第11章 運動プログラム作成とメディカルチェック
はじめに
健康づくりや疾病予防のために運動を実施する際には、単に運動を行えばよいわけではありません。対象者の年齢や体力、健康状態、既往歴、服薬状況などを十分に把握したうえで、安全かつ効果的な運動プログラムを作成することが重要です。
特に近年は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満症などの生活習慣病を有する人や、高齢者を対象とした運動指導の機会が増加しています。そのため健康運動指導士には、運動生理学や体力評価の知識だけでなく、医学的リスクを理解し、安全管理を行いながら運動を処方する能力が求められています。
本章では、運動プログラム作成の基本的な考え方をはじめ、健康診断結果や安静時心電図の読み方、メディカルチェックの重要性、服薬者への対応について学びます。さらに、生活習慣病を有する人に対する具体的な運動療法プログラムの作成方法についても理解を深めます。
健康運動指導士試験では、
- FITT原則
- メディカルチェック
- 冠危険因子
- 安静時心電図
- 服薬者への運動指導
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症への運動療法
などが頻繁に出題されます。
本章は、健康運動指導士として安全で効果的な運動指導を実践するための基礎となる重要な内容です。知識を単なる暗記で終わらせず、「なぜその評価や運動処方が必要なのか」を理解しながら学習を進めましょう。
本章で学ぶ主な内容
- 運動プログラム作成の基本原則
- FITT原則と運動処方
- 健診結果の見方
- 安静時心電図の基礎知識
- メディカルチェックの目的と方法
- ACSMの運動参加前スクリーニング
- 冠危険因子の評価
- 服薬者への運動指導上の注意
- 生活習慣病に対する運動療法
- 安全管理とリスクマネジメント
これらは健康運動指導士試験における重要分野であると同時に、実際の運動指導現場で最も活用する知識でもあります。対象者の健康状態を正しく評価し、安全かつ継続可能な運動プログラムを提供できる力を身につけていきましょう。
【図解】第11章 運動プログラムの実際のスライド
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ストレッチングとは
1.運動プログラム作成の基本
健康づくりのための運動は、「とにかく運動を行えばよい」というものではない。対象者の健康状態や体力、運動経験、生活環境などを十分に評価したうえで、安全かつ効果的な運動プログラムを作成する必要がある。
運動プログラム作成の目的は、
- 健康の維持・増進
- 生活習慣病の予防・改善
- 体力向上
- 介護予防
- QOL(生活の質)の向上
などである。
健康運動指導士は対象者ごとに適切な運動処方を行うことが求められる。
運動プログラム作成の流れ
運動指導は一般的に次の流れで進める。
① 情報収集
まず対象者の情報を把握する。
確認項目
- 年齢
- 性別
- 職業
- 生活習慣
- 運動歴
- 既往歴
- 現病歴
- 服薬状況
② メディカルチェック
運動実施の安全性を確認する。
特に
- 高血圧
- 糖尿病
- 心疾患
- 整形外科疾患
などがある場合には注意が必要である。
③ 体力評価
現在の体力レベルを把握する。
主な測定項目
- 握力
- 長座体前屈
- 開眼片脚立ち
- TUG
- 体組成
④ 目標設定
具体的な目標を設定する。
例
- 体重を3kg減量する
- 血圧を改善する
- 腰痛を予防する
- 週3回運動する
目標は具体的で達成可能な内容が望ましい。
⑤ 運動処方
運動の内容を決定する。
FITT原則
運動処方で最も重要な考え方である。
F(Frequency)
頻度
週何回実施するか
例
週3~5回
I(Intensity)
強度
どの程度の強さで行うか
例
最大心拍数の50~70%
T(Time)
時間
1回あたりの実施時間
例
20~60分
T(Type)
種目
どの運動を行うか
例
- ウォーキング
- 自転車
- 水泳
- レジスタンス運動
運動プログラムの構成
一般的な運動プログラムは次の構成で行う。
ウォームアップ
5~10分
目的
- 体温上昇
- 傷害予防
- 心拍数上昇
主運動
20~60分
目的
- 持久力向上
- 脂肪燃焼
- 筋力向上
クールダウン
5~10分
目的
- 疲労回復
- 心拍数正常化
- 筋緊張緩和
2.健診結果の見方
健康診断結果は運動指導において極めて重要である。
異常値がある場合には運動強度の調整や医療機関受診の勧奨が必要となる。
BMI
BMI
=体重(kg)÷身長(m)²
判定
- 18.5未満:やせ
