・極端な環境状態を避ける。
・POMS試験を使用し、トレーニング量を変更する。

〖2.外科的損傷(頭部、頸部、上肢、体幹)〗

[頭部外傷]
<頭蓋骨の損傷>
原因:頭蓋骨の骨折は硬い物体との直接衝突で発生する。
症状:・頭蓋骨が大きな衝撃を受けた場合、脳に悪影響を及ぼすことが多い。骨折の場合、部位や程度により脳挫傷や脳出血を起こすこともある。
応急処置:意識障害や脳神経症状がある場合は、即座に救急車を要請する。意識レベルや呼吸管理と手足の動きに注意して心肺蘇生の準備をする。

<脳の損傷>
「脳振盪」
脳振盪とは、頭部が何らかの衝撃を受けた際に発現する神経の機能障害で意識消失、意識障害、記憶障害、けいれん等の症状が発現する。
「診断」
SCAT2が世界的に普及している。その簡易版がポケットSCAT2(下図)がわが国のコンタクトスポーツの現場でも活用されている。

 

「応急処置」
頭痛、平衡機能障害などの神経障害がない場合でも、セカンドインパクト症候群(※)や脳振盪後症候群(※)への移行を避けるために当日のプレー復帰は控える。
基本的には医療機関への搬送を優先するが、難しい場合は安静を厳守させる。

 

※「セカンドインパクト症候群」
脳振盪や軽症の頭部外傷を受け、数日から数 週間後に 2 回目の頭部外傷を負い致死的な脳腫脹をきたすこと。
※「脳振盪後症候群」
いつまでたっても頭痛やめまい、物忘れ、易怒性、不眠などを継続している状態。

「治療」
安静を第一にし、通常では1~2週間の安静後に症状がないことを確認して段階的に運動に復帰させる。

「急性硬膜下血腫」
スポーツではもっとも頻度が高く、脳表の組織が外傷によって挫滅し脳表血管が切れ、硬膜下腔に出血し、脳実質を圧迫する。
「治療」
血腫の程度により保存的治療又は手術が選択される。

【頸部】
<頸部の外傷>
「頚椎脱臼骨折、頸髄損傷」
・水飛び込み、頭を下げてのタックルや柔道の投げ技で。登頂からの軸圧や過屈曲損傷により中下位に頸椎に発生、頸椎脱臼骨折を合併する場合としない場合がある。
・頸髄損傷を念頭に救急車を要請。
・呼吸中枢C4まで頸髄圧迫が及ぶと呼吸が停止するので、心肺蘇生の準備をしておく。
「一過性四肢麻痺」
・受傷後に四肢の麻痺が数分〜24時間以内に回復するため,回復のよい中心性脊髄損傷と考えられている。
・椎間板ヘルニアがあると過屈曲や過伸展により発生する場合がある。
・しかし振戦やしびれが残存したり、麻痺回復後にコンタクトスポーツに復帰して頸髄損傷を発生した報告がある。
「バーナー症候群」
・ラグビーなどでタックルにより肩や頸部に強い衝撃を受けた際に頸部から上肢にバーナーで焼かれるような痛みが生じる障害。
・上肢のしびれや疼痛、握力の低下などの症状がある場合はプレーを中断し症状が消失すれば当日でもプレーへの復帰可能。
「鎖骨骨折」
・転倒して肩を打撲したり、膝が直接入ったなど直達的な外力により発生する。
・症状は、痛み、変形、骨折部の圧痛、異常な可動性など。
・応急処置は、三角巾固定、8字包帯固定、アイシングなど。
・治療は、状態により手術または保存療法。
「肩鎖関節脱臼」
・転倒して肩を打撲したり、膝が直接入ったなど直達的な外力により発生する。
・症状は、痛み、変形、骨折部の圧痛、異常な可動性、ピアノ・キー・サイン(※)など。
・応急処置は、三角巾固定、8字包帯固定、アイシングなど。
・治療は、保存治療、Ⅲ度(完全脱臼)は手術のこともある。

 

※「ピアノ・キー・サイン」
鎖骨を指で押すとピアノの鍵盤のごとく浮沈すること。

「肩関節脱臼」
・多くは肩関節が外転、外線強制されて起こる。
・スポーツでは前下方脱臼が多い。
・関節脱臼では最も発生頻度が高い。
・症状は疼痛、挙上不能、肩の丸みが消失。
・応急処置は上腕頭骨の壊死を避けるためできる限り早く整復する。
・10~20歳代では再発しやすい。
・治療は、初回脱臼では3週間の三角巾固定。再発を繰り返すようなら手術が必要である。
「肘関節脱臼」
・体操や柔道などで転倒したときに、肘を伸展かやや屈曲して手をつくことで尺骨が上腕骨頭の後方に外れる後方脱臼が一般的。
・症状は痛み、腫れ、変形。
・応急処置は、三角巾固定、アイシング後に医療機関受診。
・治療はできる限り早く整復し、2週間程度のギブス固定。
「野球肘」
・成長期にボールを投げすぎることによって生じる肘の障害で肘の伸びや曲がりが悪くなり、急に動かせなくなることもある。
・症状として投球時の痛みや関節の可動域制限。