- 18.5~24.9:普通
- 25以上:肥満
腹囲
内臓脂肪蓄積の評価指標
基準値
- 男性 85cm以上
- 女性 90cm以上
血圧
正常血圧
収縮期120mmHg未満
かつ
拡張期80mmHg未満
高血圧
収縮期140mmHg以上
または
拡張期90mmHg以上
血糖
空腹時血糖
126mg/dL以上
↓
糖尿病型
HbA1c
糖尿病管理指標
6.5%以上
↓
糖尿病診断基準の一つ
脂質
LDLコレステロール
140mg/dL以上
↓
高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール
40mg/dL未満
↓
低HDLコレステロール血症
中性脂肪
150mg/dL以上
↓
高トリグリセライド血症
3.安静時心電図の基礎知識
心電図は心臓の電気的活動を記録したものである。
運動指導前のリスク評価として重要である。
正常洞調律
健康な人にみられる正常なリズム
試験では頻出である。
徐脈
心拍数
60回/分未満
スポーツ選手では正常なことも多い。
頻脈
心拍数
100回/分以上
発熱や心疾患などでみられる。
不整脈
脈拍のリズム異常
代表例
- 心房細動
- 期外収縮
ST-T変化
虚血性心疾患の可能性を示す重要所見
運動開始前には医師の評価が必要となる。
4.メディカルチェックの重要性
運動による事故を防ぐためには、運動開始前のメディカルチェックが欠かせない。
メディカルチェックの目的
① 運動禁忌者の発見
運動によって危険が生じる可能性のある人を見つける。
② リスクの把握
運動中の事故発生リスクを評価する。
③ 適切な運動処方
安全な運動強度を決定する。
問診で確認する内容
- 胸痛
- 動悸
- 息切れ
- めまい
- 失神
- 高血圧
- 糖尿病
- 心疾患
- 家族歴
冠危険因子(超重要)
健康運動指導士試験で頻出である。
年齢
男性45歳以上
女性55歳以上
家族歴
若年発症の心血管疾患
喫煙
現在喫煙
または禁煙後6か月未満
身体活動不足
定期的運動習慣がない
肥満
BMI25以上
または腹囲基準超過
高血圧
140/90mmHg以上
脂質異常症
LDL高値
HDL低値
糖尿病
糖代謝異常
PAR-Q
運動参加前質問票
Physical Activity Readiness Questionnaire
運動実施前の簡易スクリーニングとして利用される。
5.服薬者への運動指導
近年は服薬しながら運動する人が増加している。
健康運動指導士は薬剤の影響を理解しておく必要がある。
β遮断薬
高血圧や狭心症で使用される。
特徴
心拍数上昇を抑える。
指導上の注意
心拍数による運動強度管理が困難になる。
↓
RPEを活用する。
利尿薬
高血圧治療薬
注意点
- 脱水
- 電解質異常
夏季運動では特に注意する。
血糖降下薬
糖尿病治療薬
注意点
運動により低血糖を起こす場合がある。
症状
- 冷汗
- 動悸
- 手の震え
- 意識低下
抗凝固薬
血栓予防薬
注意点
転倒や外傷による出血リスクが高まる。
前半の試験頻出ポイント
✓ FITT原則
✓ 運動プログラム作成の流れ
✓ BMI
✓ 腹囲基準
✓ 血圧基準
✓ HbA1c
✓ 正常洞調律
✓ 冠危険因子
✓ PAR-Q
✓ β遮断薬
✓ 利尿薬
✓ 血糖降下薬
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【図解】第11章 運動プログラムの実際のスライド
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6.生活習慣病と運動療法
生活習慣病は、不適切な食習慣、運動不足、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣が発症や進行に関与する疾患群である。
代表的な生活習慣病
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 肥満症
- メタボリックシンドローム
これらの疾患では運動療法が治療の基本となる。
7.運動療法の目的
運動療法の主な目的は次のとおりである。
① 心肺機能の向上
持久力を高めることで日常生活動作が容易になる。
② 体脂肪の減少
エネルギー消費量を増加させ肥満改善につなげる。
③ 血圧改善
有酸素運動は降圧効果を有する。
④ 血糖改善
骨格筋での糖利用を促進する。
⑤ 脂質代謝改善
HDLコレステロール増加
中性脂肪低下
が期待できる。
⑥ QOL向上
身体的・精神的健康の向上につながる。
8.高血圧に対する運動療法
高血圧は生活習慣病の中でも特に患者数が多い疾患である。
運動療法は降圧効果を持ち、薬物療法と並ぶ重要な治療法とされている。
運動の効果
継続的な有酸素運動により
- 収縮期血圧低下
- 拡張期血圧低下
が期待できる。
推奨される運動
有酸素運動
代表例
- ウォーキング
- 自転車運動
- 水中運動
- ジョギング
強度
中等度強度
最大酸素摂取量の40~60%程度
頻度
週3~5回以上
できれば毎日
時間
30~60分
注意事項
重度高血圧では医師の管理下で実施する。
息こらえを伴う高強度筋力トレーニングは血圧上昇を招くため注意する。
9.糖尿病に対する運動療法
糖尿病では食事療法と並び運動療法が基本である。
運動の効果
インスリン感受性改善
筋肉が糖を利用しやすくなる。
血糖値改善
運動後も効果が持続する。
肥満改善
体脂肪減少につながる。
推奨される運動
有酸素運動
- ウォーキング
- 自転車
- 水泳
レジスタンス運動
筋量増加によって糖代謝改善が期待できる。
注意事項
低血糖
インスリンや血糖降下薬を使用している場合は注意が必要である。
症状
- 冷汗
- 動悸
- 手指振戦
- 強い空腹感
運動中止基準
血糖値が極端に高い場合やケトアシドーシスが疑われる場合は運動を行わない。
10.脂質異常症に対する運動療法
脂質異常症は動脈硬化の主要危険因子である。
運動の効果
HDLコレステロール増加
善玉コレステロール増加
中性脂肪低下
トリグリセリド減少
体脂肪減少
内臓脂肪改善
推奨運動
中等度の有酸素運動を継続することが重要である。
11.肥満症に対する運動療法
肥満症ではエネルギー収支の改善が基本となる。
運動の目的
- エネルギー消費量増加
- 内臓脂肪減少
- 生活習慣病予防
推奨運動
有酸素運動
最優先
レジスタンス運動
筋量維持
基礎代謝維持
注意点
肥満者では
- 膝関節
- 股関節
- 腰部
への負担が大きい。
そのため
- 水中運動
- 自転車運動
なども有効である。
12.メタボリックシンドロームと運動
メタボリックシンドロームは
内臓脂肪蓄積
+
複数の代謝異常
を有する状態である。
判定基準
腹囲
男性 85cm以上
女性 90cm以上
加えて
- 高血圧
- 高血糖
- 脂質異常
のうち2項目以上
運動の目的
- 内臓脂肪減少
- 血糖改善
- 血圧改善
- 脂質改善
13.運動療法プログラム作成の実際
生活習慣病患者への運動処方ではFITT原則を活用する。
事例① 高血圧男性(60歳)
目標
血圧改善
体力向上
処方例
頻度
週5回
強度
ややきつい
(RPE11~13)
時間
30~40分
種目
ウォーキング
事例② 糖尿病女性(55歳)
目標
血糖コントロール
体重減少
処方例
有酸素運動
週5回
30分
レジスタンス運動
週2~3回
事例③ 肥満男性(50歳)
目標
体重減少
内臓脂肪減少
処方例
ウォーキング
40~60分
週5回以上
レジスタンス運動
週2回
14.運動療法継続のポイント
どれほど優れた運動処方でも継続できなければ効果は得られない。
行動変容支援
重要な支援内容
- 目標設定
- 記録
- フィードバック
- 励まし
セルフモニタリング
- 歩数計
- 活動量計
- 運動日誌
などを活用する。
楽しさの確保
継続の最大要因は楽しさである。
15.運動中止基準
以下の場合は運動を中止する。
循環器症状
- 胸痛
- 強い動悸
- 息切れ
神経症状
- めまい
- 失神
その他
- 顔面蒼白
- 異常発汗
- 強い疲労感
健康運動指導士試験頻出ポイント
最重要
- FITT原則
- 冠危険因子
- PAR-Q
- β遮断薬
- 利尿薬
- 高血圧運動療法
- 糖尿病運動療法
- 脂質異常症運動療法
- メタボリックシンドローム
覚える数値
高血圧
140/90mmHg以上
糖尿病
空腹時血糖126mg/dL以上
HbA1c 6.5%以上
腹囲
男性85cm以上
女性90cm以上
試験でよく出る組み合わせ
| 疾患 | 推奨運動 |
|---|---|
| 高血圧 | 有酸素運動 |
| 糖尿病 | 有酸素+レジスタンス |
| 脂質異常症 | 有酸素運動 |
| 肥満症 | 有酸素+レジスタンス |
| ロコモ予防 | レジスタンス運動 |
まとめ
運動プログラム作成では、対象者の健康状態や体力を正しく評価し、安全性を確保したうえで適切な運動処方を行うことが重要である。生活習慣病に対する運動療法では、有酸素運動を中心にレジスタンス運動を組み合わせることで、血圧・血糖・脂質の改善や体重減少が期待できる。
健康運動指導士は、メディカルチェックから運動処方、継続支援までを総合的に行う専門職として重要な役割を担っている。
【図解】第11章 運動プログラムの実際のスライド
Skip to PDF content
さらに学習を進めたい方へ
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