〖3.外科的損傷(腰部、下肢)〗

「椎間板ヘルニア」
・背骨の骨と骨の間にある椎間板の中心部の髄核が、何らかの外力によって線維輪の亀裂から飛び出して神経に当たり、手足の痛み、しびれなどの症状を起こす。
・腰椎では第4と第5腰椎間に好発する。
・日常生活でも比較的軽微な負荷でもよく起こり得る。
・主な症状は、腰痛や下肢神経症状であり、下肢神経症状は髄核の突出が脊髄神経根を圧迫して起こる。下肢の痛みは坐骨神経痛で臀部から大腿の後面、腓腹部に深い痛みを生じる。
・診断は、MRI検査により突出を証明する。
・治療は、安静を心がけ、前屈を避ける。コルセットで体幹固定。保存療法である程度改善するが、いったん突出した髄核は元に戻ることはなく、再発も多い。
・再発防止には、体幹筋の機能保持による骨盤リズム(※)の保持に努める。

 

※「腰椎骨盤リズム」
脊柱と連動して骨盤が動く動きのこと。

「腰椎圧迫骨折」
・骨密度が低下すると日常生活の軽微な負荷でも生じる。
・骨粗鬆症が原因の場合、腰椎の圧迫による変形が時間経過とともに進行、腰痛持続期間は数か月以上にわたる。
・高齢者が運動中に腰痛を訴え始めた場合は腰椎圧迫骨折の疑いがあるためX線検査を行う。

「大腿部頸部骨折」
・骨粗鬆症のある高齢者は転倒により生じることがある。
・立位歩行が困難で手術的治療が行われる。

「大腿部の肉離れ」
・ハムストリングスと大腿四頭筋(特に大腿直筋)は肉離れを起こしやすい。
・肉離れ直後の痛みは数週間で引くが治療の目安にならない。
・運動再開には医師の診断が必要。
・治療はストレッチと筋力強化の組み合わせ。
・運動再開の目安は、股関節、膝関節の可動域、関節周囲筋の筋力がもどること。
「靭帯損傷」
・靱帯が耐え切れないほどの強い力が加わり伸びたり切れたりした状態を靱帯損傷といい、膝に加わった力の向きによって損傷する靭帯が異なる。
・ジャンプで着地時にひねって靭帯を損傷することもある。
・損傷直後はRICE処置、損傷靭帯の部位や状態により治療法が異なるため、専門医の確実な診断が必要。
・前十字靭帯損傷は手術的治療が必要。
・後十字靭帯、内側側副靭帯の損傷は膝周囲筋や股関節周囲筋の筋力訓練を中心に保存的に治療する。

「膝蓋腱症炎」
・ジャンパー膝とも呼ばれ、バレーボールなどでジャンプや着地動作を頻繁に行うスポーツに多くみられる。オーバーユースに起因する膝のスポーツ障害。
・10歳前後の成長期には脛骨粗面が盛り上がって痛みを生じる「オスグット・シュラッター病」と呼ばれる。

「変形性膝関節症」
・加齢や筋肉量の低下、運動負荷などにより関節面の軟骨がすり減って関節炎症により痛みが生じる。
・運動負荷にて骨のへりにトゲのような突起物ができたり、骨が変形する。

 

中高年者の慢性的な関節痛の原因は関節変形の可能性がある。腱や靭帯の強さは加齢とともに低下する。よって運動量や強度には限度があることを理解することが急性損傷や慢性的な痛みの予防につながる。

「アキレス腱断裂」
・スポーツで好発する。
・断裂の瞬間は「ボールが当たった」、「後ろから蹴られた」ような主に衝撃感を受ける。
・治療は、ギブス固定、手術的縫合など。

「疲労骨折」
・慢性的なスポーツ障害のひとつで、ジョギングやランニングなど同じ動作を繰り返すスポーツ選手に多くみられます。
・シンスプリントとも呼ばれる。
・対処として、運動負荷を減らす。
「ジョーンズ骨折」
・足部の第5中足骨の近位の疲労骨折。
・難治性。
「足底腱膜炎」
偏平足では内側アーチ構造が失われ踵と足の指の付け根までを伸びている足底腱膜が炎症をおこして痛みを生じる。

まとめ

資格試験に合格するためにはテキストの読み込みと練習問題を解くことが重要です。

本ページは第1章から第7章までの用語解説を基本に掲載しています。

スキマ時間を利用してこまめな学習にご利用いただけると幸いです。

当研究会は2022年版のテキストから重要な用語を中心に第1章~第15章から「全440問+トライアル75問」をご用意しました。

「トライアル75問」は、実際の試験を想定した構成にしてあります。

問題集はテキストの内容や順番に沿って作成しています。

解答にはテキストのぺージ数を載せているので膨大なテキストからポイントをつかみながらの学習ができます。

 

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①学習のポイント
②問題集440問
③図・表から厳選46問
④トライアル試験75問-Ⅰ(試験形式)
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